Q.医学部進学希望で生物にするか物理にするかでとても悩んでいます。
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東京学芸大学教育学部准教授。1974年長野県長野市生まれ。京都大学理学部卒。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。専門は宇宙物理学、素粒子物理学。 東京大学ビッグバン宇宙国際研究センター研究員、日本学術振興会海外特別研究員(カナダ・ウォータールー大学、ペリメーター理論物理学研究所)、国立群馬工業高等専門学校准教授を経て、現職。著書に『ブラックホールと時空の方程式』(森北出版)がある。 前任校では在職7年のうち,初年度を除き6年連続でベストティーチャーに選ばれ、学生からついたあだ名が「やる気の無料配布」。 YouTubeチャンネル「PHYSIS Entertainment(ピュシス・エンターテイメント)」主催。2020年3月には高校物理全範囲を24時間連続で講義するライブ配信「24時間ではしりぬける物理」を企画し、成功させた。
好きか嫌いかで決めることが一番いいと思います。やっぱり好きじゃないと続きません。多分、高校生の皆さんは思っているほど、物理も生物も知らないだろうと思うんですよ。学校の勉強の範囲しか普通は見ないから、これが物理とかこれが生物だと胸を張って言えるほどの知識は持っていないはずです。好きかどうかを判定するためには、物理や生物の本を読んで、専門の世界を見ることが大切です。僕が面白かった本をいくつか紹介したいと思います。
まず、生物の分野でおすすめの本は『ダンゴムシに心はあるのか』(森山徹著、PHP研究所)です。僕たちは、どこかに心があるとかではなく、実は、特定の動きを心と判断しているだけの可能性があるということが書かれています。もう一冊は『驚きの皮膚』(傳田光洋著、講談社)です。僕たちは、肌で空気の圧力も感じながら総合的に音を判断していて、昔から職人が「肌で感じろ」と言っていたことは例えじゃなくて、本当にそうなのかもしれないということがわかる本です。
物理でおすすめの本は、『宇宙を動かす力は何か』(松浦壮著、新潮社)です。この本は数式も使われていなくて読みやすいし、とても面白いです。数学が得意な人におすすめの本は、『暗号解読』(サイモン・シン著、青木薫訳、新潮社)です。古代の文字って今の僕たちからしたら暗号みたいじゃないですか。ああいうのはどうやって解読されてきたかという話を数学や物理の要素を使いながら説明していて、推理小説みたいな感じでとても面白いです。
こういう本を読むと、物理って本当はこういう世界なんだとか、自分は生物の世界に惹かれるな、などということがわかってくるはずです。
僕は物理の専門家だけど、そんな僕でも生物の本を読んでとても面白いと感じたので、まずはやっぱり本を読んでみて面白いか面白くないかっていうのを知ることを勧めます。
医者になるならどっちも大切!
医者になるという将来を見据えて考えるなら、どっちも勉強してほしいのが正直なところですけどね。当然、大学に入ってからは生物も物理も必要です。医者というと生物のイメージが強いかもしれませんが、統計的なデータを読んで、その中で本質を引き抜く力も大切なんです。その本質を抜く力っていうのは、まさに物理でよくやることなんですよね。
物理的な素養って、大学入ってから身に付けるのはすごく難しいんですよ。どうしても物理は数学を使いながら訓練しなきゃいけない部分があるので、まったくやっていないのに大学から始めるとなかなか大変なんです。大学では誰も手取り足取り教えてくれませんからね。塾も予備校もないし。
そういう事をそういうことを考えると、物理も生物も両方勉強してみて、途中で受験に使うどっちかに絞るというのがいいと思います。
数学が得意?暗記が得意?
とはいってもそれは理想論で、受験なんだから戦略的に考えざるを得ないということもあると思います。その場合は「数学が好きか・暗記が得意か」で決めたらいいと思います。数学が好きで暗記が苦手な人は物理、数学が苦手で暗記が得意な人は生物の方が勉強しやすいかと思います。
でもこれだけで決めてしまうのは、正直寂しいです。ぜひ、一度各分野の本を読んでもらって、自分の本当にやりたい分野、向いている分野を見つけてほしいです。そもそも本当の生物学は暗記科目ではないですし、当然ですが「暗記したことを短い時間で確認する」だけで済むような学問なんて存在しません。あらゆる学問は知識の羅列の奥にある構造やメカニズムを見ているわけですから。大学生でもそれがわかってないことがよくありますが。いつまで受験生気分でいるんだろうって感じで。