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産業機械業界

外形3m超、巨大な軸受には20年の長寿命が求められる。

難易度の高い要望に応えるため、何より必要なのはコミュニケーションスキルだと宮田夏海さんは語る。

再生可能エネルギーとして世界が期待する洋上風力発電

性能の決め手は超大形軸受に

NTN株式会社

産業機械事業本部 適用技術部

宮田夏海  (みやた なつみ)

1990

三重県生まれ。夏に生まれ、海や釣りが好きなお父さんにちなみ「夏海」と名付けられた。

2006

三重県立 四日市南高等学校入学。友人とは勉強時間を競うような関係性で、長時間の勉強が苦にならなかった。

2009

北海道大学 理学部 地球惑星科学科入学。ヨット部に入部し、部活漬けの毎日を送る。年間100日を超える合宿生活を経て、北海道代表としてインカレ全国大会への出場経験も。

2013

北海道大学 大学院理学院 自然史科学専攻 入学研究対象がオマーン産出の岩石であったため、現地にフィールドワークへ。研究もさることながら、初の海外長期滞在で、文化の違いや多様性を学ぶ良い機会に。

2015

NTN株式会社入社。岡山製作所での現場実習(6カ月)を経て、現在の部署に配属。今後の電力の在り方を変える可能性を秘める風力発電に携わる業務に大きなやりがいを感じている。

知らない世界を知りたい、だから未経験のエンジニアへ

 いま再生可能エネルギーとして、大きな期待を寄せられているのが風力発電だ。特に巨大風車により大きな電力を得られる洋上風力発電装置の設置に、欧米や中国は力を入れている。周囲を海に囲まれている日本でも洋上風力にかける期待は大きく、政府も積極的に導入を進めている。


 「その発電装置の中でも主軸用の巨大な軸受(ベアリング)から各種の軸受、さらに遠隔監視システムまでを、当社は一括して手がけています。ただ一般には“軸受”といわれても、何のことだかわからない人もいるかもしれませんね。軸受のわかりやすい使用例をあげれば、自動車です。これは回転する機械に組み込まれて、車をスムーズに回転させるために欠かせないパーツ。自動車には数多くの軸受が使われ、なめらかな走りを支えています」と、宮田夏海さんは軸受について説明する。


 風力発電では巨大な風車を風の力で回し、その回転運動を電磁誘導の原理によって電気エネルギーに変換する。効率的な発電には、風車のなめらかな回転が欠かせないため、軸受の果たす役割はとても大きい。


 風車用軸受に関してNTNの何よりの強みは、外形寸法2~3mにも達する巨大な主軸用の軸受を製造できる点にある。今のところ主軸用軸受の販売シェアは世界でもトップクラスを誇る。


 「風力発電用の軸受は、基本的にお客様の要望に基づいて仕様を決め、設計から製造へと工程が進められていきます。求められる条件をクリアするためには、各プロセスを担当する社内の全部署間での意思統一が欠かせません。そのカギを握るのがコミュニケーションスキルです」


1990年の夏、三重県で生まれた宮田さんに、海の好きだったお父さんは「夏海」と名づけた。ご本人曰く「だからというわけではない」そうだが、四日市南高校時代は水泳部に所属し、北海道大学に進んでからはヨット部に入り、ずっと海と関わってきた。


 「そもそもなんで四日市から北海道までとよく尋ねられますが、知らない土地で一人で暮らしてみたいと思ったからです。理学部を選んだ理由は、物理と数学が好きで、漠然と宇宙関連に進みたかったからです。もっとも実際にはヨット部で忙しくて、勉強どころではなかったのですが(笑)。ヨット部は誘ってくれた先輩が魅力的だったのに加えて、その人から“あなたの名前(夏海)を考えたら、海のクラブしかないでしょう”と言われてしまって。そう言われると逆らえないですよね」


 一年中、男女混合のヨット部で活動し、4年生のときにはキャプテンを務めた。男女合わせて30人ぐらいの部員をまとめるため、宮田さんが何より重視したのがコミュニケーションだ。ただ勝つだけを目標とするのではなく、一生懸命に活動して楽しかったと部員に思ってほしい。そのためには一人ひとり違うはずの「楽しい」を確かめる必要があったのだ。


 学部を終えると修士課程に進み、岩石学の研究に取り組んだ。中東のオマーンでのフィールドワークを2回こなし、合計1カ月半ぐらいのキャンプ生活を送っている。


 「誰もいないような岩山で女性の先生と学生だけで過ごしました。といっても先生は何度もオマーンに行っているので不安などまったくなく、それよりも完全に未知の土地で過ごす体験には、ずっとワクワクしっぱなしでした。そして何より驚いたのは文化の違いで、異性と握手するのは失礼に当たるということです。自分とはまったく考え方の異なる人がいる、これにはカルチャーショックを受けました」


 やがて就職に際して望んだのは技術職、エンジニアだった。そこで両親の勧めもあり、地元に拠点があるNTNへと進む。


 「今だから明かせますけれど、工学部ではなく理学部出身ですから、技術職そのものをよくわかっていませんでした。そもそも軸受って何? というレベルでした。だから逆に興味津々でした」

極めて特殊な大型風車用の軸受開発

 「入社後に風車関連の部門があると知り、ぜひ関わりたいと思いました。大学はヨット部だったから海と関わりがあり、岩石学では山の中を歩き回っていたので、海や山に設置される風車には親近感を持っていました。しかも洋上風力の風車は、めちゃくちゃ大きくてカッコいい、もうこれしかないという感じです。希望通りに配属してもらえて嬉しかったです」


 とはいえ理学部出身のため、工学系の知識はほとんど学んでいない。そこで技術関連の基礎知識を身につけるため、独学で技術士補の資格取得を目指した。本来、技術士補の資格取得対象者は、工学部や高専出身である程度技術について学んだ人たちだ。基礎知識のない宮田さんは問題集をひたすら解きながら、わからないところを自分で調べて知識を培っていった。それでも「それまで知らなかった何かを学ぶのが楽しくて仕方がない性分です。だからまったく苦になりませんでした」と振り返る。 配属された大型風力発電グループでの宮田さんの仕事は、顧客からの要求に基づいて軸受の選定と技術計算を行い、その結果を設計部門へとつなぐこと。その後、設計内容が固まれば製造へと引き継がれていく。


 「風力発電装置は基本的に人のいない場所に設置されますから、一度設置すると、部品交換などは極めて難しい。そのため軸受だけでなく風車全体に20年程度は安定稼働する耐久性が求められます。この条件をクリアするためには、極めて精緻な品質管理が必要です。その際に欠かせないのが、部門間の緊密な連携です」


 宮田さんは自らの役割を「つなぎ役」と表現する。つなぐのは顧客からの要望だけではない。求められる仕様に対しては、社内の各部署からさまざまな意見が出てくる。それらをまとめたうえで、顧客とのやり取りを繰り返しながら、さらに調整を図っていくのもつなぎ役の重要な役目だ。


 「試作品ができると、お客様が日本まで監査に出向いて来られます。その案内役を務めることもあります。完成した軸受が風車に組み込まれる段階では、作業に立ち合うために海外まで出張するケースもあります。コロナ禍で一時中断されましたが、ヨーロッパで風力発電に関する展示会が開催されるときには、情報収集のために出向いていました」 ヨーロッパやアメリカに続いて、洋上風力発電には日本政府も力を入れ始めている。四方を海に囲まれた日本にとって、洋上風力こそがエネルギー自給へつながる切り札として期待されているのだ。

顧客の要求に応えるための緻密なコミュニケーション

 外径3mと人の背丈よりも大きな軸受には、とてつもない力がかかる環境で、長期間にわたっての安定稼働が求められる。


 要求をクリアするためには、軸受の仕様の吟味や材料・加工条件のきめ細かな設定、製造工程での妥協を許さない品質チェックなどが不可欠だ。もちろんNTN内部でのチェックで合格できても、顧客の監査に合格できなければ受け容れてもらえない。


 「性能面で求められるレベルが高い一方で、材料費などにかけられるコストには当然ですが限りがあります。お客様の観点でみれば、コストや重量の削減のために軸受は小さい方が望ましいです。一方で私たち軸受設計の視点では、軸受にかかる荷重への耐久性などを満たすために本来なら可能な限り軸受を大きくしたい。風車が年々大型化する中、いかに落とし所を見つけるのか。正直なところ、毎回かなり苦労します。けれども、要求が厳しくなるのは、トップメーカーのNTNなら応えてくれるはずというお客様の期待があるからです。私としても毎回新しいテーマにチャレンジできるわけで、挑戦できるのが何よりの喜びです」


 新たな課題は常に、宮田さんにとって未知の世界となる。その課題をクリアするためには、社内の各部署と密なコミュニケーションを取りながら前に進んでいかなければならない。


 「難しい課題こそ、学びを広げたり深めるための最高のチャンスでもあります。大量生産品ではなく、毎回異なるリクエストが寄せられる受注生産で、要求に対していつも120%で応えたい。任せてもらえる仕事が、常に未知の世界への挑戦になる。こんなにもやりがいに満ちていて、学びになる仕事に就けた幸せを強く感じています」と、宮田さんは締めくくってくれた。

Q&A

20年間も使い続ける軸受には、何が必要なのでしょうか?

風車特有の使用条件をよくよく考えなければなりません。風車そのものの重さや風を20年間も受け続けることから一般的な軸受とは異なる特殊な設計を用いることもあります。さらに材料や加工方法の吟味も必要です。サイズが巨大とはいえ、精度を徹底的に高めるため一切の妥協を許さない。この姿勢に尽きると思います。

日々の息抜きはどうされていますか?

往復3時間くらいかかる通勤が、一人っきりで過ごせる貴重なリラックスタイムです。電車の中で本を読んだり、スマホで動画を見たり……。仕事と子育てや家事の合間で一息つける、かけがえのない時間となっています。