Q.にきびを治したい
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大阪府出身、大阪大学医学部・大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。皮膚科専門医。臨床遺伝専門医。日本皮膚科学会皆見省吾記念賞(2010年)、日本研究皮膚科学会JSID賞(2018年)、慶應義塾大学医学部北里賞(2020年)などを受賞。臨床医として患者さんを診療する(人を診る)だけでなく、常に基礎医学研究者の眼をもって目の前にある病気のメカニズムを考える(病気を診る)、その両立を心がけている。
ニキビはつらいですよね。特に、自分の見た目が一番気になる思春期という時期に、ニキビが顔にたくさんできやすくなるというのは、なんだか神様は意地悪だなと思います。
さて、ニキビというのは、毛穴の炎症です。毛穴の中でニキビ菌が増えすぎてしまって、その菌をやっつけようと白血球が戦うので、炎症が起こって赤く腫れてしまうのです。毛穴の内側には、皮脂腺という皮膚のあぶら(皮脂)を分泌する分泌腺の出口があって、毛穴を通って皮膚のあぶらが分泌される仕組みになっています。思春期になると、皮脂の分泌量が増えるので、ニキビ菌にとってはエサが増えて、菌が増えるのに良い環境になってしまうのですね。これが思春期にニキビができやすくなる仕組みです。
ではどうやってニキビを治すのか?その戦略を考えてみましょう。基本的には、医師に処方してもらう塗り薬や飲み薬を使う必要があります。皮膚科を受診する必要がありますが、ここで大切なのは、皮膚科専門医を受診することです。 これは是非みなさんに知っておいて欲しいのですが、日本は自由標榜性といって、たとえばこれまでずっと内科医として大きな病院に勤務していた医師が開業するときに、「XX内科・皮膚科」という看板を掲げて開業しても良い、という仕組みになっています。でも、せっかく受診するなら、ずっと皮膚科を専門に勉強してきた先生に診て欲しいと思いませんか?私なら思います。なので、皮膚科専門医の資格を持っている先生かどうかをちゃんと調べて、専門医を持っている先生に診てもらいましょう。
さて、少し話が逸れました。ではニキビ対策の戦略を1つ1つ見て行きましょう。 菌を直接やっつける作戦菌をやっつける方法は主に2つあります。殺菌剤と抗生剤です。菌が炎症を引き起こしているのだから、菌をやっつけて菌の数を減らせば治るよね、という作戦になります(私たちの皮膚や毛穴には普段からたくさん菌が住んでいて、一緒に仲良く暮らしています。菌がいないと色々不都合なことが起こります。でも1種類の菌が増え過ぎちゃうと、お肌のトラブルになるのです。なので、菌の数を減らそう作戦、になります)。
菌をやっつける作戦1:殺菌剤
殺菌剤の代表が過酸化ベンゾイルで、皮膚に塗る薬(外用薬)として使われます。過酸化ベンゾイルには後で述べるピーリング作用もあるので、ニキビの標準治療となっています。ただ、ピーリング作用のせいで刺激感があるので、肌に合わない方もいます。具体的には、過酸化ベンゾイルが主成分のゲルや、抗生剤との配合剤、ピーリング作用を持つアダパレンとの配合剤、などがあります。いずれも、塗り始めた最初の頃は刺激感が出ることがありますが、しばらく使っていると大丈夫になる方が多いです。ヒリヒリしてどうしてもダメ、という方もいます。自分の肌にあった薬に出会えるまで、いろいろ試す必要がありますが、1〜2週間は使ってみてから、合う合わないを判断するのが良いと思います。
菌をやっつける作戦2:抗生剤
菌をやっつける抗生物質で、菌を減らします。塗り薬と内服薬があります。塗り薬には、抗生剤のクリームや、上記の過酸化ベンゾイルと抗生剤が配合されたゲルなどがあります。また、腫れが強い時は、炎症を押さえるステロイド剤と抗生剤が混ざった軟膏も使われます。
あまりにニキビがヒドイときは短期間、抗生剤を内服する方法がとられます。内服薬はいろいろありますが、これは皮膚科専門医の先生にしっかり選んでもらいましょう。ニキビの原因になる菌の多くはアクネ菌(Propionibacterium acnes)ですが、まれに大腸菌などが原因になることもあります。それぞれの菌の種類ごとに、効果の高い抗生剤がありますので、治りにくいときは作戦を練り直す必要があります。また、殺菌剤はどんな菌にも効きますが、抗生剤はその抗生剤に対する耐性菌(たとえば、自分で抗生剤を分解しちゃうような性質を獲得してしまった菌)には効きません。治療がなかなか効かない時は、いろんな理由が考えられるので、専門医の先生とよく相談しましょう。
菌のエサを減らす兵糧攻め作戦
思春期にニキビが悪くなるのは、菌のエサになる皮脂の分泌が増えて、菌が増えやすくなるからです。じゃあ、エサになる皮脂の分泌を減らせば良いよね、ということになります。皮脂が毛穴から出て行きやすくしてあげるのがピーリング作戦。皮脂の分泌量を減らす作戦が、規則正しい生活と、ビタミン補給です。
ピーリング作戦
皮脂がどんどん分泌されても、毛穴の中に溜まらずにどんどん出て行ってもらえば良いよね、ということで、毛穴の出口を拡げる作戦です。毛穴の出口の角質を剥がすことで出口を開きます。ただ、毛穴以外の普通の肌の角質も剥がれてしまうので、角質が薄くなって刺激感が出てしまうことがあります。ピーリング作用(角質を剥がす作用をピーリング作用といいます)のあるアダパレンの塗り薬、ピーリング作用と殺菌作用を併せ持つ過酸化ベンゾイルの塗り薬、その2つが混ざった配合ゲルなどがあります。刺激感はしばらく塗り続けていると大丈夫になる方が多いですが、ヒリヒリ感がひどくて続けることができない方もいます。その場合は薬を変えてもらいましょう。なお、夜に薬を塗って、朝には洗顔してから保湿剤をしっかり塗って、薄くなった角質をおぎなってあげることが大切です。
皮脂の分泌量を減らす作戦
夜更かしをしたり、生活時間が不規則だったりすると、皮脂の分泌が増えてしまいます。エサが増えると菌が増えてしまうので、ニキビが悪化しやすくなります。受験勉強は大変ですが、できるだけ規則正しい生活を心がけましょう。野菜をしっかり食べることも大切です。野菜が苦手な方は、ビタミンB2、B6を錠剤で飲むのも1つの方法です。摂り過ぎても良くないので、正しい量を飲みましょう。
治りにくい時に考えないといけないこと
なかなかニキビが治りにくい場合は、なにか理由があるはずです。治りにくい理由を探して、対策することが必要です。
【ポイント1 手で頬や額を触ってないか】
手で触っていると、毛穴から毛穴へと菌をうつしてしまいます。片側の頬だけ悪いような時は、そちら側の頬を手で触る癖がないか、気をつけてみましょう。勉強しながら、ついついいじってしまっていることも多いと思います。
【ポイント2 ニキビダニはいないか?】
治りにくいニキビ、症状がひどいニキビは、ニキビダニによることがあります。ニキビダニというのは、毛穴に住むダニです。ちょっとぞっとするかもしれませんが、毛穴という毛穴にダニが住んでいて、症状をひどくしている時があります。それほど珍しいことではありません。この場合、抗生剤や殺菌剤ではダニは死なないので、それらで治療してもなかなか治りません。ダニをやっつけるのに一番良いのは、昔ながらのイオウの塗り薬、イオウの入ったローションです。ピーリング作用もあるので、昔からよくニキビの治療に使われてきた薬です。肌がかさかさになるので、保湿剤の併用が必要です。温泉のニオイがしますが、頑張って塗りましょう。夜は容器をよく振ってから塗って、朝はイオウが底に沈殿しているので、上澄み液だけを塗ると、乾いた後にイオウの粉をふかずに済むので良いかと思います。
【ポイント3 ニキビ菌以外によるニキビの場合】
抗生剤のところで触れたように、原因菌に効かない抗生剤を塗っていても効かないので、原因になっている菌をやっつけられる薬を選ぶことが大切です。
【ポイント4 生理周期に合わせて悪くなる場合】
女性では、生理に合わせて悪くなる方がいます。生理が重くてつらい方で、生理に合わせてニキビが悪くなるような方には、当帰芍薬散という漢方薬が効くことがあります。漢方が合う方は、生理も軽くなってニキビも落ち着くので、試してみる価値があります。
【ポイント5 良くなっても、すぐにまた悪くなる場合】
良い状態をキープするために、悪化しないように予防することが大切です。過酸化ベンゾイルのゲルを薄く、ニキビを起こしやすい場所に毎日夜に塗る、または顔全体に薄く毎日夜に塗る、という方法が、予防効果のあることが多いです。
【ポイント6 今だけでも良くしたい場合】
大切なイベントがあるから、この日だけはキレイにしておきたい!という時は、炎症を押さえて腫れをひかせるためにステロイド剤の外用を使う手があります。ただし、ステロイドを塗ると免疫が抑えられてしまうので、菌は増えやすくなります。つまり、ニキビの悪化の要因になり得ます。抗生剤の内服と合わせて上手に使うなど、使い方に知恵と工夫が必要なので、必ず専門医の先生に相談して対策しましょう。
以上、ニキビのさまざまな対策方法について解説しました。かかりつけ医を選ぶ参考にもなると思います。きちんと科学的な考え方に基づいて、正しい対処法を選んでいくことがとても大切です。治らない時は治らない理由があるはずなので、諦めずに根気よく治療していきましょう。