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総合科学メーカー業界

 厳しい現実を知り、諦めた研究者の道。理系学部から大学院に進学せず、総合化学メーカーの東ソーに入社。

 働きがいを感じられる風土作りを目指す。

総合化学メーカーへの就職を選んだ理系女子 その理由は「好奇心」

営業と人事で感じてきた確かな手応えと達成感


東ソー株式会社 人事部 人事グループ

齊藤 由夏  (さいとう ゆか)

1995

埼玉県さいたま市で生まれる。『ファーブル昆虫記』を愛読し、昆虫や生き物を飼育する父親の影響を受け、生き物や植物が好きになる。今でもクワガタは「手に乗っけていたいぐらい好き」。運動は苦手ながら、中学では卓球部に入り、さいたま市の大会で団体2位に。県大会にも出場した。

2011

埼玉県立浦和第一女子高等学校に入学。毎日が「楽し過ぎた」という高校時代の友人とは今も親しくしていて、毎日、誰かしらと連絡を取っている。

2014

埼玉大学理学部に入学。大学のクラスメートたちは穏やかで優しく、家族のような関係に。大学のクラスメートは8割が大学院に進学した。

2018

東ソー株式会社に入社。バイオサイエンス事業部の営業部に配属される。3年半を経て「まったく別の人間になった」と実感。

2021

人事部人事グループに異動。現在に至る。

得意の理数で進学校に合格も 高校で躓き第一志望を逃す

 日本には、売上高が1兆円を超える企業が約170社ある。そんな日本を代表する企業の一つが、山口県発の総合化学メーカー、東ソーだ。

 エスカレーターの手すりなどに使われる特殊合成ゴム、歯科用などに使われるファインセラミックス用ジルコニア粉末は世界シェアナンバーワン。海外19カ国に約50拠点を持ち、海外での売り上げが51%を占めるグローバル企業である。

 また、メディアによる「離職する人が少ない大企業ランキング」「新卒3年後定着率ランキング」などで上位につける、働きやすい企業としても知られる。

 2018年、同社に入社した齊藤由夏さんは、理系出身で事務系総合職として採用され、現在は人事部人事グループで働いている。「大学院に進むよりも、東ソーで働くことへの好奇心が勝った」と語る彼女の歩みを振り返ろう。

 1995年、埼玉県さいたま市で生まれた齊藤さん。小学生の頃から理科と算数が得意だった。「算数って自分が理解して解いていれば、ハッキリと答えが出ますよね。それがすごく楽しかったんです。家では父がカブトムシ、クワガタ、ドジョウやメダカを飼っていたので私も生き物や植物に興味を持って、理科が好きになりました」

 一方、国語と社会は不得意で、中学に入ってもそれは変わらなかった。英語は特に問題なくできたため、高校受験の際には国語と社会の穴を数学と理科で埋めよう、将来は理系の道に進もうと考えていた。

 齊藤さんの第一志望は、埼玉県立浦和第一女子高等学校。校風に惹かれた。「説明会に行った時、けっして新しくはない校舎だったんですけれど、すごくきれいで空気が澄んでいる感じがしたんです。部活動をしている先輩の姿も見えて、この雰囲気ならやっていけるかもと思いました」

 2011年、合格を勝ち取った。埼玉県でも屈指の進学校で授業の難易度が高く、毎日の予習と復習が必須で、「勉強がとにかく大変でした」。それでも「昔から興味があった」という弓道部に入り、学校から弓道場まで片道約10キロの道のりを自転車で走りながら、部活に打ち込んだ。

 高校の思い出といえば、授業の合間の休み時間。「同級生に魅力的な人がたくさんいたんです。予想外の行動をする子もいれば、お笑い芸人のような子もいれば、よくわからない物理の話をしている天才肌の子もいる。毎日本当に楽しくて、笑いすぎて椅子から落ちたこともあります」

 塾に通い、大学受験を意識するようになった高1の時、とある大学の存在を知り、学園祭や説明会に行って、「ここで生物の勉強がしたい!」と思うようになった。

 しかし、高3になって得点源だった数学で躓いてしまう。悩んだ末に、浪人は考えていなかったため、現在の実力で学びたい分野のある埼玉大学の理学部に進学した。


大学院よりも魅力を感じた東ソーに入社 営業として奔走

 大学では、分子生物学科を専攻した。クラミドモナスという藻類の研究を手掛け、実験を繰り返す日々。それは自分が望んでいた学生生活で、大学院に進むこともできた。そこであえて就職活動を始めたのは、「いろいろな会社を見てみたい」という好奇心に加え、研究者になる道を諦めたことも影響している。

 「当初憧れていた大学への挑戦を辞めてしまったことで、研究者は自分よりも優秀な人が挑める世界だと思ったんです。そこで、研究者以外の選択肢も考えるようになりました。それに、私は生活よりもなによりも研究というタイプではなかったので、中途半端な研究をし続けても社会人として独り立ちできないんじゃないかと思っていました」

 就職活動中は、社会勉強のつもりで化学や食品などのメーカー、IT、テレビ、出版、銀行など業界問わず幅広く見て歩いた。そうするうちに、多様な人と関わることで人生が豊かになるのではないかと感じるようになった。そして、就職先として最も魅力を感じたのが東ソーだった。

 「私がすごく興味を持っていたバイオサイエンスに力を入れていたんです。ほかにも知らない素材をたくさん作っていたので、大学院に進みたい気持ちもありましたが、この会社でいろいろな人や情報に触れるのもおもしろそうだと思いました。制度も充実していて、女性でもずっと働くことができそうと思えたのも、就職を選んだ理由です」

 2018年春、東ソーに入社。新入社員研修を経て配属されたのは、バイオサイエンス事業部の営業部だった。

 齊藤さんの仕事は、病院で使う検査機器や検査試薬などの営業。西東京の担当になり、連日、病院の検査技師を訪ね歩いた。

 研修を受けたとはいえ、最初の頃は現場のビジネスマナーがよくわからず、上司や先輩にはメールのやり取りから指導を受けた。

 扱っているのは繊細な機器なので、トラブルが起きることもある。そのクレームが届くのも、真っ先に対応に出向くのも、営業の役割だ。そういう時に支えてくれたのは、同じ部署の仲間だった。「上司、先輩、同僚に恵まれていたので、なにかあっても誰かが助けてくれるという安心感がありました」

 またトラブルが起きるかもしれないと思うと不安で胃が痛くなることもあったが、信頼する上司から「どんなに準備をしていても、なにか起こる時は起こる。そこをなんとかするのが営業部の仕事なんだ」と言われて、吹っ切れた。

 学生時代、研究に使う機器に触れてきた理系の強みも生きた。納品後のアフターフォローをする際、実際に機器の点検などをすると「ありがとう、助かります」と喜ばれたのだ。

 「定期的に全国のお客様から製品や担当営業に対する評価を集計し、フィードバックを受けていました。ほとんどのお客様は忙しいので点数だけなのですが、なかにはコメントを書いてくださる方もいました。『齊藤さんにはいつもお世話になっています』という一言だけでもすごく嬉しかったですね」

成長を促す人事の仕事 教育と研修に手応えと達成感

 営業を3年間勤めた齊藤さんが、人事部へ異動したのは2021年10月。それから現在まで、社員の教育と研修を担っている。

 営業とはまるで違う業務で、「教育、研修ってどういうこと?」というところからのスタートだった。しかし三年目の今では、社員の成長を促す業務として、手応えを感じているという。

 例えば、齊藤さんが担当している新入社員研修では、会社の理解を深めること、学生から社会人へ気持ちを切り替えること、同期とのきずなを深めることが目標に設定されている。

 入社したばかりの若者たちが一カ月に及ぶ研修を終えてその目標を達成したと口にし、齊藤さんから見てもそう実感できた時、「やるべきことができた」と満足感を得るそうだ。「私が入社した5年前を思い出してみても、新入社員ってこれからどこに配属になるかも、勤務地もわからなくて、不安いっぱいですよね。その状態から、現場に出ても困らないように一カ月でできる限りのことをするという研修なので、研修が終わった時の達成感は、本当に大きいです」

 近年、東ソーでは社員のキャリア教育も拡充しているそうで、そこにも人事部が携わっている。社員一人ひとりが能動的にキャリアを描き、これまで以上に自分らしく働きながら個性を発揮できるよう意識改革をするのがミッションだ。

 「人事に来て日が浅いので、もっと会社に貢献できるようになりたい」と語る齊藤さんは、キャリア教育に関する資格を取得するなど勉強を進めている。

 「教育、研修の立場から、東ソーで働いている人たちが、より働きがいを持って仕事ができるような風土づくりをしていきたいですね」

Q&A

理系で良かったことは?

数字や機械の扱いに抵抗がない。でもあまり理系だという自覚はありません。

オフの過ごし方は?

同期や友人とよく食事に行きます。美術館もよく行きますね。