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大阪大学医学系研究科生体防御学教室 教授 茂呂 和世先生

TOP東進タイムズ 2020年4月1日号

直径7マイクロメートルの天使と悪魔

大阪大学医学系研究科生体防御学教室 教授
理化学研究所生命医科学研究センター自然免疫システム研究チーム チームリーダー
大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫・アレルギー教室 教授

茂呂 和世先生

講演者の写真

研究やビジネスの最前線を走る“現代の偉人”を講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回は、大阪大学医学系研究科で教授を務める茂呂和世先生をお招きし、「直径7マイクロメートルの天使と悪魔」をテーマに講演いただいた。茂呂先生は歯学部を卒業後に免疫研究の道に進み、第6番目の免疫細胞を発見した。研究とはどのようなものか、世紀の発見はいかにして生まれるのか。研究者の波乱に富んだ生き様と、研究のおもしろさに会場の高校生たちは熱心に聴き入った。当日の様子をお伝えする。

2浪で大学合格 最下位で大学院へ

直径7マイクロメートル、つまり0.007mmとは免疫細胞の大きさを意味します。私は免疫に魅せられて研究者となり、新しいリンパ球を発見しました。この免疫細胞はかつての日本では人を守る天使でしたが、環境が一変した今では悪魔のような存在に変わっています。大学院生時代に、新しいリンパ球について書いた論文は『nature』誌に掲載されました。

といっても、研究者としてのエリートコースを順調に歩んできたわけではけっしてありません。むしろ真逆で、高3のときには受けた大学すべてに落ちました。浪人して予備校に通わせてもらいながらカラオケ三昧の一年を過ごし、日本で一番偏差値の低い大学を受けてみろと親に言われ受けるも不合格。父親から「死ぬ気で頑張るなら、もう一年浪人させてやる」と言われて2浪しました。

でも、私はラッキーだったと思います。2浪したおかげで「私ってバカなんだ」と気づけましたから(笑)。それまではどうやったら楽しく、楽に生きられるのかだけを考えていたけれど、ほしいものを手に入れるには、努力が必要だということが理解できたのです。

ところがようやく歯学部に合格できたのに、今度は空手ひとすじの6年間を過ごします。週3回の大学での稽古に加えて、自主的な練習にも多くの時間を割きました。そこまで打ち込んで思い知ったのが「いくら努力を重ねても、世の中には必ずその先があり、その上がいる」事実です。ただ「自分は人よりも頑張れるんだ」という自信だけは身につけました。

その後、国家試験の練習問題が人生を変えます。免疫細胞の種類と役割に関する問題がまさに運命の出会い、どうしても免疫学を学びたいと思ったのです。生まれて初めて、まわりと明らかに違う自分の道を選択し、慶應義塾大学医学研究科博士課程へ。ただし大学院入試の成績は61点、60点以下が不合格ですから、まさに最下位での滑り込みでした。大学時代の先生からは「最下位で入ったとしても、卒業するときに一番になればいい。ただし博士課程の学生なんだから、研究テーマは自分で見つけるように」と言葉をかけてくださいました。

「自分のなぜ」と向き合う大切さを知る

大学院に入ったものの、最初の研究室では明確な研究テーマが見つからず、研究に取り組めたのは研究室が変わった3年目から。

改めて勉強と研究の違いを考えさせられました。勉強とは、教科書に書いてある内容を理解する作業です。これに対して研究とは、まだ教科書に書かれていない新しい真理を見つけて証明する知的な挑戦、求められるのは教科書を書き換える発見です。だから研究するには、前提となる知識を徹底的に勉強し、身につけておく必要があります。

自分の研究テーマを見つけるため、半年間悩みました。もともと大学院まで進んで研究したいと思ったのは、免疫細胞に惹かれたから。あれこれ考えているうちにリンパ節に対する興味が湧いてきました。病気になると免疫細胞が活性化し、リンパ節にたまって腫れますね。あのリンパ節です。

大学院生時代に書いた論文が『nature』に掲載される

きっかけは、ごく単純な疑問でした。改めてリンパ節を見直すと、必ず脂肪組織に包まれています。なぜ包まれているのだろうか。免疫細胞と脂肪の間には、何か未知の相互作用があるのではないか。こんな疑問を持った当時は、免疫細胞と脂肪の関係がまだよくわかっていなかったのです。

マウスの腸間膜脂肪組織を調べると、リンパ球の集積が見つかりました。これは発見じゃないかと専門家の先生に聞くと「そんなの普通で、よく見かけるものだよ」と言われました。けれども一歩突っ込んで、その集積に名前はついていますかと尋ねると「誰も気にもとめてないから、名前などない」とのこと。

ということは、その細胞集積を調べて、もし何か特定の機能を見つけて名前をつければ、私が第一発見者です。とりあえず「FALC(=Fat-associated lymphoid cluster)」と名づけ、集積している細胞を一つずつ調べていきました。その結果、よく知っているT細胞やB細胞のほかに妙な細胞を見つけたのです。

その日の実験ノートには「c-Kit+Sca-1+を出している細胞は気になる」と書き残しています(資料1)。これが実は大発見、後に新たな免疫細胞として認められ、今に至る私の研究テーマとなりました。あまりにも大きな発見の瞬間は、それが大発見だとは気づかないものです。最初は「なんか違うな」とか「ちょっと気になるな」といった違和感があります。そこから「なんだろう?」「どうなってるんだろう?」と突き詰めていく。そして全体像が見えたときに「えっ!これってすごい発見じゃない!」となる。

資料1

資料1

私が見つけた細胞は、形態解析によりリンパ球の新種であると認められました。遺伝子解析によりIL-4 IL-5 IL-6 IL-13などの2型サイトカインの発現が明らかになりました。だから「ILC2(=Group2 innate lymphoid cells:2型自然リンパ球)」と名づけたのです。

さらにILC2が寄生虫感染時に重要な役割を果たすことも突き止めました。寄生虫はサイズが大きいため、細菌やウイルス退治に活躍するマクロファージでは対処しきれません。そこで次のプロセスでILC2が寄生虫を退治します(資料2)。

資料2

資料2

(1)寄生虫が体内に侵入すると、上皮細胞が死んでIL-33が出る

(2)IL-33 によりILC2が活性化されIL-5を出す

(3)IL-5が好酸球を引き寄せ細胞障害性タンパクを放出

(4)細胞障害性タンパクが寄生虫を弱らせる

(5)ILC2がIL-13を出して、粘液産生を亢進することで弱った寄生虫を体外に排出

一連のメカニズムを解明した論文は『nature』に掲載されました(2010 Jan 28;463(7280):540-4)。大学院修了時には一番になれたのです。

天使が悪魔に変わるメカニズムを解明

その後、小安先生に誘っていただき理化学研究所で研究員となり、さらにILC2の研究を進めました。その結果明らかになったのが、ILC2の悪魔化です。

衛生環境が改善され、日本では寄生虫感染が劇的に減っていきました。これとタイミングを合わせるように増えたのがアレルギー性疾患です。「まさかILC2と何か関係があるのか」と思って調べると、アレルゲンであるダニや花粉あるいは食物などが、寄生虫と同じ酵素システインプロテアーゼを持っている事実が判明しました。

システインプロテアーゼが体内に入ると細胞死が起こり、IL-33が出てILC2が活性化されます。そのため攻撃対象の寄生虫がいないのに、好酸球が集まり粘液産生が高まった結果、アレルギー症状を発症するのです。つまりILC2が、アレルゲンを寄生虫と勘違いして病気を引き起こしている(資料3)。であればアレルギーを抑えるには、ILC2の活性化を防げばよいはずです。この方針のもとで既存薬ライブラリー840種類の中から、有望なものを22種類まで絞り込みました。研究を進める過程では、ILC2が肥満や特発性間質性肺炎などほかの病気を引き起こすことも明らかになっています。

資料3

資料3

天使から悪魔に変わってしまった細胞ILC2を、もう一度人に優しい存在に戻したい。今はそんな研究に取り組んでいます。

最高に魅力的な研究者という職業

研究者の何よりの魅力は、毎日が挑戦という非常にクリエイティブな仕事であること。医学領域で大きな発見をすれば、一気に多くの患者さんを救える可能性があります。加えて、地球上で自分だけが新たな真実を知った瞬間の、全身を駆け巡る喜びも研究者だけの特権でしょう。テーマをすべて自分で決められ、国際交流が多いのも研究職ならではです。

その代わり理系研究者となるには、英語が必須です。さらに個性が欠かせません。人と同じではだめなのです。ぜひ女性も研究者を目指してほしい。その際には自分で勝手に「女性だから」と枠をはめないよう注意してください。

真実の瞬間に出会える機会は、長い人生の中でもほんのわずかです。けれども、大きな発見には人類の未来を変える力があります。皆さんの中から、偉大な研究者が誕生するのを期待します。

ワークショップの写真

ワークショップ【探る】

テーマは「失われた貴重なもの」

まずは自分の考えを予備シートに記入してからディスカッションスタート。役割分担を行なって各自がチームへの貢献を意識する。「歴史的な遺産」「決断力」「絶滅した動植物」など、それぞれのチームがテーマに対する自分たちの方針を明確にして、予選会に挑む。

ワークショップの写真

ワークショップ【話す・発表する】

予選会

リハーサルを済ませてから、いざ予選会。原稿を作成し、自分たちの意見をしっかりと伝えるために口調やスピード、声の大きさにも気を配る。口頭で説明する箇所と図で示す箇所を整理するなど、ワークシートの書き方にも工夫が必要だ。

ワークショップの写真

ワークショップ【本選】

決勝プレゼン

決勝戦。予選を勝ち進んだ5チームが壇上でプレゼンを競う。「現金による支払い」「命」「道徳心」など、多種多様で個性的な意見が出そろう。さまざまな着眼点を評価しつつ、プレゼンをより良くするためにアドバイスをする茂呂先生。

ワークショップの写真

ワークショップ【結果】

優勝チーム集合写真

いよいよ、優勝チームの発表。「甲乙つけがたい」と語る茂呂先生が選んだのは、選ばれなかった過去が失われた貴重なものであるとプレゼンしたチーム。独創性が高く、論理的なプレゼンが評価を得た。表彰式と茂呂先生を囲んでの記念撮影のあと、全体講評を頂戴してワークショップは締めくくられた。

参加した高校生の

参加者の写真

東京都立 日比谷高校3年

合田 詩音里さん

現在、夢が見つからないからこそいろいろな方の話を聞いてみたいと思い参加しました。茂呂先生が早くから夢を持って化学や生物に打ち込まれていた訳ではないということに驚きました。私にもこれから打ち込めるものが見つかるかもしれないと思うと、とても前向きになれました。

参加者の写真

東京都 私立 桜蔭高校3年

森脇 あかりさん

医学部を目指すことを決めていて、研究職にも関心があり参加しました。茂呂先生が国家試験の一つの問題をきっかけに「免疫が人間社会みたい!」と思考されて研究の道に進むことを決めたというお話が、非常に素敵だと思いました。

参加者の写真

埼玉県 私立 開智高校2年

牧 拓望くん

誰も調べていない物質を調べ抜いて茂呂先生ご自身で名前をつけるに至った経緯のお話が一番印象に残りました。ジャンルは違いますが研究者になることを目指しているので発見する仕事ってこんな感じかとイメージすることができました。

スゴイ大先輩に学ぼう

タイトル

ナガセグループ

教育力こそが、国力だと思う。