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TOP東進タイムズ 2016年8月1日号

動物の形作りと多様性を探る

東京大学 名誉教授、元 東京大学 副学長・理事、
東京理科大学 副学長、
日本学術振興会 学術顧問、
国立研究開発法人産業技術総合研究所 名誉フェロー
国際生物学オリンピック日本委員会 委員長

浅島 誠先生

 今回の「トップリーダーと学ぶワークショップ」では、東京大学 名誉教授で、生物の発生過程において未分化細胞に作用する誘導物質「アクチビン」の発見者として知られる浅島誠先生にご登壇いただいた。発生生物学の歴史とアクチビン発見までの道のりを講義していただいた後、「生物から見たヒトの立ち位置を考える――生命科学の発展」をテーマとしてワークショップを実施。「技術と生態系」との関係性や生命倫理などの幅広い課題について、参加者たちの間で活発な議論が交わされた。ここにその一部を紹介する。

講演者プロフィール

1967年東京教育大学理学部卒業。1972年東京大学理学系大学院博士課程修了(理学博士)。ドイツ・ベルリン自由大学分子生物学研究所研究員、横浜市立大学文理学部助教授、教授を経て、1993年東京大学教養学部教授、1996年東京大学大学院総合文化研究科教授、2003年東京大学大学院総合文化研究科長・教養学部長、2005年日本学術会議副会長、2007年東京大学理事・副学長を歴任。ジーボルト賞(ドイツ政府)、学士院賞、恩賜賞、紫綬褒章、東レ科学振興賞、上原賞、比較腫瘍学常陸宮賞、文化功労者など、数々の賞を受賞している。多細胞生物の個体発生を研究対象とした発生生物学を専門とし、その分野で世界中の生物学者が探し求めた誘導物質「アクチビン」を発見した。

生命の神秘を解き明かす鍵は
カエルにあり?!

私はトキで有名な佐渡で生まれ育ちました。当時、絶滅に瀕していた野生のトキに初めて出会ったのは、中学生の頃です。この美しい鳥を残す方法はないだろうか。これが、私が生物学を志したきっかけのひとつです。

それともうひとつ、私はカエルやイモリが大好きでした。実は生物学上の重要な発見は、カエルやイモリの研究から原理原則が見つかっているのです。例えば、クローン技術などもそうです。

そして私の研究テーマである、生物の発生過程における「誘導物質の探索」も、カエルやイモリの卵を使って行われてきたのです。発生の過程で「形成体」と呼ばれる「形作りのセンター」の存在が確認されたのは、100年ほど前のことです。

脊椎動物の初期胚の発生過程では、二つの重要な出来事が起こっています。「中胚葉誘導」と「神経誘導」です。これは胚の特定の細胞が特定の信号を受け取ることによって、それぞれ中胚葉組織や神経組織を作り出すことです。胚誘導と呼ばれるこれらの現象は、体の形作りを決定する最も基本的な役割を担っています。

世界が追い求めた謎の誘導物質を
ついに発見!

では、誘導を引き起こす物質は何か?

世界中の研究者がおよそ50年間研究を続けましたが、誰も見つけることができません。私が大学に入った頃には研究者も少なくなっていて、指導教官からは「一生を棒に振る覚悟でおやりなさい」と言われる始末です。

ですが同時に、誘導物質の探索は「避けて通ることのできない問題である」とも励ましていただいた。こうして私は、研究を継続するためにドイツへと渡ります。成果が出るかはわかりません。たとえ困難な道であれ「自分が本当に何をしたいのか」を熟考して決断すること。これが人生において大切なことなのです。

ですが、二年間のドイツ留学を経て帰国してからも困難は続きます。私を受け入れてくれた横浜市立大学には当時、大学院がありませんでした。研究費も人手も少なく、実験器具も手作りする日々です。しかし一方で、研究する「時間」と「自由」はたくさんありました。

そこでようやく、15年の歳月をかけて「アクチビン」という誘導物質を発見します。こうした経験から私は「どのような環境にあろうと、自分で工夫して試行錯誤を繰り返す」「失敗を恐れずに、努力を続けていく」ことの大切さを学んだのです。

「自然を知り、生き物に学んで、
人間を愛す」

アクチビンの濃度を変えてやると、筋肉や心臓、腎臓などのさまざまな組織や器官を作りだすことができます。これにより、発生過程において遺伝子がどのように発現するかを知ることもできるようになりました。

また、カエルの器官形成とマウスなどの哺乳類の器官形成は、同じようなシステムで制御されていることもわかりました。こうした研究が、ES細胞やiPS細胞を利用した再生医療という新しい医学の先駆けとなっていくのです。

私の研究室の哲学は「自然に学べ」です。生き物たちが先生です。二つめは「パッション」。情熱を超えた熱情を持つことです。私たちは科学技術の発展が人類に貢献し、心豊かな社会を作ると考えてきました。けれどもこれからは科学技術の持つ光と影にも目を向けていかなければなりません。

「自然を知り、生き物に学んで、人を愛す」という気持ちで、持続的な社会のあり方を考えていってもらいたいと思います。

ワークショップ 【探る・話す】

テーマは「生物から見たヒトの立ち位置を考える」

ワークショップのテーマは「生物から見たヒトの立ち位置を考える――生命科学の発展」。講義ノートを復習しながら、まずは各自で予備シートに意見をまとめていく。1チーム6名に分かれて議論がスタート。まずはリーダーや書記などの役割分担を決める。

ワークショップ 【練る】

「生物から見たヒトの立ち位置を考える」について考える

「生命」という多岐にわたるテーマだけに、論点をよく絞って1 枚のワークシートに落とし込む。自分の意見を主張するだけではなく、チームメンバーの声に耳を傾ける力も必要だ。どのチームも「予選を突破しよう!」という意気込みがあふれでる。

ワークショップ 【発表する】

予選に挑む

予選会での持ち時間は2分。いかに印象に残るプレゼンができるか。声の張り方や言葉の選び方ひとつが明暗を分ける。チャートやイラストを多用するチームや「キミの愛はどこへ?」といったシンプルなキャッチで挑むチームも。綿密な練習を繰り返して、いざ発表!

ワークショップ 【決勝】

予選を勝ち抜いて、いよいよ決勝。

本選出場を決めた6チームが壇上で熱いバトルを繰り広げる。「生命科学の発展は倫理的に許されるのか?」「人間の利益と生態系保全のバランスが重要」と、各チームの主張はさまざま。「技術と倫理の関係を考えることは重要な視点」「時間の概念を加えてみては?」といった、浅島先生の丁寧な講評にも真剣に耳を傾ける。

ワークショップ 【結果】

表彰式

全チームの発表後、浅島先生が優勝チームを選出。「どのチームも甲乙つけがたい」としながらも「ヒトと生物とのWinWin の関係を確立する」と主張したE チームが栄冠に輝いた。最後に「情報の先にあるものにぜひ目を向けてください」という浅島先生からのメッセージを頂戴し、優勝チームとの記念撮影が行われた。

参加した高校生の

東京都 私立 桜蔭高校 2年

野坂 柚奈さん

カエルやイモリと哺乳動物にも共通の臓器形成のメカニズムが働いているという先生のお話がとても意外で興味深かったです。それと同時に生態系の頂点に立つ人間は、生物が長い時間の中で培ってきた「ナチュラルヒストリー」を尊重しなければならないと痛感しました。ワークショップでは出生前診断などの問題を中心に話し合いましたが、生命倫理を考えるうえでは長期的な視点を持つことが大切だと、議論を通して気づかされました。

東京都 私立 海城高校 1年

長谷川 翔大くん

少子高齢化や化石燃料の枯渇化、環境汚染など日本には私たちが思っていたよりも多くの課題があることを再認識した講義でした。とりわけ印象に残ったのが、科学技術の光と影の部分を考えなければいけないという先生の言葉です。「ヒトは地球の新参者」であるという問いかけから考えたワークショップでは、先生から「ヒトの立ち位置から入っていった点」「ほかの生物とWinWin の関係を築くことの重要性を説いた点」を評価していただき、とても嬉しかったです。チームが優勝できたことはいい経験となりました。

東京都 私立 豊島岡女子学園高校 2年

安達 優菜さん

獣医を目指している私は、ヒトとその他の生き物は、別々に暮らすべきものだと考えていて、ゆくゆくは「ペットの廃止化」を訴えていきたいと思っています。中学生の頃に見た野生の猛禽類の姿に感動したからです。ワークショップでは与えられたテーマを踏まえて持論を展開してみましたが、自分の意見を貫き通すことや相手を説得することの難しさを改めて学びました。

東京都 私立 海城高校 1年

取越 勇樹くん

生命科学の発展の歴史とこれからの科学のあり方をお聞きして「自然を知り、生き物に学んで、人を愛す」ことが、持続可能な社会を作ることにつながることを改めて実感しました。同じ講義を聴いても、そこから感じる感想はさまざま。お互いがどんな意見を持っているのかを知るうえで、ワークショップでの体験は得難いものとなりました。将来は海外で仕事をしたいと考えているので、意見や立場の異なるひとたちと議論を円滑に進める良い訓練となると同時に、夢の実現へ向けて大きな糧となりました。

東京都立 立川高校 3年

越智 亮祐くん

将来は臨床医を志していますが、生命倫理は高校ではあまり考える機会がありませんので、今日の講義はたいへん意義深いものとなりました。講義後には、胎児期の段階における再生医療の倫理的問題について質問させていただきました。先進医療が発達していく未来だからこそ「生命とは何かをきちんと議論していかなければならない」という先生のご回答は、臨床医になったときにも常に頭に留めておきたいと思います。

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