株式会社小松製作所 取締役会長
日本経済団体連合会 審議員会副議長
大橋 徹二先生
【ご講演内容】
今回は小松製作所をグローバル企業に成長させた立役者、大橋徹二先生をお招きして「持続可能な社会である為に」をテーマに、日本と世界のこれからのあり方やそれを支える若い人たちへの期待について講演いただいた。
小松製作所の本社は日本にあります。ただし、社員数約6万6000人のうち日本人は3分の1以下です。連結子会社は世界全体で208社ありますが、日本にあるのは12社、売上高に占める割合も日本は全体の10%に過ぎません。日本企業ではありますが、このようなグローバル企業というのがコマツの実態です。
主要製品は、建設機械、鉱山機械、林業機械などですが、単に機械を作るだけではありません。それらの機械を活用して、世界中の現場で世の中を良くする手伝いに尽力しています。
早くから世界展開を手がけてきたのには理由があります。日本と世界のこれからの変化を考えてみましょう。世界の人口は1950年に30億人ぐらいだったのが、2024年では約80億人にまで増えました。今後も人口は増え続け、2084年にピークを迎えて103億人に達すると予想されています。ところが日本の人口は減るばかり、つまり日本の市場はどんどん縮小していくのでビジネスには厳しい環境となります。
一方、世界で増えていく人口が、どこに集まるのかといえば都市です。都市部に住む人口と農村に住む人口が50:50になった年をみると、日本を含む先進諸国は1950年、中国が2011年です(資料1)。今世界でもっとも人口の多いインドでは2046年に、都市部と農村の人口が同じになると予想されています。さらに2100年まで時計を進めれば、世界人口の8割から8割5分ぐらいが都市で暮らすようになるでしょう。
そのとき問題となるのが食料やエネルギーなど資源の確保です。農村人口が減れば、農業の担い手がいなくなります。そのとき食料をどうやって確保するのか。あるいは都市で暮らすために欠かせない電力エネルギーを、どのように供給するのか。
人口増と食料需要の関係を見れば、2050年には95億人になる世界人口を養うためには3500万トンぐらいの穀物が必要です。穀物生産を増やさなければならないのにもかかわらず、農村人口は減っていくのです。電力需要について2050年の需要量は70兆kWhと予想されています。2023年の日本の電源構成を見れば、CO2を排出する火力発電が66.6%を占めていて、早急な電力構成の見直しが欠かせません。
さらに日本が直面する課題として、少子高齢化の進展があります。すでに人口は減少局面に入っていて、2100年には6500万人を下回るのです。しかも社会的な活動の担い手となる生産年齢人口が減っていきます。そうなるとエッセンシャルワーカーと呼ばれる社会を支える人たちがいなくなってしまう。日本が持続可能な社会であり続けるためには、どうすればよいのでしょうか。
資料1
世界における日本の位置づけは、これからどんどん変わっていく、正確にいえば下がっていきます。2023年のGDP(国内総生産)をみると、日本はドイツに抜かれて世界4位となりました。1人あたりのGDPでみれば世界35位で約33,950ドル、1位のルクセンブルグ135,605ドルと比べれば4分の1です。
人口については1991年に世界7位だった日本は2023年に12位となり、2040年には15位に落ちる見込みです。先に触れたGDPについても1991年には世界第2位だったのが、4位となり、さらに2040年には5位と予想されています。世界中で人口が増えていくなかで、日本は人口が減り続けるために国力が落ちていくのです。
そんな日本人は世界の人たちと比べてどう違うのでしょうか。これまで世界を飛び回っていろいろな人たちと知り合いになりました。海外でチームを組んで働いたり、教育などを行ったりしながら「あなたたちにとっての価値観は何ですか」と尋ねてきた結果、日本人は「和」や「チームワーク」が大切だと答えます(資料2)。これに対してアメリカで重視されるのは「独立」「自由」「個性」などです。フランスなら「自由」、中国は「秩序」、ドイツは「勤勉」です。
アメリカ人との付き合いが長いので、彼らの特徴をまとめると、何事に対しても彼らはまず自分がやれる、Yes I can と考えていて、圧倒的な自信に満ちています。そのうえ、人と違うことをするのが最も尊敬される。
オランダの社会心理学者ホフステード氏の分析によれば、アメリカは飛び抜けて個人主義であり、日本は不確実性を回避する傾向が極めて強い。ぜひ、みなさんにはこうした現状を変えて、自分に自信を持っていろんなことにどんどん挑戦してほしいと思います。
資料2
世界の人口はまだ増え続け、多くが都市で暮らすようになります。現状を放置していれば、いずれ食料やエネルギーは不足するでしょう。日本に限れば少子高齢化が進み、人口が減るなかで高齢者比率が高まっていく。このような世界で、どのように生きていけばよいのでしょうか。
もしかすると国境を越えたボーダーレスな社会で、生活するようになるのでしょうか。仮に海外の人と一緒に暮らす場合、言葉をどうするのか。日本国内で暮らすとしても、都市部しか住むところがなくなっているかもしれません。
あるいは温暖化が進んで地球環境全体がおかしくなったときは、どうするのでしょう。地上を避けて水中で暮らしますか。核戦争が起きてしまい地球に住めなくなったときには、月に移住するのでしょうか(資料3)。
未来を予測するのは不可能ですが、未来のために備えることはできます。そこで私たちは、水中施工ロボットを開発しました。ICTを活用して、遠隔操作により機械を無人で動かします。これを使えば川やダムなどの現場だけではなく、いずれは海中でも安全で効率的な施工を実現できます。仮に大陸棚などの海中に都市をつくって暮らすようになるのなら、このようなロボットが必要になります。
また月面建設機械プロジェクトも進めています。月面で土木作業を行うためには、地球上とは異なるいくつもの課題をクリアする必要があります。地球と月面では重力、温度、日照、大気、地表面などの条件がまったく異なります。地球から月まで機械を輸送する方法も新たに開発する必要があります。
一連の課題解決のために取り組んでいるのが、月面環境をバーチャルで再現したデジタルツインによるシミュレーションです。日本政府が2021年から始めたスターダストプログラム、その宇宙建設革新プロジェクトに参加し、月面建設機械の課題抽出に取り組んでいます。
地球の未来を考えれば、人口がまだまだ増えていく。そのなかで日本は人口が減っていく。普通に考えれば大変な将来になりそうです。だからこそ未来をどう考えるのか。この課題こそが、まさにその未来に向かっていくみなさんと共有したかったのです。
資料3
日本は世界のなかでも非常に稀といえる、長い歴史を持っている国です。しかも基本的にほかの国から侵略されたり占領されたりした経験もありません。私は日本人を世界のなかでも立派な民族だと思っているし、いざとなったときには馬鹿力ともいえるほど強い力を発揮する民族でもあるとも考えています。
確かにこれからの日本は大変かもしれません。けれどもみなさんには、明日はまた新しい日が来ると思って生きてほしいのです。
そもそも人生など思ったとおりにはならないものです。私も入社後、就職時に希望していた設計部門には配属されませんでした。その代わり若い頃からいろいろなプロジェクトを任されたおかげで、自分が知らない世界をたくさん経験できました。
「一期一会」という言葉があります。自分の思いを突き詰めるのも大切ですが、そうならなかったときでも、そのときどきの出会いを大切にするのです。希望やタイミングが合わなかったとしても、前向きに頑張ってください。志望した道ではなくても、いくらでも挽回はできます。そのために何より大切にしてほしいのが「骨太に生きる」精神です。
もう一点、これからのグローバル社会で活躍するために、ぜひとも英語力をつけておいてください。それも英語で話せてコミュニケーションできる力を養うのです。カタコトの英語でも、発音が悪くとも、必要なのは堂々と話す姿勢です。そのためにも骨太の精神を大切に生きてほしいと思います。
今後、世界(特にアフリカ)の人口が増え続け、日本の人口は減り続けるなか、持続可能な社会では、あなたやあなたの子孫はどこに住み、食料はどこから調達し、資源はどこから採り、エネルギーはどのように生み出して生きていくのでしょうか。そしてあなたは何をするのでしょうか
優勝チーム1の内容
100年後、国という単位が無くなって、土地によっての分業になる。まさに世界は一つになると予想します。【住む地域】すべての仕事がリモートになり、自然災害が少ない土地に住める、【食料】分業によって、農作物がより育ちやすい土地で育つ、【資源】錬金術のような未来の技術によって、必要なものを作るようになる、【エネルギー】核融合により、安定して、半永久的にエネルギーを供給することができる。今後私たちが、世界が一つになったときのために、私たちができることは、英語を学ぶことです。英語を勉強して、来たる社会に備えましょう。
先生の講評
地球全体が今後どうなっているかというときに、「100年後世界を一つに!」というメッセージを出していくのは大事なことだと思います。理想や夢を持たなければ何も実現できません。今後、実現していくためにはいろいろ考えるべきことが出てくるでしょうが、このような大きな考え方を持っていくことが大切です。