地理歴史 日本史A
設問別分析
第1問 遺品整理の際の履歴書とパンフレット(会話文)
第1問は昨年同様に、会話文形式で出題された。履歴書やパンフレット・史料のほか、2つの表が出題された。そこで提示された数値や歴史的な出来事をヒントとして、多面的に考察させる問題が目立った。
問1・問2 空欄補充問題であったが、空欄アは、短文をあてはめる問題であった。昨年でもみられた出題形式であり、この形式が大学入学共通テスト日本史の新傾向といっていいだろう。問1ア・問2イはともに会話文中にある「大正改元の年(1912年)」と「東子さんは16歳」をヒントに、昭和初期における社会的背景を正しく理解しているかどうかが試されていた。
問4 戦後の日米関係に関する年代整序問題であった。Iは「日米相互協力及び安全保障条約(新安保条約)」、IIは「MSA協定」、IIIは「1980年代の日米貿易摩擦」にそれぞれ的確に置き換えて考えることができれば、正答を導き出せる問題であった。
問6 大卒男性の平均初任給と耐久消費財の価格・世帯普及率を表で提示し、それぞれの出来事とその時期において表に記されている数値を、正しくリンク出来ているかどうかを考察させた問題だった。「いざなぎ景気」、「大阪万国博覧会」、「自衛隊発足」「最初の先進国首脳会議」の年代は正しく把握しておきたい。
第2問 幕末・明治期の日本とハワイ
小問数4問のうち、正誤を組み合わせる問題が2問、2つの文の正誤を判断する問題と年代整序問題が、それぞれ1問ずつ出題された。昨年度の共通テスト日本史A第2問は、人物をテーマとした問題だったが、今年度は会話文の形式がとられた。
問1 2つの文X・Yと、それに該当する用語を組み合わせる問題。地名や国籍などの把握が必要であった。
問2 a・bでは史料の読解が求められたが、史料を深く読み取らないと、判断がやや難しかったと思われる。判断に時間をかける必要のある選択肢だった。c・dは、前提知識として「日清修好条規」の内容や背景を把握している必要があった。
問3 「1885年から1894年までの10の年間」と、やや短い期間の年代整序問題が出題された。ただし、日清戦争開戦にいたるまでの国際関係を把握していれば、前後関係を判断することは難しくはなかったはずである。
問4 史料の読解問題。史料文も短く、日本史に関する知識が十分でなかったとしても、史料を丁寧に読み取ることによって、正答を導くことができたと思われる。
第3問 明治後期から昭和初期にかけての社会と生活
第3問は、明治後期から昭和初期にかけての社会と生活をテーマとした問題であった。民衆の視点からアプローチした社会経済史は習熟度の差が大きいため、その差によって得点差も大きくなることが予測される。問3や問6で出題された表やグラフは数値が細かい印象を受けたと思われるが、冷静に分析すれば比較的容易に正答を選択することができる問題であった。
問2 明治末期から大正時代にかけての労働者や下層民を主題とした資料が出題された。Xは工場法の適用範囲について理解していないと、正しい正誤判定はできなかった。
問3 工場労働者と「細民」の家計をまとめた表の分析を求めた問題だった。その時期の数値や出来事の因果関係について、深い洞察力が求められていた。米価高騰を要因として起こった米騒動や、大戦景気と戦後恐慌による経済的状況の相違について明確に理解しておく必要があった。
問5 1920年代から1930年代の生活・文化に関する内容が出題された。昨年も大正・昭和初期の文化は取り上げられていた。過去問に繰り返しあたっていた受験生は、容易に正誤の判断ができたであろう。
問7 明治後期から昭和初期にかけての社会について、分析させる内容だった。第3問で出題された会話文や資料の内容の全体的な理解度をはかる問題で、大問全体を総括する広い視野が求められていた。共通テスト特有の形式といえるだろう。
第4問 鉄道の歴史とその役割
小問数7問のうち,正誤を組み合わせる問題が2問、空欄補充問題、年代整序の問題、2つの文の正誤を判断する問題、4つの文から正文を選ぶ問題、4つの文から誤文を選ぶ問題がそれぞれ1問出題された。正誤を組み合わせる問題のうち,1問は写真を用いたものだった。史料や表から読み取る問題が計3題出題された。小問7問中,半分程度は史料・表・写真の判断を求める問題となっており,瞬間的に判断できる設問は少なく,ある程度の時間が必要だったと思われる。
問1 センター試験日本史Bでもみられた空欄補充問題。前後のキーワードから用語を導き出すのは容易だったはずである。
問2 読解が求められる問題だった。a・bの選択肢は,設問文・史料から1872年9月,太陽暦は明治五年(1872年)壬申十一月九日,に作成されたことが読み取れれば正誤の判定が可能であった。明治五年に戸惑ったかもしれないが,設問文の,時刻表と太陽暦が同年(1872年)に出された,という情報を見逃さなければ,正答を導くことができたと思われる。
問3 当然ながら,表を参照する必要があるが,正答を選択するためには,該当する時期の背景知識や用語の理解が不可欠だった。
問4 20世紀以降の日本の対外関係のなかで,鉄道に関わる諸政策・事件に関する6択の年代整序問題。「張作霖」「南満州鉄道株式会社」「段祺瑞」の語句に着目し,Iは昭和初期,IIは明治期,IIIは大正期と,各選択肢の時期が離れているため,正答を導きやすかったはずである。
問5 「買い出し」「ドッジ=ラインの影響」に関する問題は,センター日本史でも出題されたことがあるため,過去問を対象にして演習を繰り返してきた受験生には解きやすかっただろう。この形式の設問は,a・b(もしくはc・d)のいずれかが正文または誤文であるため,2つの文を比較して判断すればよい。
問6 提示された表2の情報だけでなく,オリンピックの開催,第1次石油危機のそれぞれの時期を把握しておけば,正答を導き出すのは容易だった。
問7 中曽根康弘内閣に関するX・Yの2文の正誤を判定する問題。基本知識で十分対応できる問題であった。
第5問 昭和期の政党政治と社会
戦前と戦後の政党政治を主題に、大正時代末期から戦後占領期までにわたる、広範囲な時代が出題された。第17回、第18回総選挙の結果を問うた問2は、第3問の問4で取り上げられた、田中義一内閣が遂行した治安維持法の改正と関連性が深い問題だった。出題範囲が近現代史に絞られる大学入学共通テスト日本史Aでは、大問の垣根をこえて、1つの大きな歴史を捉える視点を持つことが重要になるだろう。
問2 Xが田中義一内閣時に、政府により主導された三・一五事件と四・一六事件を想起できれば判断は容易だった。Yは表中の無産政党の名称を把握していたかどうかで、明暗が分かれるだろう。
問4 多くの受験生の苦手とする昭和時代の学問・思想弾圧に関する問題であったが、滝川事件の基礎的な内容を把握していれば、正答を明確に選択できた。また、『神代史の研究』のなかでの津田左右吉の主張や、その学問分野についても理解しておくことが重要だった。
問6「1940年から敗戦まで」という比較的短い時期が問われていた。「学徒出陣」・「勤労動員」・「国民学校」といったこの時期の社会状況を象徴する語句の理解と、特別高等警察と「自治体警察」の相違について比較できる力が求められていた。
問7 難易度は「やや難」のレベルであった。戦前の労働運動や農民運動に参画した具体的な活動家の名と、その人物が名を連ねた革新政党を正しく理解できてないと、他の選択肢との正誤の見極めが難しく感じられただろう。