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トップリーダーと学ぶワークショップ
TOP東進タイムズ 2017年2月1日号

全脳全身透明化の
先に見えるもの

東京大学大学院医学系研究科
機能生物学専攻システムズ薬理学教室教授
日本学術会議若手アカデミー会議・代表

上田 泰己先生

 今回の「トップリーダーと学ぶワークショップ」では、東京大学在学時から生命科学の分野で目覚ましい研究成果を上げられてきた上田泰己先生を講師にお招きして「全身全細胞解析」という驚きの先端技術について講義をしていただいた。その後のグループワークでは「2045 年を創る」というテーマのもとで、現在の社会や技術の実情を踏まえながら「未来の姿」を模索。熱気に満ちた当日のエッセンスをご紹介しよう。

講演者プロフィール

1975年生まれ。福岡県福岡市出身。東京大学医学部医学科卒業。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(機能生物学専攻)。医学博士。東大在学時(1999年)より2004年まで山之内製薬(株)外部研究員。2003年理化学研究所発生・再生科学総合研究センターチームリーダー。2011年理研生命システム研究センターグループディレクター。同年第一回フロンティアサロン「永瀬賞」で最優秀賞を受賞。2013年より東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学教室教授。専門はシステム生物学・合成生物学で、概日時計などをテーマに生命システムの「時間」「空間」「情報」の解明に取り組む。

自分の内面を理解するために生命科学の道へ

私は脳の研究をしています。高校生の頃、私は自分の内面を理解したいと考えていました。自分というものを成立させているものは何だろう。例えば、意識や精神といったものです。

そうした問題にダイレクトに迫るのは哲学や心理学です。けれども、それらの学問が扱う「言葉」というものは、あやふやなものです。私はそれよりも自然科学の方法論を使って、他の人たちと協力していくやり方で研究をしていきたいと考えました。それで医学の道へ進んだのです。

私が大学生の頃、人間の遺伝子を解読するヒトゲノム計画が完了するというニュースが流れました。私たちの体の中の遺伝子情報はおよそ30億文字で書かれていて、その立役者となる遺伝子の数は2万数千個存在するとされたのです。そうした基本的な情報を手に入れることができるとするならば、意識や精神は難しいかもしれないけれども、そこに至るまでの重要な手がかりを得ることができるかもしれません。

システム生物学を用いて
「全身全細胞解析」に挑戦

しかし 30億もの情報を扱うにはコンピューターの知識が必須です。同様に、2万もの遺伝子を実験で扱う手法もわかりません。そこで企業の研究所の門をたたいたり、製薬会社で研究員として学び始めます。

私が特に注目したのは「体内時計」です。生物の体の中で、24時間がどのように決まっているのか。それに関連する遺伝子を見つけ、その性質をしっかりと測り、操ったり創ったりして物理的に理解しようと試みました。このような生命科学の分野のことを「システム生物学」と呼びます。こうして「時計」の性質を持つ細胞の存在がわかってきたのです。

ですが、「ヒトとは何か」を理解するには、これでは足りません。脳をもっと理解する必要があります。ただ脳は解明されていないことが多く、脳を形作る細胞の数さえもわかりません。そこで取り組み始めたのが、体のすべての細胞を一つ一つ観察する「全身全細胞解析」というチャレンジです。

「透明化」が拓く新しい医療の可能性

手のひらに乗る大きさのマウスの細胞はいくつあると思いますか?およそ30億から300億個ぐらいと考えられていますが、実は正確にはわかっていません。ですがすべての細胞を観察できれば、例えば、がん細胞がどのように体の中に飛び散っていくのかが分かります。

ではどうすればよいか。マウスの体を「透明」にしてしまうのです。透明にすると、光がとおりますから、心臓や筋肉、胃やすい臓などの臓器の一つ一つを観察することができるのです。私たちはアミノアルコールという物質が体の脂質や色素をうまく抜いてくれることを発見し、世界で初めて哺乳類の全身の透明化に成功しました。

意識や自我に関心を持っていた私は今、ようやく高校生の頃の思い描いていたスタートラインに立てた気がしています。意識がどこにあるのか。その構造やダイナミズムを詳細に見たことのある人はまだ誰もいません。全身全細胞解析という手法を用いて、その謎に少しでも迫ることができればと思っています。

ワークショップ 1 【探る・話す】

テーマは「2045年を創る」

ワークショップのテーマは「2045年を創る」。AIが全人類の計算能力を上回ると予測されるこの年に社会はどのように変化しているか。予測不能な未来に対処する一番の方法は「自分がコミットすることです」と上田先生。「このグループは元気がいいね」「明るい未来をイメージすることから始めてみては?」。全20 チームすべての討論に耳を傾け、気さくに声をかける。

ワークショップ 2 【練る】

「2045年」について考える

予選会へ向けてチームで議論した内容をワークシートにまとめていく。「2045年を創る」という大きなテーマに対して、どこに焦点を絞り、より聴衆の心に響くプレゼンテーションを行えるかが勝負の鍵。「AI」に論点を定めて「メリット」「デメリット」「活用方法」を整理するチームも。柔軟な発想力と団結力が試される。

ワークショップ 3 【発表する】

予選に挑む

AからFまでの6つのグループに分かれての予選会。エネルギー問題に着目し「新たな資源の創出」を主張するチーム、未来に求められる力を考察して「感性や人間らしさ」の重要性を説くチームなど、論点は千差万別。アイディアや説得力など総合的な視点からグループ全員で審査。一番多くの票を得たチームがいよいよ本選へ。

ワークショップ 4 【決勝】

予選を勝ち抜いて、いよいよ決勝。

各グループ代表チームによる本選。発表者が壇上にあがり「人間とAIとの共存」「国境を超えた友好関係の構築」「未来のコミュニケーションツール」など、それぞれの考える「2045 年」をアピールする。「“つながり”こそが人間らしさだとしたのは、とても良いと思います」「理想から語り始めることは大事ですね」上田先生の講評にも力が入る。

ワークショップ 5 【結果】

表彰式

上田先生による厳選な審査の結果、最優秀チームに輝いたのはAグループ代表チーム。「地球規模の無理難題に対して、明るく元気に解決していこうとする姿勢」が評価された。「未来は自分たちで創るものです」と何度も強調する上田先生。「ぜひ自分らしいアプローチで考えてみて下さい」と参加者全員に呼びかけ、ワークショップは盛況のうちに閉幕した。

参加した高校生の

 透明化液の発見から光シート顕微鏡を使っての三次元モデル化が医学のさまざまな分野に応用できることを知って驚きました。僕たちはAIが急成長している革新的な世界に生きています。これから未来がどのように進んでいくのかという議論は避けられません。自分自身に影響することは間違いないので、上田先生の講演やディスカッションを通じて、人間の在り方や経済などを世界規模の視点に立ってより深く考えさせられました。

 上田先生の研究は子どもの頃にテレビで拝見し、その姿がとても印象に残っていたので、実際にお会いすることができてすごく嬉しかったです。講演では「全脳全身を透明化することで新たな未来が拓けてくる」という先生の言葉が心に残りました。講演後に「研究を続けるうえで大切にしている思い」という質問もさせていただいたのですが「できるだけ無理難題に挑戦する」という答えを頂戴しました。私も無理難題に挑戦していって、先生のような素晴らしい成果を出せるように頑張りたいと思います。

 同じ大学を志望している人たちから刺激をもらえる機会だと思い、今回初めて参加してみました。印象的だったのは「自分は何なのか? 意識とは何なのか?」という疑問を出発点にして、透明化やコンピューター技術が必要だと導き出した上田先生の思考プロセスです。僕は普段、自分の正しさを主張しすぎてほかの人の意見に耳を傾けない悪い癖があるのですが、今回のワークショップを通じてそうした点を反省すべきだと改めて実感することができました。

ワークショップへの参加は今回が三度目ですが、全脳全身を透明にできる技術があるとは知りませんでしたので、そんなことができるんだとびっくりしました。また、従来の通説を覆してカルシウムが脳を休ませる効果があることを、脳全体を観察することで実証したというお話も興味深かったです。ワークショップでは、全脳全身透明化技術がもたらす医療の進歩と倫理的な問題について話し合いました。将来、医師になりたいと考えていますので、今日のテーマはぴったりでした。

 医学部志望なので、マウスの透明化によって医療分野の未来が拓けるという上田先生の講演にはとても心惹かれるものがありました。私たちのグループではAIが人間を幸福にするか不幸にするかという切り口で話し合いましたが、私は幸せにするという意見です。なぜならAIを作る目的が、そもそも人間を幸せにするためだと考えるからです。自分から進んで発言する性格ではないので、志の高い人たちとのワークショップはとても緊張しましたが、自分と同じ意見を持っている人もいることを知って安心しました。