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清凉飲料業界

お茶に可能性を感じて入社した伊藤園。営業を経て、マーケティング本部へ。味の設計、製品名やデザインの選定など、売り上げのカギを握る仕事を担う。

学生時代に感じたお茶のポテンシャル。

ギネス記録を持つ伊藤園で気づいた課題。若者市場の開拓に挑む

株式会社 伊藤園

マーケティング本部 緑茶ブランドグループ

寺口 寛司  (てらぐち ひろし)

1993
兵庫県加古川市で生まれる。
同年代が多い住宅街で元気に過ごす。ピアノ講師の母親のもとで3歳からピアノを習い始める。夏と冬の演奏会に向けて、毎日90分練習。中学校の卒業式で演奏する。小学校高学年から中学まで、野球に熱中。
2009
兵庫県立加古川西高等学校入学。
バドミントン部に入部し、県大会ベスト8進出。
2012
関西大学文学部総合人文学科へ。
ドライブ旅行にはまり、日本全国を巡る。
2016
伊藤園入社。中部地域営業本部名古屋南支店で勤務。
マーケティング本部に異動。「麦茶・紅茶ブランドグループ」に配属。「TULLY'S&TEA SPECIALTY 紅茶ラテ」などの新製品開発や既存製品のリニューアルに携わる。2023年より「緑茶ブランドグループ」所属。

 コンビニ、スーパー、ドラッグストアなどでよく目にする「お~いお茶」。伊藤園が1989年に名称を変えて発売した同ブランド緑茶飲料製品は、2018年から4年連続で「最大のナチュラルヘルシーRTD緑茶飲料(最新年間売り上げ)」販売実績世界一としてギネス世界記録TMに認定されており、累計販売本数は400億本を超える。(※RTDとは「READY TO DRINK」の略称で、ふたを開けてすぐに飲める飲料のこと)。緑茶飲料として世界一の売り上げを誇る「お~いお茶」シリーズの新製品開発やプロモーションなどを手掛けるのは、伊藤園のマーケティング本部の「緑茶ブランドグループ」だ。2016年に入社し、昨年からこの部署で若者に「お~いお茶」を手に取ってもらうための挑戦を始めた寺口寛司さんは、こう意気込む。


「お茶は若者離れが進んでいるんですよ。もっと若い世代に興味を持っていただけるような製品、仕掛けを作っていきたいですね」

苦手な数学の勉強に苦労しながらも、地道に弱点克服し、関西大学に合格

 寺口さんは1993年、兵庫県の加古川市で生まれた。父親は工場の機械を作る仕事、母親はピアノ講師をしていた。


 三歳から始めたピアノは、母親の職場でもある神戸の教室に通いながら、毎日90分練習した。しかし、小学校の高学年から始めた野球の方が楽しかったこともあり、ピアニストへの道は「考えていなかった」という。


 高校は、地元の加古川西高等学校に進学。野球を離れ、バドミントンに打ち込みながら、予備校にも通うようになった。部活と予備校、ピアノの両立が難しくなり、高校1年生の時にピアノをやめた。


 同学年のほぼ全員が進学する環境で、大学受験を意識したのは高校2年生の冬。好きな歴史を学びたいという希望と、「現時点の学力よりちょっと上を目指そう」との考えもあり、関西圏の難関私立、関西学院大学、関西大学、同志社大学、立命館大学を志望校に据えた。


 得意な文系科目に比べ、苦手な数学の勉強には苦労したと振り返る。「先生に言われて、まずは基本的な問題を100%できるようにするところからスタートしました。少しずつレベルを上げて、わからなかったら、すぐ質問することを繰り返しました。でも苦手だからやりたくないという気持ちが抜けなくて、伸び悩みましたね」


 それでも「後にも先にもこれほど勉強したことはない」という努力が実り、2012年、関西大学文学部総合人文学科に合格した。

日本各地、世界を旅した学生時代 伊藤園に入社して営業に励んだ3年間

 大学では「気になったことはぜんぶやってみよう」という気持ちで、勉強も、アルバイトも、遊びも、いろいろなことを経験した。思い出深いのは、ドライブ旅行。大学1年生の時に車の免許を取ってから運転が好きになり、同じ学部の仲間を誘ってよく車で旅に出た。「日本の47都道府県、ぜんぶ訪ねました。同じ学部には歴史が好きな仲間も多いので、ドライブしたり、おいしいものを食べながら、名所旧跡を見て周るのが楽しかったですね」


 大学のゼミで世界史を選択した寺口さんはイギリス、フランス、ドイツ、スペイン、エジプトなど海外も巡った。現地でお金をぼったくられたりしながらも、いくつもの世界遺産を間近に見て、その歴史の重みと迫力を肌で感じた。


 塾講師のアルバイトをして、貯めたお金で旅をしている間に大学3年生の夏が終わり、就職活動の時期に入った。寺口さんは「お客さんの顔が想像できるような仕事に就きたい」と、車や食品など日常的に人の目に触れるモノを作るメーカーを志望。複数のメーカーの採用試験を受け、伊藤園に入社を決めた。


 その理由について、世界中で多様なお茶が飲まれていること、健康面でもポジティブなイメージがあることに加えて、面接時も好印象だったと語る。


「面接担当の方が、自分の良さを引き出そうとしてくれているように感じました。面接自体も前向きで明るい雰囲気だったので、安心感もありましたね」


 2016年、伊藤園に入社。最初の3年間は、中部地域営業本部の名古屋南支店で勤務した。取引先を定期的に訪問して既存製品の納品や新製品の商談を行うルートセールスを担当した。支店長や先輩に同行しながら、仕事のイロハを学んだ。顧客の新規開拓にも精を出したという。


 「町の酒屋さんは、意外とお茶や麦茶を置いていないんですよ。飛び込み営業したある酒屋さんは、僕にとって初めての新規のお客さんになりました。たくさん注文をいただいて、本当にお世話になりましたね」


 3年目、社内公募制度で「マーケティング本部」への異動を希望した。ルートセールスでお客様を訪問している時に、顧客から「伊藤園の製品っておもしろいよね」「ほかに売ってないものも多いよね」と褒められたことから、「製品がどう作られているのか」に興味を持ったのだ。


 同社では、社内公募制度の受講者に対して研修が行われる。寺口さんの場合、1年間に4回、マーケティング本部の上司や先輩から仕事内容について、休日に講習を受講。2019年5月、マーケティング本部のなかで、「健康ミネラルむぎ茶」を看板製品として扱う「麦茶・紅茶ブランドグループ」に配属された。

希望した異動先はマーケティング本部 若者の心を掴むためゼロからの製品開発

 マーケティング本部の事業は、多岐にわたる。既存の製品のリニューアルや新製品のリリースに向けて、製品名やデザインを検討し、開発部と共同で味の設計にも関わる。伊藤園の売り上げのカギを握る部署だ。


 寺口さんが「麦茶・紅茶ブランドグループ」に在籍した4年間で、麦茶、紅茶ジャンルの新製品として発売されたのは10銘柄。なかでも思い入れのあるのが、伊藤園のグループ会社「タリーズコーヒー」のブランドを背負って昨年3月末に発売された「TULLY'S &TEA SPECIALTY 紅茶ラテ」だ。これは、紅茶製品をテコ入れするために開発されたもので、ゼロから携わった。


「発売に至るまで、かなり時間がかかりました。なぜミルクティーではなく紅茶ラテなのか、なぜこのデザインがいいのか、社内で徹底的に議論しました。お客様にとってぱっと見て素敵なものだったらいいと思うんですけど、作り手として細部までこだわりました」


 この商品は見事にデビューを果たしたが、その背後には、日の目を見なかった製品の山がある。「一つの製品には何百という人が関わっています。それだけに、一年ぐらいかけて準備をしてきた製品が、最後の最後で製品化がなくなったときは悔しかったですね。でも、けっして珍しくないことなので、もっと売れる製品を作ってやろうと気持ちを切り替えました」


「麦茶・紅茶ブランドグループ」での4年間を経て、昨年5月、「緑茶ブランドグループ」に異動した。伊藤園の売り上げの約6割を占める緑茶ブランドは、同社の要。寺口さんにとって「とてつもなく大きな製品」で、「光栄である一方、重圧も感じている」と話す。


 前述したように、同社の緑茶飲料の売り上げは、世界一。もちろん、日本でもトップに立つ。しかし、課題も抱えている。「お~いお茶」に限らず、ペットボトルのお茶の購買層は50代から60代がメインで、パッケージの印象についてアンケートをとると、若者からは「古臭い」「おじいちゃんが飲んでいる」など厳しい意見が返ってくるそうだ。


 寺口さんは若手のひとりとして、伊藤園が守ってきたお茶の価値を大切に育みながら、このネガティブなイメージを一新したいと考えている。


 今、担当している「お〜いお茶○(まろ)やか」では、「若い方からは、カジュアルでファッション性があるといいという声をいただきました。『不易流行』を大切にしながら、彼らに刺さるパッケージやネーミングを取り入れて、やっぱりお茶っていいよねと思ってもらえる製品を作りたいですね」

Q&A

休日の過ごし方は?

お茶屋さんやカフェに行って、仕事に役立つ情報はないかよく観察しています。

趣味はありますか?

社会人になってから、茶道を始めました。歴史が深くておもしろいですよ。