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TOP東進タイムズ 2025年3月号

日々の積み重ねが運をつかむ自分だけの“何か”に打ち込め
(増井 俊之先生)

慶應義塾大学
環境情報学部教授

増井 俊之先生

【ご講演内容】

 日本を牽引するトップリーダーを講師に迎え、自分の将来・志を見つめる「トップリー ダーと学ぶワークショップ」。今回はユーザインタフェース研究の第一人者である増井俊之 先生をお招きし「ユニバーサルなユーザインタフェースをめざして」をテーマに、斬新な発想 で世界的に活躍することや、能力を拡大するコンピュータについてご講演いただいた。

コロンブスの卵のようなものを
発明して広めたい

私は、ユーザインタ フェース発明家を名乗っ ています。研究開発をし て、論文を書いたり商品 開発をしたり、最近はお もしろいものができたら 全部ウェブで公開して、 使ってもらっています。

経歴を話しますと、最 初は富士通に入社し、す ぐシャープに転職して、 そこでアメリカのカーネ ギーメロン大学に訪問研 究員として行かせてもら いました。その後ソニー コンピュータサイエンス 研究所に勤め、POBox と いう名前の予測型のテキ スト入力システムを作り ました(資料1)。「お」と 入れたら「おはよう」と出 て、「おはよう」を選択す ると「ございます」が出て くる、お馴染みのもので す。これが携帯電話、今で いうガラケーに、漢字・ひ らがな表示ができるよう になった時期とちょうど 重なり、入力しやすいと 普及しました。そして、別 の会社がそのシステムを 丸ごと真似しました。ど うしようかと迷ったので すが特に抗議はしなかったら、いろいろな会社が 同じように真似をして、 結局このシステムが普及 して、標準になりました。

その後、産業技術総合 研究所に移り、そこで働 いているとき、アメリカ のApple からお誘いを受 けてApple に入社。 iPhone を発売する前で、 iPhone の日本語入力シス テムの開発担当者として、 フリック入力(資料2) に携わりました。

その後、慶應義塾大学 に移り、今にいたります。 先ほど、インタフェース 発明家と名乗りましたけ ど、実はネットで「発明お じさん」で検索すると1、 2番目に出るんです。ド クター中松氏と競ってい るので、よければググっ てください(笑)。

私は、コロンブスの卵 のようなものを発明した いと思っています。理屈 は簡単だけど誰も思いつ かなかったものを、作り 広めたいと思っています。 以前、Dynamic Macroとい うプログラムを作りまし た。これは、同じ操作を2 回繰り返すと、3回目は 「繰り返し実行キー」など を押すと、もう一度実行 できるものです。とても 簡単なアイデアで、誰で も思いつきそうですが、 でも最初にそのプログラ ムを作り、論文を書いて 学会に投稿したのは私で した。それが実績の一つ になっています。

資料1

資料1

資料1

資料2

実力と運があれば
大成功できるスタートアップ

スタートアップとい う言葉を聞いたことが ありますか。既存のビジ ネスモデルではなく、新 しいアイデアに基づい て、新しいビジネスモデ ルや市場を開拓する会 社です(資料3)。Google、 Facebook だって昔はス タートアップだったわけ です。そのスタートアッ プが小さな会社のうちに 資金を提供し、大きく なったら株式上場や買収 などで儲けるのが、ベン チャーキャピタルという 投資会社です(以下VC)。

マーク・アンドリーセ ンという人を知っていま すか? この人はブラウザのMosaic、Netscape、 Firefox を順番に作った のですが、最初は普通の イリノイ大学の学生でし た。そのときにMosaic を 作り大流行したんですね。 なぜかというと、それま でのブラウザは、なんと 画像を出せなかったんで す。でも彼が画像を出す ことに成功したので、い ろいろな会社がホーム ページを作り出した。そ れでマーク・アンドリー センは、Netscape という 会社を起業してガンガン 売り出して、一時ブラウ ザ市場の9割を占めたん です。その儲けでVCを 設立して、今ではアメリカでトップランクのVC に成長しました。

20 歳そこそこの一介の エンジニアが一つの発明 をして、最終的に巨大V Cを成功させている。大 成功じゃないですか。し かし、彼の成功は特別な ことではありません。今 の時代なら誰でも、実力 があって運が伴えば、不 可能ではないのです。

私もスタートアップに 関わっています。私が昔 発明したGyazo という画 面キャプチャシステムを 商品化してスタートアッ プで運用しています。そ のサービスのユーザー数 は現在2千万人を突破し ていますが、 10 年ほど前 にVCから2億円の資金 を調達しました。

今は、Helpfeel という 検索型FAQシステムが メイン事業です。導入し ているサイトは5百以上 で有名企業も多く、業績 は好調で、VCから 20 億 円を調達しました。合計 すると 30 億円以上です。 社員も200人と大規模 になってきました。今の 時代、ほかにはないアイ デアさえあれば、資金を 調達する術があります。 ぜひ起業も一つの道とし て考えてみてはどうで しょう。

資料3

資料3

問題とは、解決するよりも
発見する方がはるかに難しい

研究とは新しいことを 発見したり発明したりす ることだと思います。大 切なのは問題を見つけて 解決すること。実は、問題を見つける方が解決する より難しいのです。みん な、今使っているもので 問題ないと思ってしまう。 でも、もっと良い方法があるのではないかと考え ることが大切です。例え ば、Uber Eats は「食べたい ものをすぐに手に入れた い」という問題を見つけて、それを「誰かが運べば いい」で解決したのが新 しかった。新しい解決を 提供すると、それはス タートアップとしてうま く成り立つということで す。

問題を見つけて解決方 法を考えたら、次は実際 に自分でやってみないと いけません。自分が作っ たものを自分で使いなが ら、ちゃんと検証する。こ れをドッグフーディングと言います。最近はイン ターネットのおかげで、 何でもブラウザで手軽に できるし、情報も手に入 るので、ぜひ利用してガ ンガンやってみるといい と思います。ちなみに Apple は開発、改良する と、すぐにその場でドッ グフーディングをします。 そういうことをちゃんと している会社です。

問題の発見解決には、 たくさんの知識を持っている方が有利です。少な くとも若いうちは、薄く でいいから幅広く知って、 その中で自分の好きなこ とを持っていれば、将来 的に役に立つでしょう。 大事なのは、そう簡単に 廃れないものを勉強する ことです。数学や英語の 知識は明らかに重要です。 例えばプログラム言語の 場合、流行りに飛びつく のは考えものです。

運も実力。逃さないように
日頃からの準備が大切

私の発明のプロセスを 説明しましょう。まず十 分な知識を頭に入れてお く。それから解決したい ことは何かをよく考える。 それでダメなら寝る。い くら考えてもわからない ときは、行動を変えるこ とが大切です。寝たり シャワーを浴びたりする と、突然思いつくことが あるんです。夜中にいく らプログラムを直そうと してもできないときに、 一晩寝たらあっという間 に直せたというのは、よくあることなんです。

私は自分の研究を「自 分中心開発」と言っていま す。自分がほしいものを 作る。自動車王ヘンリー・ フォードの言葉に「もし顧 客(馬車の所有者)に望 むものを聞いていたら、 『もっと速い馬がほしい』 と答えていただろう」と いうものがあります。大 きな変化を生み出すモノ やサービスは顧客の声か らは生まれにくい、とい うことを象徴する言葉で す。

ただ残念なことに、新 しく作ったものは、すぐ には理解されないことが 多い。前述の予測型テキ スト入力ですら、最初は 評判が悪かったほどです。 そこで諦めず評価されな くても頑張ってドッグ フーディングしながら広 める努力をすることは、 とても大事だと思ってい ます。

私は大学卒業後、エン ジニアとして生きていく のだと思っていました。特 に意識は高くはありませんでしたね。転機はカー ネギーメロン大学への留 学と、Apple に転職したこ とです。多くの突出した 才能に出会え、運が良 かった。この経験から言え るのは、留学や転職によっ て環境を変えることはお ススメです。私の信条は 「迷ったらやる」です。

人はどうしたら活躍で きるのでしょうか。ス ティーブ・ジョブズで言え ば、行動力がすごかった。 ヒューレット・パッカード 社の設立者に直接電話を して、出入りを許しても らったり、最先端の研究 所に突然見学に行って勉 強したり、そういう行動 力がありました。

福澤諭吉も同じ。彼は 勝海舟と一緒に咸臨丸で アメリカへ行ったんです が、別に選ばれた訳では ありません。担当者のと ころにいきなり行って、 「俺を乗せろ」と直談判し たからなんです。「異国な んて危なくて行きたくな い」という人が大半だった 時代。福澤諭吉は英語を 勉強していたし、桁外れ の行動力があったからア メリカに渡れて、さまざまなものを吸収し、明治 時代の偉人となったわけ です。

今、「親ガチャ」という生 まれた環境や経済力で人 生が左右されてしまうこ とを表す言葉があります。 しかし、ジョブズも福澤 諭吉も自分の力でちゃん と大成しました。なんと かなります。自分で頑 張って、時間をかけて何か に打ち込む。人脈はある ほうがいいから、その意 味では難関大に行ったほ うがいいと思います。そ れから運も実力、逃がさ ないようにしなきゃいけ ない。運が巡ってきたとき のために、常々考えて準 備しておけば、それを生 かすことができる。後は、 行動力や宣伝力を磨いた ら、これからの成功は間 違いありません。

でも、自分が若いとき にこんなことを言われて も、ピンとこなかったかも しれません。まずは自分 が打ち込めるものを見つ ける。どんな大学に行って 何を勉強したいのか、そ んなところから真剣に考 えてみてはいかがでしょ うか。

ワークショップ【優勝したチームのプレゼン内容】

「音もしくは音声を有効活用する方法で、新発明を考え てください」増井先生のお話を基に、与えられたテーマ に沿って、メンバーと共に考え、話し合い、発表しよう!

優勝チーム1の内容
決勝に進んだ5チームは、以下の新発明のアイデアと、その有 用性をプレゼン。①コミュニケーションを円滑にする「相手に よって使い分ける変声器」②白色で杖の形状をした「視覚障 害者向けスマホ」③周囲にアラーム音を絶対に漏らさない「ア ラームまくら」④満腹感を得たり苦味を軽減する「音で味覚を 感知するシステム」⑤イヤホンによる「高品質で公平なリスニ ング試験の実現」。

ワークショップの写真

ワークショップ【講評】

先生の講評

発表を聞いて、皆さん非常にやる 気があって発想もあって、とても 刺激になりました。そして今後の 日本に、すごく期待したくなりま した。ありがとうございます。な るべくおもしろい話をしたい、有 益な情報を届けたいと思い準備 してきましたけれど、どうだった でしょう。少しでも役に立ったな ら嬉しいです。

タイトル

ナガセの教育ネットワーク

教育力こそが、国力だと思う。