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TOP東進タイムズ 2019年5月1日号

日本農業の現状とこれから
日本農業についてもっと知ろう

元農林中央金庫代表理事副理事長

宮園 雅敬先生

研究やビジネスの最前線を走る“現代の偉人を講師に迎える”「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回は、日本の農林水産業の活性化に尽力されてきた宮園雅敬先生をお招きし、「日本農業の現状とこれから」をテーマに講演いただいた。先進国の中では最低の食料自給率となった日本が、この先食料を安定供給するためにはどうすればよいのか。将来の切実な問題について、多くの高校生が興味深く聞いた当日の模様をお伝えする。

もうダメ?それとも希望がある?
日本農業の未来像

皆さんは、日本の農業についてどのような印象を持っているでしょうか。おそらく、よく耳にするのは「農業は衰退の一途をたどっている」あるいは「もうダメだ」などの否定的な意見でしょう。

けれども、一方では「農業こそは、これからの成長産業」という声もあります。例えば最先端の農業機械として、完全に無人化されたトラクターが畑を耕し始めています。また、ドローンが農薬を散布したり、精巧なカメラセンサーを積んで葉っぱの生育状態を観測し、そのデータをAIに分析させてピンポイントで農薬をまく技術も開発されています。

実は農業に関する技術は飛躍的に進化しているのです。けれども、日本農業には特有の悪条件もあります。そもそも、日本では農地が圧倒的に不足していて、人口を賄うだけの農作物を作れません。食料は輸入に頼らざるを得ないのです。

日本では1947年の農地改革の際に、農業に関する三つの基本方針が定められました。第一は穀物は輸入に頼る。第二が、輸入に頼るとはいえ主食の米は特別扱いし水田は減らさない。第三として肉や野菜、果物に特化した土地(労働)で集約型農業を目指すことになったのです。

ところが、時代の流れとともに、この政策にはほころびが目立つようになりました。理由は次の三つ。日本人の食生活の変化、農産物の輸入自由化、食料自給率の低下です(資料1)。その結果、日本の食料自給率はわずかに38%と先進国の中でも際立って低くなってしまったのです。

資料1

資料1先進国最低の食料自給率
日本人にとって死活問題

現状は、耕地面積が少ないにもかかわらず、農家数も農地面積もさらに減り続けています。2005年までの30年間で農家数は4割ほど減り、農地面積も3割近く減りました。EUも日本と同じく農家数は減っているものの、農地は1割しか減っていません。

農業従事者の平均年齢は66.4歳となっていて、農家の約6割が65歳以上です(資料2)。農業の担い手の大半がご高齢であるため、今後高齢化が進むにつれて従事者はさらに減っていくでしょう。耕作を放棄された農地にはイノシシやシカなどの動物が入り込み、土地を荒らしています。

資料2

資料2

日本の農業の問題点を突き詰めるなら、苦労する割に儲からないことです。農地が小さいために生産性が低く、収益性も低いのです。だから、次代を担う若者が、職業として農業を選択することはなく、農業従事者は減る一方となる。その結果、耕作放棄地は増え続けて、高齢化により消費量が減り消費者離れも進む。

まさに負のサイクルに陥っているのが、日本農業の現状です。そこで一つ、これからの日本にとって見過ごせない問題が浮かび上がってきます。先進国で最低の食料自給率となった日本は、これから先も食料を買い続けることができるのか。食料を巡る争いが起こったときにどう対処するのか。これは日本人全員にとって死活的な問題です。

最新技術を掛け合わせれば
農業初心者も熟練者並みに!

私が以前所属していた農林中央金庫では、10年ぐらい前から農業を魅力ある成長産業に変える取り組みを始めました。魅力のカギとなるのは農業所得の向上です。

所得を増やす方法は、生産現場の力の強化と需要フロンティアの拡大に分けて考えます。生産現場の強化策は三つあり、第一は省力化と大規模経営による生産性の向上です。第二に農作物の可能性を最大限に引き出して収穫量を増やし、品質向上を実現する。第三が、農業技術を「見える化」し、誰もが取り組みやすい農業に変えることです。

これらを踏まえて実施されているのが、先端技術の導入による農業技術水準の全体的な底上げです(資料3)。前述した無人トラクターやドローンに加えて、トマトを作る農業用ハウスでは24時間モニタリングとAIの活用により生育に最適な環境が自動的に維持される事例も出てきています。

資料3

資料3

AgTech(アグテック)つまりAgriculture(農業)とTechnology(技術)のかけ合わせにより、農業の初心者でも熟練者並みの農業が可能になりつつあります。最先端技術が集約されたスマート農業には、今後の成長産業となる期待がかけられているのです。

需要フロンティアの拡大
日本の農産物の新しい市場作り

農業所得を増やす方法としては、農作物に対する新たな需要開拓も一案です。ただし国内市場は人口減少に伴って縮小するため、海外への輸出を増やすのです。実際、農産物の輸出は増え始めていて、政府は2020年の輸出額1兆円を目標としていますが、すでに2017年に9068億円に達しています。ただ現状の輸出は加工品が多いため、今後は農作物そのものの輸出を増やすのが課題です。

一方国内向けの需要開拓策として、農業の6次産業化があります。一次産業である農業に、二次産業の加工工業の要素と三次産業の商業を加味するのです。例えば、生のままなら1本100円のキュウリを、ブランド漬物として300円で農家自らが販売すれば所得は増えます。その際に求められるのは、自分たちが作りたい農作物を作るのではなく、市場で求められる農作物を作る発想への転換です。

これからの日本農業が成長産業になる可能性は十分にあります。食料を自給でき、豊かな田園風景も残る。そんな日本農業の明るい未来は、未来を担う若い人たちの手に委ねられているのです。

ワークショップ【探る】

テーマは
「あなたが農林水産大臣になったら、
日本の農業や農家に対しどのような政策をとるか」

時間いっぱい意見を出し合い試行錯誤する。

ワークショップ【話す・発表する】

予選会

入念なリハーサルを済ませてからいざ予選会。ワークシートは色や図を使用するなど個性を出し、聞き手の興味を引くよう工夫を凝らす。

ワークショップ【本選】

決勝プレゼン

予選を勝ち進んだ6チームが壇上でプレゼンを競う。「海の上に農場を」「農業、AIの国営化」「AgTech3本の矢」「小学校から大学までの農業教育」など、「今の大臣に見せたい」と宮園先生が絶賛するさまざまな意見が提案される。

ワークショップ【結果】

優勝チーム集合写真

いよいよ優勝チームの発表。「全チーム素晴らしい発想力で紙一重だ」と講評した先生が選んだのは、「農業をアプリ化し副業化を進める」と意見したチーム。大胆で夢のある発想が高く評価され、大掛かりな政策を何十年とかけて実現させることも重要だと締めくくった。

参加した高校生の

埼玉県立 川越南高校 2年

今野 旺祐くん

祖母が秋田で農業をやっているので農業は身近な存在ですが大変なイメージもありました。AIが介入することで農業が劇的に変わることがわかり希望を持ちました。AIに興味があるので関連したことを学びたいと思っています。

東京都 私立 淑徳巣鴨高校 2年

鈴木 佑菜さん

地方の活性化に興味があって参加しました。人にとって重要な「食」に直結している農業の厳しい現状とAIを導入する最先端を知ることができたので、将来の進路を考えるのに良いきっかけになりました。

東京都 私立 國學院大學久我山高校 2年

守田 佳央里さん

大学では建築を学びたいと思っています。直面する「農業の危機」に対してテクノロジーだったり政策だったりといろんな分野から幅広い視野を持って問題解決していくことが求められていることがわかりました。