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TOP東進タイムズ 2020年7月1日号

宇宙の物語を明らかにしたい

東京大学大学院
理学系研究科 教授

吉田 直紀先生

研究やビジネスの最前線を走る”現代の偉人“を講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回は東京大学大学院理学系研究科で教授を務める吉田直紀先生をお招きし、「宇宙の探求」をテーマに講演いただいた。
 吉田先生は東京大学大学院在籍中に海外に留学、スウェーデン、ドイツ、アメリカで研究を続け、ビッグバン直後の宇宙に最初にできた星の姿をシミュレーションによって明らかにした。スーパーコンピュータを駆使した宇宙研究とはどのようなもので、これまでにどんな謎が解明されたのか。本ワークショップでは初めてとなるオンラインで行われた講演の様子をお伝えする。

見えてきた130億年前の宇宙の姿

宇宙が誕生したのは、今から約138億年前。ビッグバンと呼ばれる灼熱状態から始まり、その後どんどん膨張を続けて現在に至ります。当初の宇宙にはまだ星はなく、物質も光も全部入り混じったグダグダのスープみたいな状態でした。やがていったん真っ暗になり、その中で星やブラックホールなどが生まれ、続いて惑星や銀河などが誕生し、現在の姿になったのです。

宇宙ではサイズや時間の尺度が、私たちの日常とまったく異なります。例えば太陽までの距離は約1億5000万㎞ですが、これが天文学では1天文単位と定められていて、光の速さなら8分で到達する距離です。太陽系全体は100天文単位、天の川銀河系のサイズは10万光年に広がっていて、現時点では300億光年先の宇宙までを観測可能です。

地球が誕生したのは46億年前、宇宙が誕生したのは138億年前ですが、高性能な望遠鏡を使えば過去の宇宙の姿を遡って見ることができ、大型望遠鏡を使えば130億年前ぐらいの宇宙を観測可能です。そのはるか昔の宇宙には、ありえないほど巨大なブラックホールが映っていました。

資料1

資料1

理論上の存在から
実在となったブラックホール

130億年前の宇宙で見つかったのは、太陽の120億倍もの重さのあるブラックホール。しかも、このブラックホールは格段に明るい。宇宙が始まってわずか8億年ぐらいの時期に、なぜこのようなブラックホールができたのかはまったく不明です。

そもそもブラックホールは、あくまでも理論上の存在でした。その元となるのが一般相対性理論であり、アインシュタインの方程式が意味したのは、重い物体の周辺では空間が歪み、その歪みを我々が重力として感じる現象です。この方程式をシュワルツシルトが解いた結果、宇宙には空間が歪んで底の抜けたようになっている場所があり、そこがブラックホールであると提唱されました。

ただし、そのような歪みをつくるためには、例えば地球ぐらいの重量なら全体を1センチのビー玉ぐらいにまで圧縮しなければなりません。そんなことが果たして本当に起こり得るのかと疑問視されていたのです。

ところが証拠が見つかりました。1970年代になると、X線を使った衛星観測ができるようになり、6000光年ぐらい先のはくちょう座に白く輝く部分が見つかったのです。これが小さなブラックホールと考えられています。ブラックホールが、横にある大きな星から大気を吸い込みながら熱い円盤をつくっていて、その際に輝く様子がX線に捉えられたのです。

2015年には、ブラックホールの合体時に発生したと推定される重力波が初めて検出されました。太陽の36倍と29倍のブラックホールが合体し、太陽の62倍のブラックホールとなったのです。このとき宇宙空間が伸び縮みした結果、巨大な重力波が発生します。この波が地球上で検出されたのです。

ただし、合体したといっても、できたブラックホールの大きさは太陽の62倍に過ぎません。宇宙が始まって8億年ぐらいに、なぜ太陽の120億倍もの巨大なブラックホールができたのか。謎の解明に、人類は少しずつ迫っています。重力波を検出したアメリカのLIGO重力波望遠鏡に加えて、今ではチベットの山奥や南極など世界各地で宇宙観測が行われるようになりました。将来は宇宙空間に衛星を飛ばして観測する宇宙重力波望遠鏡LISAも計画されています。高精細な観測データにより、新たな事実判明への期待が高まっています。

最初の星はどのように誕生したのか

ブラックホールの誕生以外にも、宇宙にはいくつもの謎があります。例えばビッグバンの後、最初の星はどのようにして生まれたのでしょうか。一般的に星ができるプロセスは、次のようになっています。

最初にできるのが分子ガス雲、宇宙空間でガスが雲状に広がった状態です。これが徐々に固まっていき、星の赤ちゃんともいえる原始星となります。原始星がまわりのガスをさらに取り込みながら成長し、やがて主系列星として輝くようになるのです。

実際に現在も新しく星が生まれる現場が観測されています。では、宇宙の始まりまで時間を逆戻りさせるとどうなるでしょうか。138億年前にあったのは、うっすらとガスが漂っているだけの空間です。そのガスが一体どのようにして集まり星となったのか。

ガスの中ではさまざまな現象が起こっていたと想定されます。初期条件として考えられるのは、ごくわずかな密度の揺らぎや化学反応であり、そこにダークマターや水素ヘリウムガス、弱い電磁波などが関わっていました。

こうした要素を取り込み、重力、流体力学、化学反応、光と物質の反応する様子などをスーパーコンピュータで再現してみました。時間を変数とする複数の方程式を立てて、時間を動かして計算します。研究を始めて7年後、ガス雲の中で生まれた原始星、すなわち宇宙最初の星が誕生するシミュレーションに成功しました。その成果を発表すると、アメリカで一躍注目され「最初の星が生まれる様子が明らかになった」と世界中の新聞に取り上げられたのです。

資料2

資料2

AIが見る宇宙の果て

望遠鏡の性能がよくなり、遠くの宇宙を高精度に観察できるようになった結果、宇宙の謎の解明が進んでいます。なかでも2014年、すばる望遠鏡により大きな変化が起こりました。この望遠鏡はHyper Suprime-Camと呼ばれ重さ3トンもある世界最大のデジカメを搭載し、1晩で約300ギガバイトもの画像データを収集します。その解像度は極めて高精細で、従来ならぼんやりとしか見えなかった銀河の様子が、星の一つひとつまでくっきりと見えるようになりました。

20世紀には観測データのデジタル化が進みました。日米独が共同で行ったSloan Digital Sky Surveyでは、20テラバイトものデータが集められています。膨大なデータは、宇宙空間で起こっている絶え間ない変化を事細かに教えてくれます。例えば、宇宙ではおよそ3秒に1度のペースで超新星爆発が起こり、星が死んでいるのです。望遠鏡を使うと遠くて暗い超新星も1晩で100個ぐらい見つかります。

ここまでデータ量が増えてくると、もはや人手で処理する限界を超えています。そこでデータ解析に活用されているのがAIです。撮影画像を機械学習させ、超新星を自動的に見つけるのです。なかでも注目しているのがIa型超新星、これが見つかれば宇宙の膨張する様子がわかります。Ia型超新星の解析結果により、加速度的に膨張し続けている宇宙の実態が明らかになりました。

宇宙観測は今後も、質・量とも飛躍的に進化していきます。それにより得られる膨大なデータをAIを用いて解析すれば、より多くの謎が明らかになるはずです。

ワークショップ【探る】

テーマは「観測、発見、新たな謎」

吉田先生の講演後は、それぞれのチームにわかれて、ワークショップを開始。吉田先生から与えられたワークショップテーマは「観測、発見、新たな謎」。講演内容を元に、メンバー一丸となって考え、発表を行った。ここでは、優勝したチームのプレゼン内容を紹介します。

ワークショップ【決勝】

増加するエネルギーを使用可能なエネルギーに変換する

今、世界では人口が増加し続けているため資源が不足しています。資源不足を解消する手段の一つとして、宇宙膨張時に発生するエネルギーを、人類が使用可能なエネルギーに変換します。膨張時に発生するエネルギーは、常に増え続けるので枯渇のおそれがありません。 具体的には、超新星爆発時に発生する重力波を利用します。ただし、重力波の地球到達量はごくわずかなので、爆発する超新星に可能な限り近い場所での現地調達が必要です。AIを駆使して超新星の爆発を予測し、爆発に耐えうる強度を持つ人工衛星を現地まで派遣する技術も必要です。

ワークショップ【講評】

吉田先生の講評

たいへんおもしろいアイデアです。宇宙には重力波のほかにニュートリノや光などもエネルギー転換可能ですから、これらをうまく集められれば画期的なエネルギー源になる可能性がありますね。私自身もまったく考えたこともないアイデアであり、簡単ではないけれども、実現できればすばらしいと思います。