トップリーダーと学ぶワークショップ
TOP東進タイムズ 2019年7月1日号

暮らしの文化をつくる
技術の開発

ソニー株式会社執行役員 次世代技術連携担当

島田 啓一郎先生

講演者の写真

研究やビジネスの最前線を走る“ 現代の偉人”を講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。 今回は、ソニー株式会社 執行役員 次世代技術連携担当の島田 啓一郎先生をお招きし、「暮らしの文化をつくる技術の開発」について講演いただいた。先生が質問を投げかけ、参加者たちが答えを出していく対話形式で展開された講義。最先端の知見と高校生たちのアイディアがぶつかり、未来の科学技術に対する「正解のない問い」を探る場となった。そんな当日の模様をお伝えする。

お客さまにとっての「価値」とは何か?
正解のない問いを一緒に考えよう

私がこれから皆さんに投げかける問いには、正解がありません。科学技術における問題には、正解がいくつもあったり、一概に間違っていると言い切れないことがたくさんあります。今回は、ぜひ皆さんと一緒に、科学技術が変えていく未来の「正解のない問い」について考えていきたいと思います。まず、これまでに「科学技術が暮らしをどのように変えてきたのか」についてお話ししましょう。

1950~1960年代、当時の人びとにとって最も高い価値は「暮らしが便利になること」でした。典型的な例は、電卓で計算ができることです。この時代は、生活の利便性を実現するために科学技術が発展していきました。

その次に、テレビやオーディオ、ビデオやカメラが登場します(資料1)。これらには「感動を増幅する」役割があります。映像や音響、写真のことを専門用語で「コンテンツ」と言いますが、1970年~1990年代では、「映像や音楽で感動を増やす」分野が大きな産業になりました。

資料1

資料1

この「コンテンツ産業」に加えて、最近は「人と人とのつながり」という価値が生まれました。ケータイにまつわる産業や、アップルやグーグル、フェイスブックが創り出した産業は、人と人のつながりによって「共感を増幅する」事業です。

初めは便利であることがお客さまにとっての「価値」でしたが、次第に、人が感動するものや、つながり、共感といったように「価値」が増えていきました。新しい技術が生まれると、用途が増え、これまでになかった価値が生まれます(資料2)。

資料2

資料2

現在では、「健康的な暮らし」や「環境に優しい暮らし」「地球や人類の持続」という点に消費者の価値観が置かれ、こうしたテーマを持った産業が増えていくと私は考えています。ただ、この分野は「産業化」が難しいため、ビジネスモデルをつくることが課題です。

これを読み解けば新しい世界が始まる!?
技術者が挑む「11個の制約」とは

この世界には、いったいどのような制約があるでしょうか(資料3)。

資料3

資料3

お客さまが感じている「不便さ」や「価値」に、どのようにして貢献するかを考えるとき、私たち技術者は、この11個の「制約」という視点で問い直しています。

まず、「物理的な制約」があります。これは、場所・時刻・時間・空間の4つです。例えば、場所や開始時刻が決まっているものには「場所や時刻」の制約があります。いつでもどこでもいい、というのは、そうした制約を取り払えた状態であると言えます。物理的な制約を減らすためには、技術が必要です。技術者が開発をして、サイズを小さくしたり時間を短くしたり、工夫しながらお客さまにより良い価値と認められる商品を作り、新しい市場を生み出してきました。

このほか、「社会的な制約」の「社会基盤」、つまり鉄道や道路などのインフラストラクチャー面であったり、「精神的な制約」である準備や手間を楽にし、ハードルを下げることなども、私たちがテクノロジーでサポートできる分野です。また、「内容的な制約」は、「嗜好」と「質」の二つの面があります。画質や音質が悪いものよりも、優れているもののほうが人気が出ることなどが一例です。

一方、「社会的な制約」における「規則・慣習」に、法律や常識、宗教などがあります。これは、テクノロジーだけで解決するのは難しい分野だと言えるでしょう。

最後の「経済的な制約」は、テクノロジーに加えて経済学や経営学などが関わってきます。商売をしてお給料がもらえて、会社が成り立つことを「産業化」と言います。新しい技術が「みんなが使いたい」と思う金額になって産業として成り立ったとき、人びとの暮らしが変わっていきます。「いくらなら使うか?」という視点は、ビジネスモデルを実現するうえで非常に重要です。

味方がゴールを決めたとき、
キーパーは何をしているか?

それでは、これからの技術について一緒に考えてみましょう。

例えば、スタジアムに行かずにサッカーを楽しむ「パブリックビューイング」をする際、カフェの壁がすべて巨大なディスプレイになっているとします。当社の製品に壁用のディスプレイがありますが、二つつなぐと壁いっぱいに8Kの画像を映し出すことが可能です。このぐらいの大きさと解像度があると、まるでスタジアムにいるような感覚を得ることができ、サッカーの試合を丸ごと楽しめるようになります。

それでは、「スタジアムにいるような価値」とはどういうことでしょう?

例えば、選手一人ひとりのゼッケンや顔がわかり、好きな選手がどこにいるかがわかります。それから、これまでに見られなかったような場面が見られるという価値もあります。サッカーでゴールが入った瞬間、味方のゴールキーパーは何をしていると思いますか?喜んでクルクル回っていたりするんですよ。このように、通常のテレビ放映では映らなかったようなところを楽しめる。つまり、技術によって「新しい価値」が生まれます。

新しい価値が生まれたとき、その価値を深掘りすることで、次の製品やサービス、コンテンツを考えるヒントが生まれます。「お客さまにとって嬉しいことは何か?」とアイディアを展開して、今後の製品にはどのような可能性があるのかを考えていくのが技術者の仕事です。

IoT、AI、ビッグデータ、ロボット……
今は、第四次産業革命の真っ只中

現在、IoTや人工知能、ビッグデータ、ロボットなどの分野で技術革新が進み、人類にとって四度目の産業革命が起こっているとも言われています。2030年、皆さんが社会人になっているころには、さらにイノベーションが進むでしょう。

これからの20年で、大きく変わると予想されている分野を三つあげておきます。まず、自動運転をはじめとした「移動・運搬」の分野。次に、映像や音楽のようなコンテンツから、農産物や料理も含む、あらゆる「つくる」という分野。最後に、観光、エンターテインメント、スポーツなどの「遊ぶ・楽しむ」分野です。(資料4)

資料4

資料4

今回の講義を聞いて興味を持ったみなさん、ぜひ「運転がもし自動化されたら、11個の制約はどうなるか」を自分で考えてみてください。今後20年間ぐらいの間に、すごいイノベーションが起きるなということがわかっていただけると思います。「これはすごい世界になるぞ!」と、驚き、ワクワクすることでしょう。

ワークショップの写真

ワークショップ【探る】

テーマは「時間や場所の制約が減ると生まれるビジネス」

テーマに沿ってまずは自分の考えをシートに記入してからディスカッション開始。役割分担を行って各自がチームへの貢献を意識する。「情報格差の拡大」や「高齢者社会」など、それぞれのチームが課題に対する自分たちの方針を明確にして、予選会に挑む。

ワークショップの写真

ワークショップ【話す・発表する】

予選会

リハーサルを済ませてからいざ予選会。原稿を作成し、自分たちの意見をしっかりと伝えるために口調やスピード、声の大きさにも気を配る。口頭で説明する箇所と図で示す箇所を整理するなど、ワークシートの書き方にも工夫が必要だ。

ワークショップの写真

ワークショップ【本選】

決勝プレゼン

決勝戦。予選を勝ち進んだ6チームが壇上でプレゼンを競う。「VRによる体験提供」「契約交渉の仲介」「情報格差の緩和」「移動型の医療施設」など、多種多様で個性的な意見が出そろう。チームの提案一つひとつに質問を投げかけ、実現に近づくための課題を指摘する島田先生。

ワークショップの写真

ワークショップ【結果】

優勝チーム集合写真

いよいよ、優勝チームの発表。「一つに決めるのは難しかった。」と語る島田先生が選んだのは、情報格差の緩和をするために、お年寄りをはじめとする情報弱者たちが気軽に相談できるシステムを提案したチーム。体験談を踏まえた根拠ある提案や分かりやすいプレゼンが評価を得た。表彰式と島田先生を囲んでの記念撮影のあと、全体講評を頂戴してワークショップは締め切られた。

参加した高校生の

参加者の写真

東京都立 文京高校3年

宮崎 礼央くん

島田先生が仰っていた「大胆であれ」というメッセージが心に響き、思わずメモをとりました。やらないよりやる勇気、知らない人とも前向きな話をもっとしたいと思っていたところだったので前進する力にしたいです。

参加者の写真

東京都 私立 桜蔭高校3年

久保木 玲花さん

前回参加した1年前のワークショップの時とは違い、人前で話す機会も増えたので自分を試したい気持ちもあり、参加しました。チームの発表者に立候補して、伝えたい内容をしっかり伝えられた手応えを実感できました。

参加者の写真

東京都立 小石川中等教育学校4年(高1)

吉田 幸生くん

プログラミングをやっていて、今回のテーマに興味があったので参加しました。「制約をなくすために技術が発達する」という話にすごく納得、さらなる技術が進んでもまた新たな制約が生まれてしまうという話がおもしろかったです。

スゴイ大先輩に学ぼう

タイトル

ナガセグループ

教育力こそが、国力だと思う。