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トップリーダーと学ぶワークショップ
TOP東進タイムズ 2024年6月号

光通信を100万倍高速にした技術
(中沢 正隆先生)

東北大学特別栄誉教授災害科学国際研究所 特任研究員

中沢 正隆先生

【ご講演内容】

研究やビジネスの最前線を走る“現代の偉人”を講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回はインターネット社会を支える長距離・大容量の光通信システムを実現した立役者である中沢正隆先生をお招きし、「私が歩んだ光通信の道、そして学んだこと」をテーマに、光通信技術の基本から将来像までについて講演いただいた。

光通信が遠隔手術や
高速インターネットを可能に

今の社会は、高速の情報通信によって支えられています。もしもある日突然、スマートフォンやインターネットを使えなくなったら、社会は大混乱となってしまうでしょう。その情報通信を支えているインフラが、大容量のデータを高速送信できる光通信のネットワークです。

光通信のおかげで超高精細映像のアメリカ映画を日本に居ながら視聴できたり、東京で行われる難手術に対して、北海道にいる第一人者の先生が映像を見ながら指示を出せたりするようにもなりました。

今では日本中にくまなく光通信網が張り巡らされています。東京と大阪などを結ぶ光基幹中継網があり、さらに都市内に張り巡らされた地域網から各家庭へとアクセス網が伸びています。スマホでデータを送受信する場合は、利用者が近くの無線基地局に電波を送信し、その先は光ケーブルなどを経由して送信相手の近くの無線基地局まで信号が送られます。そこから再び電波が相手のスマホに送られて受信されます(資料1)。

光通信で使われる電磁波の周波数は200THz(テラヘルツ)あたりで帯域は12.5THz、波長は1.55㎛です。ちなみにこの帯域は、6MHz(メガヘルツ)のテレビチャンネルなら200万チャンネルを同時に配信できるほどの大容量です(資料2)。

光通信を支えているのが直径125㎛、髪の毛ほどの細さしかない光ファイバーです。これは二重構造になっていて、真ん中は「コア」と呼ばれる屈折率の高いガラス、そのまわりを屈折率の小さな「クラッド」が取り囲んでいます(資料3)。この光ファイバーのコア中を情報を載せた光が全反射しながら伝わっていきます。

光ファイバーは、低損失(=長距離通信が可能)、広帯域(=多くの情報を送れる)、省スペースで電波の影響を受けないうえに、材料のシリカガラスが地上に豊富にあるなど多くのメリットを備えています。

資料1

資料1
 

資料2

  資料2  
 

資料3

  資料3  

光ファイバー通信を飛躍的に
進化させた光増幅器(EDFA)

光ファイバーを通して送られるのは「1」と「0」のデジタル信号であり、その最小単位は1ビットつまり「1」か「0」のいずれかです。1秒あたりに送るビットの数が「ビットレート」、これはbit/sまたはbps で表され、ビットレートが大きいほど多くの情報量を送信できます。

文字はもとより音声や画像などもデジタル信号に置き換えられるので、光ファイバーを使って多くの情報が送信できます。最新の通信では10Gbit/s、1秒間に10の10乗ビットのデータ送信が可能となっていて、このレベルの通信を高速通信やブロードバンドと呼んでいます。

光ファイバー通信システムでは、半導体レーザの光源から光を出し、光変調器で情報を載せます。その光を光ファイバーで送りますが、遠くまで送れるように光増幅器を使います。こうして送られた光が検出器で信号処理されて、相手に情報として伝わるのです。

一連のプロセスで重要な役割を担っているのが光増幅器です。光は低損失ですが、それでも距離に応じて減衰するので、ファイバーの中を一気に1000㎞飛ばすのは無理です。とはいえ今では太平洋を横断する海底ケーブルにより日米間で1万㎞ほどの通信を容易にできています。この遠距離通信を実現しているのが光増幅器、つまり誘導放出による光増幅作用です。

エルビウム(Er)という希土類元素のイオン(Er3+)を使うと、活性化されたエルビウムイオンが弱い光を増幅してくれます。この半導体レーザ励起EDFA(Erbium-dopedfiber amplifier)を1989年、世界で初めて私たちが発明しました。EDFAを使えば1の入力を1000倍にして出力できて雑音が少なく、遅延つまりデータ送信の遅れもありません。エルビウムに注目した理由は、光通信で使われているのと同じ波長となる1.5㎛の光を出すからです。

今では国内の基幹ネットワークで80㎞おきに光増幅器EDFAが入れられています。また世界中を結ぶ光海底通信に使われる太平洋や大西洋を横断するケーブルにもEDFAが使われています。

目指せペタビットクラス
10の15乗ビットのデータ送信へ

EDFAの開発に続いて、これを活用する新たな伝送法に挑戦しました。その結果、開発に成功したのが光ソリトン通信であり、光の波が一定の形状を維持しながら伝わっていく通信方式です。これを活用すれば長距離でも高速で信号を伝達できます。私たちは1990年に世界で初めて、この光ソリトンを活用した伝送実験を東京メトロポリタン光ネットワークで行い、成功しました。

実験の結果、ソリトン伝送は長距離伝送において優れた性能を発揮しました。ソリトンを使った伝送では、5400㎞離れたところにまでクリアに情報を伝達できると実証されています。現時点ですでにソリトン伝送は、オーストラリア内陸部や太平洋横断光海底ケーブルシステムの一部に商用システムとして導入されています。

次に取り組んだのが三つのマルチ(M)技術、すなわちマルチレベル通信、マルチコアファイバー、マルチモード制御です。

通常の光通信で送っているのは「1」か「0」、いずれかの信号です。これに対してマルチレベル通信では、複数の信号を使います。たとえば2の4乗で16の点を用意して、それぞれに「0000」から「1111」まで16通りの信号を振り分けます。すると信号そのものは「1」と「0」しか使っていなくても16種類の情報を送信できます。この考え方を拡張していき、2の12乗まで増やして4096種類の情報送信に成功しました。ただし信号の数が増えるほどノイズの影響を受けやすくなるので、注意が必要です。

次に取り組んだのがマルチコアファイバーです。通常の光ファイバーケーブルでは、ケーブル1本についてコアも一つです。これに対してコアの数を増やせば、1本のケーブルで送れるデータ量を増やせるのではないか、このような考え方に基づいてコアを多くした光ケーブルが作られています。これについてはすでに実用化が進められていて、数年以内に2コアの海底ケーブルが商用化される予定です。

空気中の光のスピードは秒速30万㎞ですが、光ファイバーケーブルの中ではガラスの屈折率が1.5なので、秒速20万㎞に落ちます。だからもし空気コアのファイバーができれば、より高速に情報を送れるようになるでしょう。

三つめの技術が、マルチモード制御です。現状の光ファイバーではコアは一つですが、その中にいくつものモードつまり光の伝送経路を設定できます。この技術を活用すれば、一本の光ファイバーコアの中に複数の光信号を送信できます。つまり一度に多くのデータを送れるのです。まだ実験レベルですが、ペタビットクラス、つまり10の15乗ビットのデータを送信できる可能性があります。

2035年をめどに
スマホは6Gの世界へ

いまのスマホは5G、第5世代の移動通信システムが使われています。5Gの次は6Gで、これは2035年ぐらいに実用化される予定です。6Gになると速度は5Gの100倍、遅延は10分の1で、同時に接続できる数は10倍に増えます。ただし、5Gでは電波は100mぐらい飛んでいたのが、6Gでは数10mぐらいになります。1㎞四方に1000万台のスマホがある世界を想定した基準となっています。

私は光通信を専門としていて、無線通信には一切関わってきませんでした。けれども無線通信と光通信をうまく組み合わせれば、6Gの有効性をフル活用できるようになります。諺には「二兎を追う者は一兎をも得ず」とありますが、これからは「二兎を追わない者は一兎も得られず」ぐらいの気持ちで学ぶ意気込みが必要だと思います。6Gの次には7Gが控えているはずで、その世界を開拓していってくれるのは、ここにいる皆さんだと思います。

そんな次世代の研究を担ってくれる人に贈りたいメッセージは、左の五つです(資料4)

これから大学へと進む皆さんには「なにかにのめりこむ」「人生を切り開く刀を研ぐ」「人智無限」が大切だと覚えておいてください。

 

資料4

  資料4  

ワークショップ【優勝したチームのプレゼン内容】

皆さんが描くコミュニケーションの未来を聞かせてください。

優勝チーム1の内容
未来のコミュニケーションは、選択肢に満ちたものになると思います。仮想現実など今ある技術をすべて使えば、さまざまなコミュニケーションが可能になります。多分、言語の壁を超えたコミュニケーションもできるし、耳の聞こえない人とも意思疎通ができるようになる。もしかしたら、話をしなくても相手の気持がわかってしまい、恋愛なども成立しなくなるかもしれない。けれどもコミュニケーションに多様性が育まれて、選択肢も増えて世界が広がる。結果的に世界はより平和になり、おもしろくなると思います。

ワークショップの写真

ワークショップ【講評】

先生の講評

感覚の共有やバーチャルリアリティについては、すでに現実になりつつありますね。それを踏まえて将来について、全体的にうまくまとめられていると思いました。

タイトル

ナガセの教育ネットワーク

教育力こそが、国力だと思う。