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情報コンテンツ制作 編

 2013年にNHKが先鞭をつけた「ハイブリッドキャスト」は、インターネットに接続されたテレビに番組情報やニュース、気象情報などを映し出す新しいテレビサービスである。すでに民放各社でも導入が進んでおり、「日本版スマートテレビ」の呼び声も高い。そこで今回は「ハイブリッドキャスト」の情報コンテンツを制作しているNHKエンタープライズの川上秀人氏と前田航洋氏のお二人にご登場いただく。次世代テレビサービスの制作舞台裏をお伺いした。

映像もハイブリッド化する!テレビとインターネットが融合した次世代

株式会社NHKエンタープライズグローバル事業本部
事業展開センター デジタル・映像イノベーション プロデューサー

前田 航洋  (まえだ こうよう)

1987年 神奈川県生まれ
2005年 神奈川県立 横浜翠嵐高校卒
2012年 東京外国語大学 外国語学部 東南アジア課程マレーシア語専攻卒
2012年 株式会社NHKエンタープライズ入社 NHK情報系の番組制作ディレクターなどを経て、現在に至る。

テレビの新時代を予感させる「ハイブリッドキャスト」とは

 NHKが2013年9月にスタートさせた「ハイブリッドキャスト」というサービスをご存知だろうか。サービスに対応したテレビをインターネットに接続することで、ニュースや気象情報、番組の詳細を確認できるというもので、従来のデータ放送よりも鮮明な画質で楽しめる点が大きな特徴の一つだ。また、スマートフォンやタブレットと連携して、手元で簡単に知りたい情報にアクセスできる「セカンドスクリーン」という機能も提供されている。まさに放送と通信が融合した新しいテレビサービスといえよう。

 この「ハイブリッドキャスト」で提供する情報コンテンツを制作しているのが、株式会社NHKエンタープライズである。東進タイムズ2016年1月号で高専ロボコンの舞台裏を紹介したが、同社はNHKの番組制作のみならず、さまざまなコンテンツ事業を展開している企業だ。

 「弊社の業務は、大きく二つに分けることができます。一つがNHKの番組制作。そしてもう一つが、番組を核としてさらなる事業化を図っていくことです。ロボコンなどのイベント企画も事業の一環ですが、私が関わっているのはインターネットなどを活用した新しいサービスの提案です」そう語るのは同社のデジタル・映像イノベーション部門でプロデューサーを務める前田航洋だ。

 「具体的には、番組ホームページやデータ放送、そしてハイブリッドキャストの企画制作などが挙げられます。とりわけハイブリッドキャストは今までにない新しいメディアですから、試行錯誤の毎日です」。

 実は、民放各社もすでにハイブリッドキャストを展開しているところがあり、同サービスは「日本版スマートテレビ」との呼び声も高い。注目を集めている技術だけに、どのようなコンテンツを提供できるかが普及の鍵を握るといっていい。

 「これまでよりも多くの情報を、番組に連動させて送ることができる点がハイブリッドキャストの強みです。だからといって情報過多になってもいけません。常に視聴者の目線で考えて、番組の流れの中でどのような情報が求められるのか、あるいはどのような演出であれば便利に使ってもらえるか。そうした点をポイントにコンテンツを制作しています」。

「まだ誰もやったことのないこと」に挑戦し続ける

株式会社NHKエンタープライズグローバル事業本部
事業展開センターデジタル ・映像イノベーションエグゼクティブ・プロデューサー

川上 秀人  (かわかみ ひでと)

1961年 東京都生まれ
1980年 東京都立 九段高校卒
1986年 早稲田大学 文学部卒
1990年 東京工芸大学 工学部卒 同年 株式会社総合ビジョン 入社
2004年 株式会社NHKエンタープライズ移籍 デジタル開発、アニメ事業、事業開発などを経て現職

映画少年からデジタル映像の世界へまさかの文学部から理工学部へ

 NHKエンタープライズでエグゼクティブ・プロデューサーを務める川上秀人は、生粋の映画少年だった。子どもの頃から親に連れられてよく映画館へと足を運んだ。また、1970年の大阪万博を始めとする大きなイベントにもよく連れ出してもらったという。

 「当時から映像クリエイターになりたいという気持ちはありました。中学生の頃から自主映画を制作していましたから、大学入学後はすぐに映像制作の現場でアシスタントディレクターの仕事に就いたものです。そのときからすでに映画業界の予備軍のつもりで働いていましたね」。

 しかし日本の映画業界は当時、斜陽産業といわれていた。大規模な予算を投入したハリウッド映画の勢いに押され、多くのクリエイティブな人材がテレビやCMの現場に移っていく。そんなとき、川上が出会ったのが、NHKが中心となって開発を進めてきた「ハイビジョン(高精細度テレビジョン放送)」だった。従来のテレビよりも多くの情報を送ることのできるハイビジョン、今でこそ4K、8K技術が現実のものになっているが、当時高画質で臨場感のある映像体験をもたらす最先端の技術であった。さらに、世の中は急速にデジタル化の波が押し寄せていた。そこで川上は、驚くべき行動に出る。

 「私は当時文学部の学生で、デジタルの知識をまったく持っていませんでした。そこで理工学部へ入学して、勉強し直すことにしたのです」。

 なんと川上は、早稲田大学を卒業後、さらに東京工芸大学の理工学部へと進学するのである。「デジタル・レボリューションの渦中で映像を作りたい」――そんな強い一念からの挑戦だった。

Q&A

仕事をするうえで手放せない「三種の神器」を教えてください。

「タブレット」「Wi-Fiルーター」「ガラケー」です。いつでもどこでも仕事のスイッチを入れられるように、この3つはいつも携行しています。

これからは「ハイブリッドキャスト」はどう進化していきますか?

例えばスポーツ観戦にはハイブリッドキャストは有効だと考えています。スマホのセカンドスクリーンで自分の好きな選手やボールだけを追う映像にフォーカスしつつ、テレビでは全体の試合場面を観るという楽しみ方ができるようになるかもしれませんね。

プログラミング言語の専門知識は必須ですか?

講習に通って集中的に勉強したことはありません。それこそ現在の部署に配属されたときはHTML言語も知りませんでした。けれども毎日接していくうちに、だいたいのことはわかってきます。細かいところは専門家に任せて、あくまで全体を把握するのが私の役目です。

学生時代から放送メディアを志望していたのですか?

いいえ。実は高校生の頃は法曹界へ進みたいと思っていました。しかし浪人中に実際に裁判を見学する機会があって、そのときに自分は裁判官も弁護士も検察官も合わないのではと思ってしまったんです。被告に感情移入しすぎてしまったんですね。

最近、仕事で緊張したことは?

実はこの取材の前日、とても大事なプレゼンがありました。駅などに設置してあるデジタルサイネージと呼ばれる電子看板を見かけることが多くなったと思いますけど、それを使った新しいビジネスの企画開発を手がけていて、その提案をしに取引先に行ったのです。弊社及び取引先企業の幹部の方々を前に、とても緊張しました。

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デジタルコンテンツプロデューサーとは

IoTを活用した技術革新が日進月歩で進む現在、テレビとインターネットの融合は急速に進みつつある。そうした新しい流れの中でニーズをキャッチし、それに応えるコンテンツをを創り出すのがデジタルコンテンツプロデューサーの責務となる。優れた先見性、プロジェクトをゴールへと導くプランニング能力、強いリーダーシップ、チームをまとめ上げるマネジメント能力は必須。そのほか資金や人員の手配など、常に全体を見渡す広い視野も必要だ。

デジタルコンテンツプロデューサーになるには

専門学校、短期大学、四年制大学を卒業したのち、制作会社へ入社するのが一般的。NHKエンタープライズの場合、初めは取材や演出を行うディレクターから始まり、経験を積んだ後に企画を推し進めるプロデューサーへと進むのが通例。デジタルメディアを含むコンテンツビジネスは我が国でも成長産業と位置づけられているものの、慢性的な人材不足とされ、その育成が急務とされている。写真:イトマン所属日本代表選手 入江陵介、塩浦慎理、中村克、山口美咲私たちイトマンスイミングスクールは水泳を通して「独立自尊の社会・世界に貢献する人財」を育成しています。