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トップリーダーと学ぶワークショップ
TOP東進タイムズ 2022年7月1日号

ドローンが導く破壊的イノベーション

先端ロボティクス財団理事長
日本ドローンコンソーシアム会長、千葉大学名誉教授

野波 健蔵先生

【ご講演内容】

研究やビジネスの最前線を走る“現代の偉人”を講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。研究やビジネスの最前線を走る“現代の偉人”を講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回ご登場いただく野波先生は、米・NASAで研究員を務めた後、千葉大学工学部で制御工学の研究を続けて、2013年に大学発ベンチャーの自律制御システム研究所(現・ACSL)を創業。「ドローン研究から創業へ・産業育成へ」をテーマに講演いただいた。

竹とんぼに始まる空飛ぶものたち

ドローンの原点を探ると、おそらく日本の奈良時代にまで遡ります。この頃つくられていた竹とんぼに、すでにヘリコプターの基本原理が見られるのです。その後、1480年頃にはレオナルド・ダ・ヴィンチが、ヘリコプターの元祖と考えられる「エア・スクリュー」を考案しました(資料1)。

空飛ぶ物体を意味する言葉として今のように「ドローン(Drone)」が使われ始めたのは、一説によると1937年頃です。1935年に英国海空軍が戦闘機「QueenBee(女王蜂)」をつくりました。これに対抗して開発した戦闘機に、米国海空軍が「Target Drone(ミツバチの雄)」と名づけたのです。

その後、1990年代の初めに日本企業のキーエンス社が、ジャイロソーサーを開発しました。この手のひらサイズのホビー用の機体が、民生用としては世界初のドローンとされています。ドローンの構成要素は次の五つ、①機体システム②推進システム③計測制御システム④通信システム⑤基地局システムです。

機体は固定翼、回転翼、VTOL機からなり、推進システムには電動、エンジン、ハイブリッドの3タイプがあります。計測制御システムはオートパイロットとGNSS(GlobalNavigationSatellite System/全球測位衛星システム)受信機で構成され、これらがドローンの頭脳部に相当します。ただ現時点の頭脳は、人にたとえるならまだ平衡感覚や運動調整機能の小脳レベルにとどまっています。これに自律的な思考と判断ができる大脳を駆使した飛行を実現させ、最終的には目的地さえインプットすれば勝手に安全に飛んでいく完全自律飛行を目指しています。

資料1

資料1

異分野生まれのドローン

私は1990年代から無人ヘリの自律制御に取り組んできました。2001年に日本では初となる小型シングルロータヘリの自律飛行に成功し、2011年にはオリジナルドローン「ミニサーベイヤー」を完成させました(資料2)。2013年に株式会社自律制御システム研究所(現在のACSL)を創業し、ドローンを社会に役立てる活動を開始しています。

ただし、私自身は航空工学の出身ではなく、専門は制御工学です。大学院修了後、米航空宇宙局(NASA)に研究員として採用されましたが、その理由は、スペースシャトルの振動問題を最適制御理論で解消する提案を評価されたからです。

実はドローンも航空工学からではなく、コンピュータサイエンスや制御工学の領域から生まれました。空気力学を突き詰めた結果ではなく、とにかく電子工作でプロペラをつけて飛ばしてしまえばなんとかなるだろうぐらいのノリです。ただソフトを書くのが好きな人たちが集まっていたので、制御には徹底的にこだわりました。

実際に飛ばしてみると、これがおもしろい。カメラをつければ空撮できるじゃないか、空撮できれば用途がいろいろあるじゃないか、物も運べるじゃないかと、話がどんどん広がっていきました。

開発経緯を振り返って思うのは、正攻法からイノベーションを起こす難しさです。革新的な発明の多くは、異分野の知の集積から生まれています。同じ分野の専門家が集まっているだけでは、イノベーションは起こりにくいでしょう。

私はNASAに行ってアメリカの研究文化に触れました。そのとき強く印象に残ったのがダイバーシティ、多様性の重私はNASAに行ってアメリカの研究文化に触れました。そのとき強く印象に残ったのがダイバーシティ、多様性の重要さです。マスターに進む大学生は、学部時代とは違う大学を選び、ドクターではまた別の大学に飛び込んでいく。段階ごとに場所を変えるのが当たり前、おそらくはこうした多様性が、イノベーションを後押ししていると感じました。

資料2

資料2

危険な作業は人からドローンへ

2010年頃からホビー用のドローンが爆発的に普及し始めます。最初に大ヒットとなったのは、2010年にフランス・パロット社が発売した「ARドローン」です。続いて中国のDJI社がARドローンをはるかに超える性能のドローンを開発し、今では同社が世界市場の7割ぐらいのシェアを占めています。海外のシンクタンクによれば2025年にドローンの市場規模は、世界で14兆円にもなると予想されています。

将来性豊かなドローン産業において、私は自分の役割を自律制御に特化しようと決めました。起業前には産学官のミニサーベイヤーコンソーシアム(MSC)を、国内の46団体と協働で立ち上げています。その後、ACSLを創業してオートパイロット技術と飛行制御技術、つまりドローンの頭脳部の開発に専念してきたのです。ドローンの組み立てや量産、販売、メンテナンスなどは、MSCの会員企業が分担します。

ドローンの実用化も進めていて、ACSLで開発した機体を使ってANAが物流サービスを始めています。集中豪雨などの自然災害で道路を使えないときに、ドローンを使って物資輸送を行っています。あるいは高速道路の高架、地上70メートルぐらいで人が登ると危険な高所での点検作業でもドローンが活用されています。

一方でドローンは屋外だけに限らず、屋内も自由に飛べます。例えばコンピュータ・サーバールーム内の点検用に24時間体制で、ドローンを飛ばしている企業があります。屋内だからGPSによる位置確認は使えません。そのため特徴点抽出と呼ばれる画像処理技術を駆使して、機体の位置を把握しながらルーム内の障害物を避けて自律飛行しています。

室内に近い環境では、人が入れないような狭い下水道のパイプ内の点検にもドローンが活用されています。このような空間でドローンを狙いどおりに飛ばすためには、高度な制御技術が必要です。なぜならドローンはプロペラを回して気流を起こし、その反動で浮上しています。ところが下水道パイプのような狭い空間で気流を起こすと、自ら発生させた気流が外乱となって機体が不安定化するのです。こうした悪条件の中でも安定飛行するためには、制御技術が欠かせません。

これまで人が危険を覚悟のうえで行っていた高所作業や、狭いパイプ内の点検など人では不可能だった作業をドローンが代替しています。これがいわゆる破壊的イノベーション技術であり、従来なら想像もできなかった作業が、新技術の開発により可能になる。その結果、これまでとはまったく違った世界が見えてくるのです。

次のイノベーションは君たちに託す

ドローンは確実にイノベーションを起こし、世界とも勝負できています。ところが、後に続く日本のベンチャー、起業が少し心配です。人口100人あたりで、創業準備を始めている人に創業後3.5年未満の企業経営者を加えた数を企業活動指数と呼びます。この指数を世界と比べてみると、日本は5.4人にとどまるのです。世界の平均値は12人ぐらいで、カナダが18.2人、アメリカが17.6人ですから、日本はかなり低い。

日本ではチャレンジ精神や起業家精神に対する、周りの理解も乏しいと感じます。その理由は安定志向が強く、失敗のリスクを避けたいと考える人日本ではチャレンジ精神や起業家精神に対する、周りの理解も乏しいと感じます。その理由は安定志向が強く、失敗のリスクを避けたいと考える人が多いからでしょう(資料3)。

一方のアメリカでは、起業が学生の進路の選択肢に最初から入っています。しかも優秀な学生ほど起業を目指すようです。マイクロソフトを起業したビル・ゲイツ、フェイスブックを創ったマーク・ザッカーバーグはともにハーバード大学在学中に起業して、ビル・ゲイツは2年で大学を辞めています。

海外の起業家は、シリアルアントレプレナー、つまり連続起業家になるケースも多くあります。そして起業家の半数ほどが、起業後に博士号を取っています。このような若い起業家たちが、アメリカの活力の源になっているのだと思います。

逆に考えれば、これからの日本には、まだ伸びしろがいくらでもあるといえます。皆さんにはぜひ、卒業後はもとより在学中の選択肢としても、起業を頭に入れておいてほしい。そのために大切にしてほしい教訓が三つあります。

一つ目は、若いうちに貪欲に、さまざまな経験をしてください。二つ目が、順風満帆にいかなくても、絶対にあきらめないでほしい。三つ目として、オリジナルな誰にも負けない技術やスキルを磨くのです。独自の能力は必ず評価され、事業や仕事の成功につながります。これを忘れないでください。

資料3

資料3

ワークショップ【優勝したチームのプレゼン内容】

日本を革新する破壊的イノベーションおよび創業者像を考えよう

私たちが考えた破壊的イノベーションは、インターネット上の空間「メタバース」と現実空間が合わさった世界です。具体的なイメージは、グーグルマップで見られる実際の街中と、メタバースの世界が合わさったような感じです。
このアイデアで起こせる社会革新について、まず一番身近な例として買い物があります。自分のアバターが試着し、そのままオンラインでの購入が可能だし、店舗に行っての購入も可能です。また世界中の人とインターネットでつながり、現実世界ともリンクしているので、世界の街中を現地の人とインターネットで交流しながら楽しめます。インターネット上なので言語の壁がなくなり、自由に交流できるので、国際理解の深化にもつながります。
その創業者には、人のお金や個人情報が関わるので、責任感と技術力が求められます。世界にはさまざまな人がいるので、各分野のスペシャリストも適任だと思います。

ワークショップの写真

ワークショップ【講評】

野波先生の講評

バーチャルな仮想空間とフィジカル空間を融合する、実現へのハードルは高いけれども壮大な発想です。メタバースと物理的な実空間をつなげていけば、現在のネット社会を超えた、新しい「ビヨンド・インターネット」の世界が実現するでしょう。その未来性に強い魅力を感じました。

未来発見サイト

タイトル

ナガセの教育ネットワーク

教育力こそが、国力だと思う。