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トップリーダーと学ぶワークショップ
TOP東進タイムズ 2022年10月号

世界で新しい価値を創り
2億人のお客様に感動を提供する(柳 弘之先生)

ヤマハ発動機株式会社 顧問(前社長 会長)

柳 弘之先生

【ご講演内容】

研究やビジネスの最前線を走る“現代の偉人”を講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回はヤマハ発動機で社長、会長を歴任され、現在は顧問を務める柳弘之先生をお招きして「君たちは、世界で感動を創れるか?」をテーマに、グローバルな視野の重要性や感性を磨くための心構えなどについて講演いただいた。

ブランドは企業の存在意義

少し意識してまわりを見てみましょう。世の中はブランドに溢れていて、誰もが日々普通に接しています。最近は企業だけでなく、皆さんが志望する大学も独自ブランドを発信している。さまざまな組織経営が、ブランドマネージメントとして扱われる風潮があります。

それぞれのブランドは、必ず自分たちの目指す目的を明らかにしています。例をあげると、スターバックスが目指しているのは「人々に第三の空間を提供する」です。第三の空間とは家庭ではなく職場や学校でもない、まったく異なる空間であり、そこで心地よく過ごしてもらうのがスターバックスの目的です。ユニクロは、「アフォーダブルな価格で手に入るカジュアルな服で心地よく過ごしてもらう」という目的です。

ブランドの目的・目指すものはMVV(Mission・Vision・Value)と言われてきました。最近、Purposeとも言われて、企業の存在意義を意味しています。企業にとって大事なのは、ブランド源流を継承しながら、常に新しい何かに挑戦する情熱を保ち続ける姿勢です。

ヤマハの源流を遡ると音楽と技術への挑戦に辿り着きます。その歴史は1887年、山葉寅楠が作った日本初のオルガンから始まりました。

現在ヤマハ発動機と音楽のヤマハ、二つの会社があり、いずれも感性と技術を大事にして、「お客様の期待を大きく超えて感動を創る」をブランド憲章のなかで共有しています。感性と技術を大事にしながら感動を創ることがヤマハの仕事であると、私自身もずっとそう思ってきました。

高付加価値高価格帯がターゲット

ヤマハはどんな製品を創ってきたのか。皆さんとの日常の接点では、各種楽器、音楽教室やボーカロイド等があり、一方 ではオートバイ、電動アシスト自転車、ボート・マリンエンジン等。意外なところでは、ヤマハ発動機は日本最大のプールメーカーです。FRP(繊維強化プラスチック)の材料・加工技術を応用して、プールを成形・施工しています。日本ではトップシェアです。

製品や製品体験に共通する、ブランド価値観を表す言葉がブランドスローガンです。2012年につくったヤマハ発動機のスローガンは「Revs Your Heart」、「Rev」 はエンジン回転を上げるという意味の言葉で、 「心躍る豊かな瞬間、最高の感動体験を。ヤマハと出会うすべての人々へ。」という思いを込めています。

さらに、ヤマハらしさ、ヤマハの価値観を表現しようと五つの漢字「発・悦・信・魅・結」に辿り着きました。 「発」 はイノベーティブな発想・発信につながるコンセプト。「悦」 「信」は技術、エキサイティングでありながらも高い信頼性の技術です。 「魅」はデザイン、デザインをとても大事にするブランドです。最後の「結」はマーケティング、お客様との結びつきです。

ビジネスでは、対象とするお客様を絞り込む必要があります。一般的にピラミッド構造となる市場の中で、どの領域を目指すのか(資料1)。ヤマハが優先するのは、高付加価値の高価格帯です。お客様の数は少ないけれども高収益な市場に向けて、個性的な製品を提供する。そのためには五つの漢字の中でも「発」が重要であり、常に新しい発想・発信にチャレンジし続ける必要があります。

「発」 即ちイノベーションは、人と技術と価値観の多様な組み合せから生まれます。例えばオートバイは一定以上の高速になると、ジャイロ効果により比較的安定します。低速になると、不安定になって倒れるのです。そこで、低速でも倒れないオートバイを創ろうと考えて「モトロイド」プロジェクトを立ち上げました。多様な人・技術・価値観を組み合わせて、新しい感動体験を発案したモトロイドは、2019年に世界3大デザインアワードのすべてにおいてトップ受賞しました。

改めて、私なりにブランドを定義すると「企業としての個性を創る力、発揮しようとする情熱、継承する力」ということです。発想、発信、さらに個性を大事にして感動を創る。これがヤマハブランドです。

資料1

資料1

舞台はグローバル、売上の92%が海外

ヤマハはどこで、どのようなお客様に価値提供しているのか。実は、売上高の92%が海外です。ヤマハの歴史は世界中でお客様価値を探し続けてきた歴史とも言えます。世界は大きく開発途上国、新興国、先進国に分類され、それぞれの地域によって提供する価値は変わってきます。

アフリカを代表とする開発途上国では、 「豊かな日常」 。若者文化真っ盛りの新興国では「旬の日常」 、そして先進国では「人機官能・心躍る瞬間」を提供しています。

私は入社直後、アフリカで新工場を立ち上げるプロジェクトに加わりました。1980年に訪れた先はナイジェリアで、その時点でアフリカの人々は、ヤマハをよく知っていました。その背景は、ヤマハが1970年からアフリカ各国政府と連携して、漁業振興の仕事に取り組んでいたからです。漁業は、漁獲だけではなくて、冷蔵・保存、加工さらに輸送に至るまで一連のプロセスがあります。ヤマハは、その一連の仕事を指導してきました。

さらに、耐久性が低かった木造漁船から軽量・高強度のFRP漁船へと生産技術指導を行い、安全性を高めるためにマリンエンジンのサービス網を広げてきました。そうした取り組みが、雇用拡大にもつながったのです。その結果、アフリカの54カ国中、52カ国にヤマハのネットワークが広がりました。今アフリカで、安全な水を作るプロジェクトに取り組んでいます。世界中で11億人もの人々が安全な水を得られない現状があり、特にアフリカでは顕著な問題になっています。安全な水を作り、豊かな日常を実現する取り組みに力を入れています。

新興国、特にアセアンやインドでは、多くの若者達がオートバイを楽しんでいます。若者たちの旬の日常を創るために、表現力・微差力を大事にしています。先駆者としての表現力を発揮しながら、最少コストで新しい価値を実現して「飛ぶ」。そんな製品創りに取り組んでいます。

先進国では、 「人機官能」による先進技術で価値を先鋭化しています。これを象徴するヤマハのフラッグシップモデルが「YZF-R1」です(資料3)。このオートバイは、市販されているあらゆる乗り物の中で、性能を表す数値である「パワーウエイトレシオ」を1.0以下にした世界初の製品です。また、電動アシスト自転車は、世界初のパワーアシスト概念の乗り物として、ヤマハが1993年に市場導入したものです。市場成長に長い年月がかかりましたが、新しい製品創りやマーケティング努力によって、2010年に子育てするお母さんたちの間で一気に需要が高まり、2020年には高校生の間で爆発的に売れるようになりました。

 

資料2

  資料2  
 
 

資料3

  資料3  

世界で2億人のお客様とつながる

新しい価値を世の中に提供し、新しい市場を生み出す。企業にとっては、新たな市場を開発する力がとても重要です。では、お客様に必要とされる価値をどうやって創り出していくのか。大切なのはお客様接点で、ヤマハは七つの接点を定義しています(資料4)。

ヤマハを認知する、興味を持つ、調べる、お店やイベントを訪問する。そして製品を購入したら、製品やサービスを体験し、その価値観を周囲の人達と共有する。このサイクルをぐるぐる回しながら、世界中で2億人のお客様たちとつながろうとしています。

どの企業もブランドを大切にして、新しい価値を世の中に提供しようと努力しています。その概念や実践論を学んで応用し、皆さんも個性豊かなタレント(才能のある人)になってください。

これからのキャリアのなかで大事にするべきものは、3現感覚(現場・現物・現実)、グローバル感覚、豊かな感性でしょう(資料5)。いずれも「観る」に始まって、何か新しい価値を「創る」ことがゴールです。大学は、「観る」手法を学べる場であり、そこから発想や発案につながる訓練ができる場です。

「観る」 に始まって 「創る」ことを目指す姿勢を心がけ、好奇心を目一杯ふくらませながら、いろいろな経験に挑戦して、感性を磨いてください。

資料4

資料4

資料5

資料5

ワークショップ【優勝したチームのプレゼン内容】

世界を舞台に、どういうビジネスにチャレンジすべきか

SDGsによる環境保全の先を行き、環境改善を目的としたビジネスを考えました。そのために生物、医療、情報と技術、応用化学とバイオテクノロジーなどを使ってアプローチします。具体的なテーマは、生分解性プラスチックや石灰水と水だけで作られる紙の活用です。地球環境の悪化とともに、こうした素材を活用するビジネスには成長の可能性があると考えました。ビジネスを実現するために一人ひとりが視点を変えて学ぶプロセスが、自己成長につながります。自分自身でも環境に優しい素材を使い、地球に優しい生活をしたいと思います。

ワークショップの写真

ワークショップ【講評】

先生の講評

環境は、重要テーマです。これに絞り込んだうえで、さらに良かったのが領域融合の考え方です。多分野を融合させて解決策を探り、新たな価値を探すアプローチを高く評価します。企業や研究者も縦割りで進んできたため、解決の糸口を見出しにくくなっていました。今、領域融合は新しい取り組みとして注目されています。文理融合のレベルにとどまらず、多様な領域融合で、大学を変えるぐらいの意気込みで取り組んでください。

スゴイ大先輩に学ぼう

タイトル

ナガセの教育ネットワーク

教育力こそが、国力だと思う。