暑い。伊沢です。
明日はいよいよ一発目の東大模試・駿台実戦ですね。
私から言っておきたいことは、「漫然と受験してはいけない」という一点に尽きます。
多くの受験生にとって、夏の早い時期というのはまだ十分に勉強が仕上がっていない期間です。しかし、それを言い訳に使うようでは前途が思いやられます。
真にこの機会を活かすのならば、「完全に理解している所、勉強したけど忘れた所、勉強していない所」の境界をはっきりさせ、今後の勉強の指針とすることを目標に受験して下さい。そのために、本番中でも点数に夢中にならず、完全にわからない所や忘れていたところには、後から復習した時にわかるよう印をつけておくことをお勧めします。
以上を実践するために最低限本番前にやっておいてほしいことは、どのような順番で解くか、どの問題を捨てどの問題に時間を掛けるかという戦略をしっかり立てて臨んでください。おたおたしている間に終わってしまっては完全に無駄です。
模試は模試です。特にこの時期、初めて東大形式での実戦に臨む人も少なくないでしょう。点数などは二の次です。私も夏の判定はCとDでした。でも受かっています。
大事なことは何よりも復習。全国のライバルとの位置関係を探り、現在地を知るベンチマークとして今回の模試を味わい尽くしてください。
ということで本題。以前書きました導入の続きとして、経済学部で具体的にどのような勉強が行われているかをご紹介します。
前提としてですが、経済学部の授業は二年の冬学期から始まります。二年の冬学期の間は、基礎的な8科目を全員が共通で受けることになります。ミクロ経済学、マクロ経済学、経営、会計、経済史、統計、マーケットとファイナンス、経済原論の8つです。このうち6つの授業に関して単位の取得を求められます。全ての授業は2コマぶっ続けで授業が行われ、それが週八。単純計算で週に24時間張り付きです。
これらの科目が終了したら三年からは本郷で選択制の授業+ゼミになります。この時期は他学部の授業を取得することも可能で、二年冬に比べると若干楽になります。
では、ここらへんで具体的な勉強内容に触れていきましょう。
まずは良く耳にするミクロ経済学とマクロ経済学の違いについて。
ミクロ経済学は、「個人の行動」に焦点を当てます。価格の上昇、税制の変化、生産量の増加などがどのようにして経済に影響を与えるかを見ていきます。
ミクロ経済学をツールとして用いるジャンルには、公共経済学や農業経済学、財政学などがあります。私自身も財政学のゼミに入っているのですが、そこでは色々な種類の税の掛け方によってどのように個人の行動(消費の意欲、就労の意欲、政府の税収、社会的損失etc.)が変化するのかを学んでいます。税に限らず、保険や公共施設など様々なサービスの値段や分量は、このようなミクロ経済学に基づいて設計・提供されているのです。
ミクロ経済学を深く学ぶ上で欠かせないツールが、興味のある方も多いと思われるゲーム理論です。(ゲーム理論によってミクロ経済学が発展し、ミクロ経済学の発展に伴って公共・財政なども伸びる、といった構造になっています、なんとなくですが。)
このゲーム理論というジャンルは学問としての歴史が浅く、ナッシュ、セルテン、ハーサニーという三人の学者が1994年にノーベル経済学賞をゲーム理論家(Gamer)として初めて受賞、というようにその成果が応用され出したのはここ数十年のことです。とはいえ、人間の競争と情報の非対称性を理論化し、経済競争の分析におけるフロンティアを開拓した点でとってもとっても価値のある学問です。
詳しく歴史を述べてもしょうがないので、期末テストの過去問から何問か簡単に紹介します。
「東西に延びる1kmある砂浜に、全く同質のサービスを提供するアイスクリーム屋が二軒、同じタイミングで出店する。砂浜には等間隔で顧客が位置しているとし、アイスを買う場合は必ず近い方の店でアイスを買う。来店する確率は(1-自分の位置と近い方の店との距離)である。
①今、もう一軒の店が半分より西側に立地する時、自分の店はどこに出店することが最も望ましいか。
②二軒の立地におけるナッシュ均衡解(Nash-Equilibrium)を全て求めよ。」(ホテリングの立地ゲーム)
「企業Aが占有している市場に企業Bが参入を計画しているとする。まず、企業Bは参入するかしないかを選び、参入しないことを選んだ時点でゲームは終了し、A、Bの利得ベクトルはそれぞれ(4,0)となる。参入を選んだ時、企業AとBはそれぞれ<高価格戦略、低価格戦略>のどちらかを選択する。利得ベクトルは、<高、低>→(-3,3)、<高、高>→(2,2)、<低、低>→(1,1)となる。この時、両者の部分ゲーム完全均衡を全て求めよ。」(不完全情報ゲーム)
「上において、Bが参入した際、Aのみが競争的戦略か協調的戦略を取ることが出来るとする。前者の時利得ベクトルは(5、-2)、後者の利得ベクトルは(3,3)となる。この時、両者の最適戦略の組を記せ。また、競争的戦略をとったときの利得ベクトルが(2、-1)となった場合ではどうか。」(この問題は皆さんでもできます!暇なときチャレンジ!)
「AとBが1mの金の延べ棒を分け合うゲームを考える。まず、Aが自分の取り分xA1を提案する。Bがこれで納得した場合、取り分は(xA1、1-xA1)となる。納得しない場合、BがxB1を提案する。Aが納得した場合、取り分は(1-xB1、XB1)となる。これで納得しなかった場合、次にAがxA2を提案し、納得した場合は(δxA2、δーδxA2)となる。δは割引因子であり、δ∈[0,1]である。これらをどちらかが納得するまで繰り返し、1期ごとに割引因子が乗算されていく。このとき、二人の取り分はどのように決まるか。」(相互提案ゲーム)
「AとBの二人がオークションを行う。より高い価格を入札した方が商品Xを手に入れるが、その時の買値は低い方の入札額となる。どちらも自然数の範囲で入札額を決定することが出来、Aにとって商品Xの価値は2.5、Bにとっては5.5である。二人の戦略は入札額とし、双方の戦略は同時に提示される。また、以上の条件は全てABともに既知であるとする。この時、均衡での戦略の組を求めよ。ただし、入札額が同じであった場合、両者は商品を半分ずつ受け取り、半分ずつ額を支払うとする。」(ベイジアンゲームにおけるSecond-Price Sealed Bid Auction)
などなどなど。どうでしょう。皆さんの心をくすぐるやたらと長い用語がバシバシ出てきますよ。これらを学ぶことで、様々な経済学上の現象を数学的に説明できるようになるのです。
そう、ゲーム理論はもはや「数学」です。文系とはとても思えません。というより、ゲーム理論家のほとんどが本業は数学者です。経済学は根本のところでは数学と不可分です。数学恐怖症だけど経済に興味があるという人は、是非高校数学でつまづかないよう実力を磨いてください。
長くなってしまったので、答えが気になる(物好きな)人は伊沢まで聞きに来てください。時間がある時解説いたします。
さて次にマクロ経済学について。ミクロに比べて学問的に新しいこの分野は、経済学上の巨人・ジョン=メイナード=ケインズによる「ケインズ革命」により開かれた学問です。主に、税収増や国際的な取引、金利や貨幣量の変化が、国の経済(需要と供給、貿易量などなど)にどのような影響を与えるのかを解き明かしていきます。分野としての新しさゆえに曖昧な部分が無くはない学問であり、ミクロよりも難しいというのが第一印象です。
とはいえ現在の最先端はマクロ経済学であり、人気の高い学問でもあります。マクロ系のゼミは総じて選抜の競争率が高く、特に女子率が高い!という点も注目です(今年度は珍しくゲーム理論の松井ゼミが一番人気でした)。
リーマンショック以来の停滞的な国際経済、株価の動向、国際の理論などなど、やはりニュースで聞く多くの問題はこの学問で解き明かすことが出来ます。私はこのジャンルがとーっても苦手なので、あまり詳しい解説や理論の紹介をすると間違いが出そうなのでやめておきますが、興味がある!という方はお声掛け頂ければテキストなどお見せいたします。何が苦手って、短期なり長期なりモデルごとの設定がややこしくてそのたびに説明理論が変わるんだもの......。
はじめに、が劇的に長くなってしまいました。ということで、続きを次回に譲りたいと思います。次あらば、私が専門的に習っている財政学や、統計の面白さについて、さらにはここで紹介できなかった経営や金融についても軽くご紹介しようと思っております。
模試、落ち着いて頑張って下さい。遅刻だけはしないように。ではまた後日。
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