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TOP東進タイムズ 2025年2月号

世界を制した日本の半導体産業覇権奪還へ!
(東 哲郎先生)

Rapidus 株式会社 取締役会長
LSTC(最先端半導体技術センター)理事長
東京エレクトロン株式会社 元会長・社長

東 哲郎先生

【ご講演内容】

日本を牽引するトップリーダーを講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回は日本の半導体隆盛期を支え、今またその復権へのキーマンである東哲郎先生をお招きし「前人未到の地への挑戦」をテーマに、世界の産業を変える最先端の技術や、世界を舞台に活躍することについてご講演いただいた。

最も深い苦悩の中から
感極まる歓喜が生まれる

大人はよく「最近の若い人は、夢や志がない」などと言いますが、私は全くそうは思いません。そういう大人にこそ、夢、志がないから、今の日本経済は元気がないのではないでしょうか。まず大人が、夢や志を持って挑戦すること。そうした模範を示し、次の世代に大きな夢、志を引き継ぐことが、我々大人の使命だと考えています。大人も若者も、ともに悩み、一緒に考えることで、未来への夢は継承されていく。だから皆さんは、私の同志です。皆さんにもそう思っていただけたらと思います。

自分の高校時代を振り返ると、いろいろなことを悩み考えた時期でした。そんな多感な時期によく聴いたのが、ベートーヴェンの交響曲第九番です。聴いていると不思議と将来に希望が持てたのですよね。そのベートーヴェンの言葉に「有限の生命でありながら無限の精神を持つ人間。最も深い苦悩の中から感極まる歓喜が生まれる」というものがあります。深い苦悩から歓喜が生まれると考えると、進む勇気が湧いてきます。

苦悩と歓喜、人生は山あり谷ありです。そして半導体産業もまた、本当に険しい山と谷を繰り返しながら、成長してきました。

創業者から受け継いだ
三つのビジネスマインド

私が社長を務めた東京エレクトロンは、半導体を製造するための装置をつくる企業です。現在世界シェア第3位で、国内では首位。時価総額が10兆円を超える、日本を代表する企業です。

私が入社したのは創業から17年の1977年。社員数200人で平均年齢が28歳という、非常にちっぽけながら、若いエネルギーに満ちた会社でした。創業者の二人は、年功序列に抵抗があり、自分たちの能力や実績、いわゆる実力を重視する会社をつくりたいと起業しました。

この創業者たちに教えられた、“成長”に対する三つの強い信念は、今の私の礎となっています(資料1)。

第一は「技術革新が新たな需要を生み出す」です。最先端の技術が生まれ、新しい需要が生まれてくる。例えば携帯電話やAIなど、新しい技術が生まれ、それがまた新しい需要、使い方を生み出していく。

第二は「利益志向の経営」です。利益は非常に大事なもので、人間で言えば生命力そのものです。お客様から「これだけ役立っているから、これだけ払ってもいい」という評価が利益を生みます。利益とは、どれだけお客様、ひいては社会に貢献できているかのバロメーター(指標)なんです。

第三は「若い活力に満ちた企業家精神」です。半導体産業は、技術革新を繰り返しながら成長を続ける業界で、常に変化に挑戦していくエネルギーが必要です。だからこそ社員一人ひとりが、情熱を燃やして新しいことに挑戦し、創造していく。そして自分の行動に対してちゃんと責任を持つような、企業家精神が求められます。

この三つがあって初めて、お客様に対して真の顧客満足を与えることができるのです。私はビジネスにおける非常に重要な考え方を、東京エレクトロンの創業者から受け継いだと思っています。

資料1

資料1

夢と活力に満ちた
会社を創り上げるために

私は入社して19年46歳で社長になりました。その際、東京エレクトロンを世界屈指の会社にしたいという強い思いがありました。というのも、就任から遡ること9年前の営業部長だった頃、アメリカの半導体関連企業をいろいろ見学する機会に恵まれ、そこで、日本にない画像処理技術が、どんどん開発されているのを目の当たりにしたのです。「今までと同じことをしていたら駄目だ。世界に目を開いて進まなければならない」と痛烈に感じ、グローバリゼーションへの意を強く持ちました。

それからまもなく、日本が半導体で世界1位の頃、アメリカのトップ企業から「本気で私たちとビジネスするなら、代理店を通さず直接取引をしてほしい。でなければもう取引はしない」と通告されました。これを機に、海外に出て直接お客様とビジネスをしようと動きました。「ネクスト・ドア・ポリシー」を掲げ、海外のお客様の近くに拠点を展開。10年ほどで、1カ国だった海外拠点は、11の国と地域に。海外の従業員数は、8人から2475人となり、12%だった海外売上比率も、73%に上昇しました。

この間、東京エレクトロンの多くの社員が海を渡り、ゼロからの仕事をやり抜いていきました。皆が堰を切ったように、今までにない新しい挑戦に、興奮して取り組んだのです。そういう時期を過ごした人たちが、今、東京エレクトロンを支えています。

こうして、社長就任から数年で、売上を約二倍に伸ばしたのですが、ITバブル崩壊という景気低迷があり、今度は売上が一気に半分になってしまいます。やむなく従業員を千人規模で解雇せざるを得ませんでした。

それで一時的には費用が抑えられるのですが、やはり社員の士気は下がります。そのため、もう一度原点に帰って、企業文化の再確認をしました。全従業員さらにOBにまでヒアリングし、みんなが考える東京エレクトロンの強みを「TELバリュー」としてまとめ、社員全員で共有しました。その浸透のため三年かけて世界中を回り、直接社員と成長への信念を語り合いました。

また、会社が社員に対して忠誠心を求めるより先に、会社が社員に対して忠誠心を持つ“愛社員精神”を実践するため、新たに研修センターをつくるなど、社員に対する教育、開発に集中的に投資しました。

会社と社員の関係は、お互いに与え合うもの。管理の連鎖ではなく、やる気の連鎖によって“絆”は育まれる。それが、会社の永続的な成長に不可欠です。会社は社員を守り、信頼し、社員の成長を最大限後押しする。それによって社員は高収益をあげ、高収入を得られる。それこそが、夢と活力に満ちた会社なのです。それは時代が変わろうと、継承していかねばならないことです。

世界第1位への挑戦
前人未到の地へ踏み出す

日本が半導体製造で存在感を失ってから、30年が過ぎてしまいました。社会においては、AIの普及が進み、やがてデジタル化が日常になれば、すべての産業基盤に半導体は不可欠となります(資料2)。さらに国防の観点からも、半導体製造は国家の命運を左右すると言っても過言ではありません。

そうした状況の中で、ラピダスという新しい会社の会長に就任しました。アメリカのIBMから、2㎚(ナノメートル)の半導体をやらないか、という話が来たことがきっかけです。

㎚は、10億分の1メートル。半導体で言えば、1平方ミリメートルの中に、3億個超のトランジスタが入るような、途方もなく小さなサイズです。最先端企業が、今まさに、2㎚のものを開発しています。それに対して日本は、40㎚でとどまっている。これはもう何としても、最先端の2㎚をやらなければならない、と動き出したのがラピダスです。

人間の頭脳は、約21ワットの電力を消費しますが、AIは250キロワット、実に1万倍の電力を消費します。データセンターの電力消費量で考えると、2018年から2030年で、約17倍になると予想され、地球のエネルギーを使い尽くす勢いです。

一方、半導体のサイズはどんどん微細化し、2㎚の消費電力は、主流の28㎚の4%に落ちます。また半導体は、何の用途にも対応した汎用チップが主流ですが、家電や自動車などそれぞれ専用のチップにすれば、消費電力は5分の1になります。そのうえ、チップレットという新しい技術が確立されれば、さらに10分の1になると見込まれます。

2㎚の半導体という今までと全く違う新しい技術を、ラピダスは最初から手がけられます。そして、専用チップのニーズの高まりという市場の変化。さらにチップレットという新技術の登場と、まさに今、参入するタイミングとして、最大の波に乗れる絶好の機会と捉えています。

半導体産業は景気の波が激しく、いわゆる危機というものを何回も経験しています。「危機」という文字は、危険の“危”と機会の“機”の組み合わせ。危機を危険と感じてただ怯えているか、あるいは、新しい成長の機会と捉え挑戦するか。どちらを選ぶかによって、結果は大きく違います。

やる以上ラピダスは、世界第1位にならねばと考えています。それは、前人未到の地に踏み出していくことと同義です。私は、まず一歩を踏み出さないと、いいかどうかはわからないと考えています。もしその一歩がダメなら戻ればいい。悩んでいるだけでは前には進めない。失敗と気づいたらすぐ退き、どうしたら失敗を克服できるか必死に考える。そして、新たな一歩を踏み出す。そうすることで、お客様が認める高い価値のものを、創ることができるのです。

今から60年以上前、ソニーの創業者の井深大さんは、まだ自動車もまばらで高速道路もない時代に、AIによる自動運転を思い描きました。そのことに非常に驚きを感じると同時に、やはり理想の未来を実現するという意志は、日本の企業人のDNAなのだと自信を深めました。これからも日本が世界の先頭に立って、この意志を貫いていかなければならない。そして、同志である皆さんは、ぜひともこれからの素晴らしい未来を想像し、その実現に向け、失敗を恐れずに挑戦してください。

資料2

資料2

ワークショップ【優勝したチームのプレゼン内容】

社会、日本に貢献するとは?

優勝チーム1の内容
研究者を支援する企業をつくり、社会に貢献したいと考えました。企業と研究者が契約を交わし、その研究内容を全世界に公開。興味を持った第三者が企業に投資し、その一部が研究者の研究費用となります。研究の成功で企業も利益を得たり、研究で得られた特許が企業に帰属したりするなど、企業に利益が集中しますが、研究はハイリスクローリターンなので、研究者を支えること自体に、とても意味があると考えます。

ワークショップの写真

ワークショップ【講評】

先生の講評

研究者の志をいかに高め、その財務基盤をどうつくり上げるかは、日本にとって最大の課題の一つです。企業と投資家、顧客が連携し、次世代のための土壌づくりを積極的に進めていくことが、これからの時代とても重要だと思います。失敗を恐れず、自信と勇気を持って、さまざまな課題に取り組んでください。

タイトル

ナガセの教育ネットワーク

教育力こそが、国力だと思う。