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トップリーダーと学ぶワークショップ
TOP東進タイムズ 2022年6月1日号

人生は自分のもの
だからその扉は自分で開け

元伊藤忠商事会長
元中華人民共和国駐箚特命全権大使

丹羽 宇一郎先生

【ご講演内容】

研究やビジネスの最前線を走る“現代の偉人”を講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回は伊藤忠商事株式会社の社長、会長を歴任し、民間人として初の中国大使も務められた丹羽宇一郎先生をお招きして「日本の将来の中核となる君達に問う、人間って何だ」をテーマに講演いただいた。

君と隣の人は99.9%同じ

人間とは何か。この問いにはいろいろな答えがあります。たとえば私なら「人間なんてのは、自分の言ったことをやらない動物だよ」と答えます。あるいは300年前の経済学者アダム・スミスは「人間は共感する、共に感じる動物だ」と語りました。人間と動物の違いは共感にあるというわけです。

その動物の中で人間に最も近いのは何か。DNAで判断するなら、チンパンジーとオランウータンが最も近く(資料1)、カラス、イルカ、ブタにゾウと続きます。あるいは人間に次いで頭のいい生き物はといえば、類人猿、クジラ、ゾウ、イヌ、カラスと続くのが生物学的に明らかになっています。

では同じ人間同士の違いはどうでしょうか。これもDNAで考えれば、人間は99.9%同じ、つまり皆さんと隣の人とのDNAの違いはわずかコンマ1%以下に過ぎないのです。

ところが世の中には、まるで突然変異でも起こしたかのように天才的な人がいる。たとえば将棋の藤井聡太さん。彼とはじっくりと対談して、その内容を書籍『考えて、考えて、考える』にまとめました(資料2)。確かにみんなが言うように、藤井さんは将棋の天才だとは思うけれど、彼のDNAが我々と違うとは思いませんでした。

あるいは盲目のピアニストとして知られる辻井伸行さんのお母さんは、「彼は天才的といわれますが、自分と伸行のDNAが違うかどうかなどわかりません」と話しておられました。

要するに生まれてきたときには、みんなほとんど同じなのです。成長するにつれて、赤ちゃんはお母さんを見て学び、次にお父さんを見て学ぶ。やがて学校に行って学び世界を広げていく。その過程で違いが生まれるのではありませんか。

資料1

資料1

天才と普通の人、その違いは

ひと昔前になりますが、プロ野球の読売巨人軍に川上哲治という監督がいました。長嶋茂雄と王貞治が「ON」と呼ばれる二枚看板だった時代の監督です。その川上さんから聞いた話では「選手時代のある時、ボールが止まって見えた」そうです。ただし、その前に300回ボールを打ち込む練習をよくやって、ようやくそんな境地に至ったという話です。

王貞治さんも同じようにボールが止まって見えたそうです。川上さんは、ボールが止まって見えるほど努力しても、自分を本当に強いとは思えなかった。だから精神を鍛えるために座禅を組みに行き、禅寺の僧侶に次のように言われたそうです。

「プロというのは、ふつうの人にとっての"がまん強い"レベルを超えて努力するものだ。本当に、もうこれ以上はできない。そこまでやり抜いて初めてプロといえる」

これが天才ではないでしょうか。つまり天才とは、単なる努力を超えるほどの努力をできる人です。受験勉強でも同じで、どこまで一生懸命にやり続けられるか。天才的な力を身につけるためには、これ以上できないと思う自分を超えなければなりません。そこまでやってもまったく疲れを感じなくなれば、初めてプロといえる。

皆さんは高校生のプロになればいい。だから誰にも負けるな。成績にDNAは関係ありません。人よりも集中力を高めて、自分が負けている相手より30分でも1時間でも多く勉強して努力する。そこまでがんばれば絶対に勝てます。私も高校時代にライバルと思った相手に勝つために、なんとしてもその相手より余分に勉強しようと努力しました。

資料2

資料2

何ごとも自分の責任、判断で

私は本屋の息子です。だから、本を汚さず速く読む能力が、習慣として身についています。読書は全身全霊でやるものです。目で文字を読みながら、著者の言葉に耳を傾ける。これはと思ったところはメモする。そこまで集中して読んで、初めて身につく。

読書の何より良いところは、時間も空間も超えて世界中の作家と話ができる点にあります。私はトルストイやロマン・ロラン、ダンテらとも話をしてきました。偉人たちと会話した内容をノートにメモしました。だからいつの間にか文章を書くのがうまくなっていたような気がします。

中学校で旅行に行った後、旅行記を書くと先生からほめられた。作家になれるかもしれないと思い、書くのが好きになりました。職業に対する適性試験を受けたときには、ただ一人満点を取りました。それで弁護士になろうとか、代議士もいいな、などと思ったわけです。でも、もともとの能力に大した違いなどありません。

高校では部長や生徒会長を引き受け、大学では学生運動の委員長も引き受けました。そんなことをすると就職に不利だぞ、そう言ってくれる人もいたけれど平気でした。就職できなければ、司法試験を受けるだけだと思っていたからです。

大切なのは、いつも自分で決めて責任を持つ姿勢です。何ごとも人の責任にしてはいけない。まわりの声に惑わされたりせず、常に自分で判断する。そして決めたら、人よりたくさん頑張る。

ときには我慢も必要です。伊藤忠商事に入社してから、最初の間は意味のよくわからない仕事をやらされました。だから大学時代の恩師に「仕事をやめて大学院で勉強したい」と手紙を書きました。

恩師からの返事には「たった3カ月ぐらいで一体何がわかるというのか。周りをよく見なさい。何十年も仕事をしている人が、どれだけ真剣に取り組んでいるのか。石の上にも三年というように、まず我慢しなさい」と、返事をいただいた。そこで我慢して仕事を続けていると、途中から楽しくなり、もっと頑張ろうと努力するようになったのです。

ここで皆さんへの指針として、明治時代につくられた『五箇条の御誓文』を伝えます(資料3)。今でも通じる話ばかりなので、ぜひ参考にしてください。

資料3

資料3

人生で大切なのは自分の目標

要するに、あなたの未来を決めるのは、あなた自身なのです。生きていくうえで何より大切なのは、自分の目標です。人生とは、自分で決めて進むべき道であり、DNAは関係ない。

Z世代の皆さんは、これからの世界を変えていくのです。10年後には、皆さんが日本の、さらには世界の中心にいるはず。これからの世界を進めていくのは皆さんです。

自分で目標を考えて、それに向かって進んでいけるのは人間だけです。人間ほど恵まれた生き物は、この世にほかにいないのです。目標めがけて努力している人は、自然と良い顔つきになっていく。一歩前に進めば、その分だけ未来に足を踏み入れられる。あなたの未来は、あなたの手の中にあるのだから、好きなようにやればいい。ただし目標だけは、はっきり持っておきましょう。

なかには、まだ自分の未来など決められない人もいるでしょう。そんな人は、世界中のいろいろな人、すごい人たちと本を読んで話をして学ぶことです。

人間とは自分の将来を考えて、本を読み、幅広く奥深く考えて、自分の人生を作り上げていく生き物です。ぜひ皆さんも自分で目標を決めて、その方向に向かって一歩ずつ前進してください。

ワークショップ【優勝したチームのプレゼン内容】

将来リーダーとして活躍するうえで大切なことを考える。そのために20代で取り組むべき五箇条を考える

今回先生が講演でお話くださったことと、私達自身で考えたことを元に、この五箇条を作りました。一つ目が、「周りを巻き込む力」。周りを巻き込む力というのは、周りに対する影響力です。周りに対する影響力が大きくなることで自分に賛同してくれる人が増えるので、リーダーになるうえで大事だと思いました。二つ目は、「目標に向かって努力をすること」。目標に向かって努力をすることで、自分を貫けると思います。三つ目が、「近道をせず真実を知ること」。時間をかけてもしっかりと自分の目で物事を見て自分で真実を知ることが、とても大事だと思いました。四つ目が、「ほかの分野の人と話すこと」。ほかの分野の人と話せば新しい知識を得られるのと、新しい知識の習得が自分での新しい発見にも繋がるので、とても大事だと思います。最後が、「自分に正直になること」。嘘をつかず自分に正直になれば、周りの視線や考えなどにとらわれず、自分の判断で行動できるようになる。以上の5つがリーダーになるうえでとても大事だと思います。

ワークショップの写真

ワークショップ【講評】

丹羽先生の講評

目標に向かって努力すると、自分に正直になる。嘘をつかないかどうかは、周りから見えています。嘘をついたりすると、このリーダーは自分に都合のいいことだけ決めて、部下に投げているんじゃないかと思われる。リーダーには人間力が必要で、能力だけじゃなく人間全体として信頼されなければならない。この人についていけば絶対大丈夫だと思えるような人間になって欲しい。だから能力だけじゃなくて、人間的に成長してください。

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