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トップリーダーと学ぶワークショップ
TOP東進タイムズ 2023年1月号

将来を描くヒント
職業ではなく、何を実現したいのか
(松ヶ崎 穂波先生)

株式会社三井住友銀行
執行役員人事部研修所長

松ヶ崎 穂波先生

【ご講演内容】

研究やビジネスの最前線を走る“現代の偉人”を講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」の特別編「女子生徒のためのワークショップ」。今回は三井住友銀行で執行役員を務める松ヶ崎穂波先生をお招きして「“はたらく”は、楽しい!」をテーマに、仕事を通じて社会で活躍するための基本的な考え方や心構えなどについて講演いただいた。

「何になりたいか」ではなく「何をしたいか」

「大人になったら何になりたい?」

皆さんも幼い頃から尋ねられるようになり、大人になるまで何度も聞かれる質問ではないでしょうか。そんなふうに問われると、自然に「何になりたいか」を考えるようになります。私はなんと、小学校の卒業文集に国連事務総長になると書いていました。なかなかスケールが大きいでしょう。

でも「何になりたい?」というのは、実は本質を突いていないかもしれません。なぜなら大切なのは、「何になりたいか」ではなく、「何をしたいのか」だから。私自身も小学生のとき国連事務総長になって何をしたいんだろうと改めて考えると「社会を良くする」だったとわかりました。それ以降も、革命家、思想家、国連職員となりたいものは変わったけれど、実はずっと「社会を良くする」と考えていたのだと後に悟ったのです。

とはいえ大学を卒業するときは、国連で働きたいと考えていました。けれども、国連には大学院を出るか、職業経験が10年以上ないと入れません。だからまず国連につながりそうな政府系の金融機関で働こうと考え、力試しのつもりで当時の住友銀行を受けたのです。

その就活で「どうして国連に行きたいの」と聞かれたので〝人の役に立ちたいから〟と答えました。すると「今の松ヶ崎さんに、どれだけ役に立つ力があるの」と突っ込まれ「力をつけるなら銀行で修行するといいよ」と言われ、なるほどと納得したのです。お給料をもらいながら、少しずつ自分をレベルアップしていける。それはいいなと。

修行の つもりで銀行に

意気込んで入社したのはいいけれど、最初の三年ぐらいは簡単な仕事でも間違えてばかり。それでついたあだ名が「地雷女」でした。私がなにか失敗するたびに、先輩たちが「また松ヶ崎のしかけた地雷を踏んだなぁ」と笑いながら後始末してくれるのです。つくづく落ち込んだ私は、社内の公募制度に手を挙げて、逃げるようにニューヨーク支店に赴任しました。

なにしろ初めての海外です。TOEICの成績は800点ぐらいあったけれど、英語での会話にはまったくついていけない。ちょうどその頃、タイムズスクエアにビルを建てる融資案件があり、上司から「現地を見てくるように」と言われました(資料1)。本当に何もわかっていなかった私は、指示どおり工事現場に行き、その風景を見てきました。戻って「巨大な穴が掘られていました」と報告すると、サンタクロースみたいに優しい顔をした上司も、さすがにポカンとしていました。

要するに現地調査をしてこいという意味だったのです。周囲にはどんなお店があるのか、どんな人が歩いていて、建てるビルにどんなお店が入れば流行るか、オフィスにはどんな企業に入ってもらえそうか。400億円も融資するのだから、しっかり稼いでくれるビルにしなければなりません。だから融資するだけの価値があるかどうかを「見てこい」と言われたのに、その意味を理解できなかったのです。

取引先の女性とお会いしたときも、まったくダメでした。前夜、必死で提案資料をまとめて、話す内容もそれなりに考えていたのです。お会いするととても人の良さそうな方で、よかったと思いながら自己紹介しました。「あなたは大学で何を学んだの?」と尋ねられたので、法学部ですと答えました。すると「じゃ、ロースクールに行ったのね」とたたみかけられ、いいえと返す。「それならビジネススクールね、MBAはどこで取ったの」と突っ込まれて、取っていないというと「そうなの」で終わりました。

こんな人と話しても意味ないと思っているのが、ひしひしと伝わってきました。まず英語が下手、法学部を出ているのにロースクールに行ってないし、ビジネスするのにMBAも取っていない。そんな若い女性などビジネスの相手とは思ってもらえないのです。「ニューヨークで働いていました」というと、かっこよく聞こえるかもしれないけれど、実際は挫折の連続でした。

その後、まさに目の前で「世界が崩れていく」経験もしました。38歳のときに担当していたのが、アメリカのリーマン・ブラザーズ社です。リーマンショックという言葉を聞いたことありませんか。リーマン・ブラザーズ社が、約64兆円もの借金を抱えていきなり倒産したため、世界中が大不況に陥ったのです。ほんとにとんでもない出来事で、倒産後3か月ぐらいの記憶がすっ飛んでいます。それぐらい大変な思いも仕事をする中で味わってきました。

資料1

資料1

日本を外から見る大切さ

ニューヨークに挑戦し、挫折して日本に戻り、リーマン・ブラザーズの倒産を経験して、44歳になったときに今度はシンガポールに行き、世界の見え方が一変しました。

とにかく驚いたのが、お通夜とお葬式です(資料2)。日本の粛々としたお通夜とは大違い、会場ではピッカピカの青い光があたりを照らしていました。お通夜というより、まるでクリスマスみたいな感じで、霊柩車がまたド派手でゴージャス。なぜならシンガポールの人たちは「あの世へ行って楽しく過ごしてくださいな、きっといいところだから」と死者を送り出すからです。日本では考えられない光景を見て気づきました。

絶対に、日本から外に出て世界を見たほうがいいと。これを私は「うちの家族は変なのか」問題と呼んでいます。みんな、自分の家は普通だと思ってますよね。でも、自分ち(家)が普通かどうかなんて、他の家と比べてみないとわからないじゃないですか。

例えば、大晦日には年越しそばを食べる。これは、まあ普通でしょう。でも、大晦日はごちそうを食べる日だから、うちはお寿司ですって家があれば、紅白歌合戦を見ながらすき焼きを食べて、日付が変わるときにお蕎麦を食べる家だってあるかもしれない。今なら、年末といえばフライドチキンでしょという家があってもおかしくない。

要するに、自分の常識だけで考えていても、外の世界はわからない。自分では普通と思っていることが、外から見れば普通じゃないかもしれない。シンガポールの人たちが、日本のお葬式を見たらきっと「どうして、こんなに暗いの」と思うでしょう。

それぐらい世界と日本は違うのです。だから、とにかく一度、外から日本を見てください。そして外を知って、違いを感じる。自分の常識が広がると、きっと人生が豊かになります。

資料2

資料2
 

仕事は、よく知り、役に立ち、社会を良くすること

銀行や金融の仕事とはなにか。ひと言にまとめれば「よく知る、役に立つ」です。

例えば、ある企業の役に立つためには、何が必要でしょう。まず事業内容を詳しく知らなければなりません。事業内容を理解するためには、その企業がどのような環境でビジネスを展開しているのかを把握する必要があります。もし、顧客が世界中に散らばっているなら、世界全体の動きもわかっていないと、とてもその企業の役には立てません。現状だけでもダメで、10年先や20年後の世界まで見据えている必要があります。

こうしてお客様の役に立ちながら、お客様を通じて課題を解決する。それがひいては社会課題の解決にもつながる。銀行の仕事とはある意味、国連で働くのと同じじゃないかと気づきました。

働くとは結局何なのか。答えは、社会を良くすることです。30年間働いてきて、私はそう確信できるようになりました。では、そんな仕事と出会うにはどうすればよいか。私からのアドバイスは次の三つです。

その1.自分は「何をしたいか」をめちゃくちゃ考える。
その2.自分は何が得意なのかを突き詰める。
その3.自分のしたいこと、得意なことを使って、より多く世の中の役に立つにはどうすればよいかを考える。

日本を良くするために、ぜひ、みなさんも頑張ってください。

 

資料3

  資料3  

ワークショップ【優勝したチームのプレゼン内容】

月火水木金土日に加えてもう一日、地球(チキュ)曜日があるとしたら、地球曜日には何をしますか?ただし地球曜日には地球上の全員が好きなことをする日でなければいけません

忙しい日々を一旦立ち止まって、自分たちが生きているんだと実感し、日々への感謝へとつなぐ。また1週間を新しい気持ちで始められるように、食べる、寝る、音楽を聴くなど、人間がそれなしでは生きられない行動を意識して行う。そんな一日にしようと思いました。食べることと寝ることは、人間が生きるうえで必要なことです。そして音楽は昔から人間と密接に関わり合ってきました。だから人間の本質と深く関わる行動で、一日を過ごそうと考えました。

ワークショップ【講評】

松ヶ崎先生の講評

哲学的で深い回答だと思いました。人間の本質を見るという考え方で、新しい発見でした。何をしますかと問われると、とにかく何かしなきゃ、新しいことをしなきゃっと思いがちだけれど、そうでもないんですね。それより本質に立ち返ることが、実はとても幸せなんだと、皆さんに教えてもらいました。

ワークショップの写真
スゴイ大先輩に学ぼう

タイトル

ナガセの教育ネットワーク

教育力こそが、国力だと思う。