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トップリーダーと学ぶワークショップ
TOP東進タイムズ 2023年2月号

安全で二酸化炭素を出さない
未来のエネルギーを創り出す(竹入 康彦先生)

自然科学研究機構
核融合科学研究所 前所長(名誉教授)
一般社団法人プラズマ・核融合学会 会長

竹入 康彦先生

【ご講演内容】

研究やビジネスの最前線を走る“現代の偉人”を講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回は核融合科学研究所・名誉教授の竹入康彦先生をお招きして「地上に太陽を」をテーマに、核融合で新しいエネルギーを創り出す研究の現状と未来の展望についてご講演いただいた。

机上の計算では2100年平均気温が5.7℃上昇

2022年11月、世界人口は80億人を突破しました。さらに近い将来には100億人に達すると予測されています。人口が増え続けるなか、世界中の誰もが豊かに暮らすために、何より欠かせないのがエネルギーです。

人口増加と経済成長に伴い、すでにこの60年ほどの間に、世界のエネルギー消費量は約4倍にまで増えました。今のところエネルギーの大部分は、石炭・石油・天然ガスの化石燃料に支えられています。けれども化石エネルギーの資源量は有限で、いずれ枯渇します。さらに化石燃料を燃やすと二酸化炭素が放出され、地球温暖化を急加速させています。

大気中の二酸化炭素濃度は、産業革命前に280ppmだったのが、2015年には400ppmを超えました。温室効果ガスが増えたために地球温暖化が進み、世界の平均気温は1850年から2020年の間に約1.1℃上昇しています。仮に化石燃料を今の調子で使い続ければ、2100年には最大で平均気温が5.7℃も上昇し、地球環境に異常気象、海水熱膨張と氷河・氷床の融解による海面上昇など、取り返しのつかない悪影響を及ぼします。

こうした状況を防ぐため2021年にイギリスで開催されたCOP26では、世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べて1.5℃以下に抑える目標が共有されました。そのために必要なのがカーボンニュートラル、つまり温室効果ガスの排出量から森林などによる吸収量を差し引いて合計を実質ゼロにする脱炭素社会の実現です。化石燃料を極力使わないようにする一方で、人口が増え続けても、誰もが豊かに暮らすために経済成長は維持しなければなりません。経済成長に電力は必須であり、発電部門は二酸化炭素の最大の排出源です。ただし化石燃料はいずれ枯渇するため、いつまでも頼るのは不可能です。これからの人類の進歩を支えるエネルギーを確保するためには、二酸化炭素を排出せず、燃料資源も無尽蔵にある、新たなエネルギー源を開発する必要があります。

高レベル放射性廃棄物を生まない
恒久的に使えるエネルギーを

環境に負荷をかけず、恒久的に使えるエネルギー、そんなものがどこにあるのでしょうか。ヒントは宇宙にあります。地球上の誰もが恩恵を受けている太陽、そのエネルギーを生み出しているのが核融合です(資料1)。太陽では水素の核融合反応により、エネルギーが生成されています。そのエネルギーの甚大であることは、誰もが納得するところでしょう。

では、太陽で起きている核融合を地上でも起こせるのでしょうか。地上でも水素の同位体である重水素と三重水素を使えば、核融合反応を起こせます。重水素と三重水素の原子核同士を核融合させると、ヘリウムを生成すると同時にエネルギーと中性子を発生します。中性子をリチウムと反応させると、三重水素とヘリウムが生成され、この三重水素は燃料として再利用できます。従って核融合反応に必要な資源は重水素とリチウムだけ、どちらも海水中に豊富に含まれています。だから核融合では燃料の枯渇を心配する必要はありません。

しかも核融合は超効率的です。スマートフォン用の電池なら、その半分ぐらいに含まれている0.3gのリチウムと、3リットルの水に含まれる重水素0.1gで核融合反応を起こせば、その発電量は7,500kWh、日本人一人あたりの年間電気使用量に相当するのです。名前に「核」とついてはいるけれども、核融合発電は原子力発電とは違って、暴走しないため安全です。また原子力発電には付き物の高レベル放射性廃棄物も発生しません。

優れたメリットを持つ核融合発電ですが、実現するのは簡単ではありません。地上で核融合を起こすためには、いくつもの厳しい条件をクリアしなければならないのです。

資料1

資料1

地上に太陽を創る挑戦

太陽の中心部は、圧力2,500億気圧、温度1500万℃、密度160g/cm3 です。この超高圧、超高密度、高温環境で起こっている核融合は、とてもゆっくりした現象、すなわち水素の陽子が4個融合してヘリウムの原子核となる「P-P反応(proton-proton chain reaction:陽子-陽子連鎖反応)」です(資料2)。P-P反応が起こる確率は140億年に1回です。けれども太陽の中心部では、物質の第4の状態であるプラズマが超高密度(160g/cm3 )となっているため、必ずどこかで反応が起こり続けて、低反応率をカバーしているのです。これほど超高密度なプラズマを核に閉じ込めておける理由は、太陽の重力が地球の28倍もあるからです。

従って太陽と同じ核融合を、質量では太陽の33万分の1しかない地球上で起こすのは不可能です。だから別の方法、具体的には最も反応しやすい重水素と三重水素によって起こる「DT反応(D:重水素+T:三重水素)」を利用します。それでも燃料ガス全体を閉じ込めるためには、1億2000万℃以上の高温、1cm3 あたり100兆個以上の密度、閉じ込め時間1秒以上の高温プラズマ状態が必要です。燃料ガスを閉じ込める方法には、レーザー核融合(慣性閉じ込め)と磁場閉じ込め核融合の二つがありますが、地上での核融合反応には、磁場によるプラズマの閉じ込めを利用します。

磁場閉じ込め核融合装置には、ヘリカル方式とトカマク方式があります。電磁石をねじるのが日本オリジナルのヘリカル方式、プラズマ中に大電流を流すのがトカマク方式です。私たちは大型ヘリカル装置(LHD=Large Helical Device)を開発し(資料3)、重水素実験によりイオン温度1億2,000万℃を達成しました。装置が完成した1998年の時点では、世界最大の超伝導核融合実験装置だったのです。

一方のトカマク方式の研究も、1970年頃から世界中で進められてきました。国際協力のもとでトカマク方式の核融合実験炉を推進するのが、ITER計画です。2007年にITER協定が発効し、日本のほか欧米、ロシア、中国、韓国とインドが参加しています。目標は入力エネルギーの10倍以上の熱出力、具体的には50万kWを400秒程度維持します。フランスのサンポール・レ・デュランスで核融合炉の建設が進められていて、2025年に運転を開始する予定です。

 
 

資料2.3

  資料2  

研究とは"世界で初めて"かつ"未知のもの"への挑戦

核融合炉は、重水素とリチウムを原料として、燃料となる三重水素を生成しながら運転されます。反応後にできるのはヘリウムだけで、二酸化炭素の排出はありません。この核融合を活用する発電は、次のような仕組みになります。

利用するのは核融合反応で発生する、中性子の運動エネルギーです。この運動エネルギーを熱交換器で熱エネルギーに変えて蒸気タービンを回し、電気エネルギーに変換するのです。つまり基本的な仕組みは火力発電所と同じで、化石燃料を燃やして熱エネルギーを得る代わりに、核融合反応で発生する中性子エネルギーから熱エネルギーを得るのです。

核融合エネルギーによる商用発電は、2060 ~ 2070年頃を目指しています。けれども一刻も早くカーボンニュートラルを実現するため、イギリスやアメリカでは計画の20年程度の前倒しが提案・具体化されていて、日本でも計画の加速を検討しています。

私は、子どもの頃にマンガで見た人工太陽に興味を持ち、高校生の頃に起こったオイルショックでエネルギーに対する関心を強めました。大学では半導体プロセスイオンビーム装置を研究し、その知見も生かして核融合研究に打ち込んできました。

何としても核融合を自分の手で実現させたい。そんな熱い思いで研究に打ち込み、核融合科学研究所の創設に携わり、世界最大の超伝導装置LHDの開発に参加するなど、生涯を地上での核融合の実現に捧げてきました。

研究とは「世界で初めて」あるいは「未知のもの」への挑戦です。だから核融合に打ち込んだ私の一生は、文字どおり研究一筋だったといえます。

それでもまだ、核融合エネルギーは実現できていません。安全で二酸化炭素を排出しないエネルギーの利用拡大は、人類の存続に必要不可欠です。核融合エネルギーを実現できれば、人類はこれから先もずっと文明を維持できます。ぜひ、皆さんの力で核融合エネルギーを実現してください。

ワークショップ【優勝したチームのプレゼン内容】

エネルギーと環境問題を考えよう

先進国による、発展途上国への技術提供が必要だと考えました。先進国は化石エネルギーに反対するけれども、発展途上国は経済発展のために化石エネルギーを必要としています。また発展途上国からみれば、先進国は化石エネルギーを使って経済発展したのに、自分たちは化石エネルギーを使えないのかと不満を抱えているでしょう。先進国が技術提供により再生可能エネルギーを提供すれば、この対立を解消できると考えました。

ワークショップの写真

ワークショップ【講評】

先生の講評

とても論点を明確にした提案だと思いました。先進国が行うべきこと、発展途上国側が受け容れるべきことを捉えたうえで、提案された解決策です。技術移転の具体策を検討していけば、次のCOP28で発表できると思えるほど優れた視点だと思いました。

スゴイ大先輩に学ぼう

タイトル

ナガセの教育ネットワーク

教育力こそが、国力だと思う。