東大特進コースのスタッフによる第一回東大本番レベル模試の所感です。
今回は【地歴】です。
受験生目線の所感です。復習の参考にしてください。
■世界史
・総評 やや易
やや易というのは、あくまで本番レベルから見た時の評価です。まだ学習が追いついていない分野がある人がほとんどでしょう。知らないものは書けません。そこにクヨクヨしなくても、この時期はまだ全然大丈夫です。むしろ今インプットが完璧でも、やらなければ忘れます。肩の力を抜いていきましょう。
その上で、せっかく長い時間頑張って模試を解いたんですから、がっかりするだけでなくて何か収穫も得たいわけです。細かい問題解説は解答に譲るとして、この所感ではそれぞれの出題に付随して、今後どういうふうにインプットを進めていけば良いかのアドバイスをふんだんに盛り込みました。最後に要点も箇条書きでまとめておきましたので、よければ参考にしてください。
・第一問 やや易
第一問を解く時最も意識すべきこと。それは解答の枠組みです。絶対にこれは練習の時から意識してください。時間をかけてもいい、しっかり解答の骨組みを設定して、その中に知識を詰めていくと言う作業を怠らないことです。
今回の問題がとても良心的なのは、問題文の前半三分の二が答えの枠組み・流れを提供してくれていることです。模範解答を見ていただければお分かりの通り、その枠組みに依拠して政治史・文化史の知識を詰めていけば、ある程度似た解答が書けそうですよね。本番でもこういう問題って結構多いです。
高得点を取れる完璧な解答を書くことは、第一問での主眼ではありません。軸の定まった、とりあえず書いたぞと言う安心感を得られる解答を書き殴ってくること。他の問題にメンタル的・時間的に悪い影響を与えず乗り切って、得点はそれなりに稼げればラッキー。そういう問題です。
そして、それなりに一貫した軸に沿って600字も書くこと自体、容易ではありません。だからこそ、練習の時はそこを意識することが大事なのです。その上で、利用できるものは利用しましょう。問題文が軸の設定=枠組み構築の作業を省略させてくれているのなら、こんなお得なことはありません。これに気づかず、指定語句から浮かぶワードを無理やり繋いだような解答を書いて差をつけられるのは、やっぱりちょっと愚かしいですよね。
骨組み→肉詰めと言う流れを徹底しましょう。練習あるのみです。
・第二問 やや易
問(1)
(a) やや易
A,Bを答えるのはそれほど難しくなかったと思います。問(1)だけで考えようとして問(3)をみず、時間をロスした人がいたかもしれませんね。問題文から最大限論述の方向性のヒントを拾ってくるのは東大世界史の必須の作業です。問題全体を見渡して、考える材料は集めた上で問題に向かう癖はつけておきましょう。
そして、この問題を解くため必要な「比較の視点」は超重要です。今後のインプットの際、常に意識しておきましょう。通時的・共時的な制度の比較は、特に第一問では頻出の問いの形式です。
(b) やや易
これも簡単な定義説明の問題ですね。Cの絞り込みに関しては、学習が追いついていれば困難はなかったはずです。あとはどれほど精緻な説明ができるかどうか。デヴシルメくらいメジャーな知識は解答レベルの説明ができて欲しいところですが、もちろん全ての知識について完璧な説明をすることは不可能です。ある知識のどこが核でどこは枝葉末節なのか、ということを明確に意識してインプットすることが大切です。教科書に書いてあることを漏れなく説明できるようにしておければ十分すぎるくらいでしょう。これが問(3)の(b)でも述べる、知識の濃淡を意識すると言うことにつながってきます。
問(2)
(a) やや易
問(1)の(a)で述べたことですが、東大世界史に向けたインプットでは比較の視点を持つことが大事です。スンナ派とシーア派の主張の相違点は教科書にも書いてあるレベルの知識なので、しっかり説明できるようにしておきましょう。どういう点で区別されていたかという一つの争点を記憶しておくことで(今回の場合は「カリフの正統性をどう考えるか」ということですね)二つの知識を網羅できるわけですから、結局力技で覚えるよりこちらの方が効率もいいわけです。集約的に知識を蓄え、演繹的に論述しましょう。
(b) 標準
イスファハーンの名前は答えられて欲しいところです。「イスファハーンは世界の半分」なんて記憶に残りやすい格言もあるお得な知識ですからね(あえて「一番」とか言わず、「半分」なんて微妙にインパクトのない言い方をしているの、印象的じゃないですか?笑)。
この問題でおそらく多くの受験生の反省ポイントになるのは、その位置です。日頃資料集や教科書でちゃんと確認していますか?言葉で覚えているだけだと、頭の中で歴史の流れのイメージが浮かびにくいです。面倒でも、教科書に書かれている出来事の展開を空間的・可視的に把握する努力は結果的に一番効率的です。小説なんかも、細かい展開は忘れても、頭にふと思い描いた情景だけ印象に残っていることってありませんか?物語を視覚的なイメージに描き起こすのって記憶の保持にすごく効果的なんです。知識量が膨大なら尚更です。
(c) やや易
アウラングゼーブ→非ムスリム弾圧、という一対一対応的な知識は多くの人が持っていたのではないかと思います。そしてその影響として諸反乱を思い起こすのも、知っていれば容易でしょう。
ここでもインプット論を述べるとすれば、「理由」と「影響」というのも大事な視点です。言い方を変えると、インプットは文章形式で行いましょうということ。単語を一対一対応的にインプットするのは非効率です。「Aがあって、Bと絡んでCの原因となって、Dを伴ってEが起こった」みたいに、知識を連鎖させて覚えていけば、第三問・第二問はもちろん第一問も怖くありません。
本問で言えば「アウラングゼーブの非ムスリム弾圧が諸反乱を惹起した」というのを一単位としてインプットしておこうということです。単語詰め込み型の学習をしていた自覚がある人は、まだ全然遅くないですから、文章単位のインプットを心がける方針に切り替えることをお勧めします。点だけの知識でなく、それらを辿る線まで含めて覚えると言うことです。
そしてこの連鎖を辿ることが、ひいては前述したような通時的・共時的「比較」を容易にしてくれるわけです。
問(3)
(a) 標準
問2(b)と同様、空間的なイメージを大切にしましょう。文面だけで記憶するのはちょっときついですよね。地図を見て、当時の清の版図を確認して、教科書で併置されている事項がどこで成されたことなのかを確認する。それぞれざっくり南北東西に対応していることがわかると思います。そうすれば単語をうっかり忘れても、「東の方でやってたの何だっけ...」みたいに空間的な想起のフックができるわけです。
そして問2(c)で述べたような知識の連鎖もできていれば、それぞれの方面の事項についてどういう経緯で起こったかを想起するという時間的なフックもできます。空間的(視覚的)・時間的(物語的)な知識の獲得に努めましょう。
(b) やや易
オスマン帝国とヨーロッパの関係を把握する上で、第二次ウィーン包囲の失敗は前者の影響力の後退・ヨーロッパの覇権への邁進を象徴する、メジャーな出来事です。当然押さえておきたいですね。
これは第一問対策に接続する注意事項ですが、今まで述べてきたようなインプットのノウハウに加えて、もう一つ意識するといいのは「その知識が持っている意味合い、位置付け」です。ちょっと応用フェーズの話ですけど。
つまり、空間的・時間的に頭の中に知識の流れが構築された上で、さらにそれらの濃淡、強弱とでもいうべきものを意識するということです。マクロな流れの中である知識が象徴すること、本問であればウィーン包囲の失敗がマクロな流れの中でどういう意味合いを持つのか。逆にそういう意味合いを持つ出来事があることから、マクロな流れとして17世紀後半からオスマンの衰退が始まったと言えるのを知る。ミクロ(諸知識)とマクロ(全体の流れ)を行き来して、知識を精緻化していく作業がとても大切です。
・第三問 やや易
近現代については学習が追いついていない人もいたかと思いますが、本番レベルとしては難しい問題はなかったかと思います。(6)でイギリス産業革命期の繊維関係の開発者・開発したもののペアを混同してしまうというミスはありうるかもしれませんが、それでも9割をしっかり確保したいところですね。
模試の第三問は、正答が書けることはもちろん必要として、問われている単語から問題文のような説明をアウトプットすることができるかの確認の機会にするのがいいと思います。逆向きに利用するわけです。それが前述のような知識の連鎖を構築する最良の方法となります。
・ インプット要点まとめ
ⅰ 時間的な知識の獲得...単語だけでなく、その繋がりも含めインプットする
ⅱ 空間的な知識の獲得...地図などを活用し、なるべくⅰの知識を可視化する
ⅲ 比較の視点...ⅰ,ⅱで獲得した知識を通時的・共時的に比較する
ⅳ 知識の濃淡...ⅰ,ⅱで獲得した知識がマクロな歴史の流れの中で持つ意味合い・立ち位置を把握し、第一問でも活用できるより大きな知識に統合する
■日本史
総評:標準
全体的には、東大日本史にも頻出の部分が出題されていて、標準的な問題となっているようです。支配体制や土地制度などの構造はまだ理解しきるのは難しいかもしれませんが、模試などの復習や教科書を通して入試本番までに習得し、しっかり知識を備えることをおすすめします。また、条件文を利用してどこまで書くかという判断がまだ難しく、あいまいな解答が多く見られそうですが、これも演習の積み重ねで後々できるようになればよいかと思います。
第1問 標準
A やや難
問題文から何を書けばよいのかがやや読み取りにくかったかもしれませんが、問題文をよく精査し、条件の部分と主題の部分を見つけることができれば何について書けば良いかの方針が定まりそうです。また、提示されている文章をいくつ利用して解答を記述するかはなかなか難しいと思います。大問の設問全体を見て各設問がどこに対応しそうかの目安をつけることもヒントになってくると思います。
B 標準
「どのように異なっていたのか」と聞かれているので、違いが明確になるように解答を書く必要があります。そのためにはまず、提示されている文章を利用して、どういった構造になっているかを把握する力が求められます。
第2問 やや難
A 標準
解答に求められることが複数ある一方で、字数制限が厳しめの問題となっています。どれだけ簡潔に、過不足なく情報を入れるかが難しいところです。ある程度特徴的な言葉を入れて具体性を出しましょう。
B 標準
本所一円地を含め、当時の土地制度についての知識を復習しておきましょう。
C やや難
条件文から読み取るのがなかなか難しい問題でした。悪党と荘園領主、幕府との関係が対立しているのか、協力関係にあるのかなど、人物同士がどう絡んでいるのかを考えるのがポイントです。
第三問 標準
A やや易
基本的な知識問題です。東大日本史では稀な出題ですが、しっかり復習しておきましょう。現段階では知らない知識でも、解答解説で詳しく説明されているので、今のうちに覚えておくとよいです。
B 標準
提示されている条件文はかなり具体的な歴史的事実を記載しているので、そのまま書くのではなく、ある程度の一般化が必要です。時期が指定されているので、その時期に特徴的な言葉を解答に盛り込むことが大事です。
第四問 やや難
A 標準
(1)で説明されている人物がわかっている前提で、その人物の名前だけを書くのではなく、その人がどういう立場の人かという情報を載せると、より解答がわかりやすくなると思います。
B やや難
近現代史は知識の側面が色濃く出るかと思います。今回の問題のように、憲法における天皇に関わる権限の在り方や、軍と政党の関係は難解ではありますが、頻出かつ重要な部分なので、教科書を用いてしっかり頭に入れましょう。教科書で使われている言葉、特に動詞は、短くても内容を十二分に伝える言葉が使われているので、普段使わない言葉が多いかもしれないですが、自分の解答にも使えるようになると良いですね。
■地理
総評:標準
細かすぎる知識や突飛な発想はあまり必要とせず、基本的な知識と与えられた図やデータをいかに結びつけて考えられるかが問われた、標準的な難易度の典型的なセットでした。ただ、まだ地理の勉強まで手が回っていない受験生にとっては高得点を目指すのは難しかったかもしれません。今は点数を気にするよりも、焦らずに基本的な知識をその背景やメカニズムまで含めて少しずつ理解していくことに注力してほしいと思います。
第1問
設問A:やや易
(1)オーストラリア東岸地域沖を暖流の東オーストラレア海流が、ペルーと地理北部の西岸地域沖を寒流のペリー海流が流れていることは必須の知識です。あわせてベンゲラ海流の影響を受けるナミブ砂漠なども確認しておきましょう。
(2)その地域でさかんな農業を一対一で暗記するよりも、この問題のように地形や気候などの自然環境と関連づけて覚えた方が知識も定着しやすいはずです。覚えてもすぐ忘れてしまう人はインプットの仕方を少し模索してみてはいかがでしょうか。
(3)アメリカの農業はどの地域について聞かれても答えられるようにしておくと良いでしょう。その際、地形、気候、土壌、植生なども関連させて理解できると良いですね。
(4)「落葉広葉樹」まで解答に入れるのは少し難しかったかもしれません。
設問B:標準
(1)アラル海の問題は頻出です。アラル海が「内陸海」であることをしっかり押さえて過不足のない解答を作りましょう。
(2)都市型水害についてなんとなく理解していても解答を作るとなると戸惑った人も多いのではないでしょうか。指定語句もヒントにしながら一つ一つ論理立てて解答を組み立てることが求められる問題でした。
(3)それぞれの地形の形成過程も要チェックです。
第2問
設問A:標準
(1)中国とA S E A Nの工業化の時期は他の問題でも必要となる重要な知識なので大体の年代を把握しておきましょう。
(2)これは知識問題というより「仕向地主義」「原産地主義」の意味などをどこまで理解できたかが鍵となる問題でした。また表の欄外の記述にまで注意を向ける必要性も分かる問題だと思います、頭の片隅に置いておきましょう。
(3)「発効」の使い方が少し難しかったです。一帯一路構想は近年よく話題に上っているのでこの機会に一度押さえておくと良いですね。
(4) 地理的背景が思いつかなかった人も、解答を見てこんなことでいいのか!と思ったかもしれません。陸続きであることも地理的背景の重要な要素であることを覚えておきましょう。
設問B:標準
(1)イギリス系とアイルランド系との宗教の違いは基本的な知識です。政治的な理由はさまざま考えられますが、字数からあまり複雑なことは書けないと判断し、自由往来が合意の象徴であることなどが説明できれば良いでしょう。
(2)一見すると何を書くべきか方向性がブレそうですが、指定語句をヒントに解答を組み立てていきましょう。EU域内の移動の自由により南欧からの労働移民が多くいることはヨーロッパの移民問題でよく聞かれる内容です。それに伴う課題とともに確認しておきましょう。
第3問
設問A:標準
(1)表を落ち着いて読み取れることができれば正解できたと思います。ただ、この選択問題を間違えると後ろの問題にも影響してしまうため、選択問題といえども慎重に解きたいです。
(2)福岡市、名古屋市、仙台市が城下町として発展したのは地理の知識というより常識的な知識である気がします。日頃からさまざまなことにアンテナを張っておくと案外問題を解くのに役立つかもしれませんね。
(3)卸売販売額と(この問題には出てきませんでしたが)小売販売額に関する問題は都市の分野においては頻出問題です。あやふやな人は整理しなおしましょう。
(4)第2問設問B(2)に引き続き、指定語句がヒントになっています。福岡市が中国をはじめとするアジアの成長市場に近いことに気づけると正解にぐっと近づいたかもしれません。
設問B:標準
(1)中心駅の位置の加え、鉄道路線にも注目する必要があります。
(2)都市分野における典型問題です。CBD、郊外住宅地のそれぞれの特徴や問題について、もう少し長めの字数での説明を求められても答えられるようにしておくと安心です。
(3) 郊外化、ドーナツ化現象、インナーシティ問題、都心回帰現象...など人口の問題では必ずと言っていいほど問われるものは、意味も背景もそれぞれの関係もしっかり書けるようにしておきましょう。
(4) 字数が短いため必要な要素をもれなく簡潔にまとめなければなりません。
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