Q.数学をやる意味がわかりません。
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筑波大学第一学群自然学類・大学院修士課程教育研究科修了。フランスのグルノーブル第一大学大学院博士課程修了、Doctorat取得。2016年に全国数学教育学会で「中等教育を一貫する数学的活動に基づく論証指導の理論的基盤」で学会奨励賞を受賞。米国ミシガン大学教育学部研究員、上越教育大学准教授を経て、現在は早稲田大学教育・総合科学学術院教授。専門は数学教育学。
生徒たちが数学の必要性が分からないということは世界中で起こっていて、日本だけはありません。海外でも同じです。試験のために勉強して、終わったら忘れてしまうなんてことが多々あります。数学という学問はすごく大きくて、長い時間をかけて人間が作ってきたものです。その中からめぼしいものだけピックアップして順番に並べられたものを皆さんは学習しているわけです。そうすると最初にはあったはずの数学のそれぞれの必要性や生まれてきた理由が消えてしまうことがよくおきます。数学というのはもともとはもっとごちゃごちゃしていて、最初はどんな数学も何かしらの問題を解決するためという必要性があって作られてきたのです。今学んでいるようにきれいに並んで出てきたわけじゃないわけですよね。並べちゃうからこそその必要性が無くなってしまうんです。
教える方としてもどうすればよいのか非常に難しいのですが、最近出てきた過激な話は、今やっている数学教育は全部やめてしまって、世の中の疑問を追及する探究活動みたいなものをメインにするというものです。つまり、疑問を追及して必要になったものを必要に応じて学習していこうというのです。今までは将来的に必要になるであろうと推測される数学をたいした必要もなくまず教えて、生徒たちが大学に行ったり社会に出たりしてから実際の生活など具体的な課題に学校で習った数学を活用することが目指されてきました。それを逆転しようというのです。例えばある物の値段を少し上げたら買う人が少なくなって、安くしたら買う人が増える。この時にいくらにすれば一番いいのかを考える。そこで二次関数が必要になれば、二次関数を学習する。必要なければ学習しないという感じです。しかし、こうした学習方法がどの程度可能なのかということはまだまだよくわかってなく、私たちの研究課題となっています。
社会に出てから役に立ちます
しかし、学校教育で教えている内容は社会に出て何かしら役に立つと考えて教えられています。実際数学の場合、世の中でも本当に色々な場所で使われていて非常に大事なものです。高校までは文系理系という分け方をしますが、一般の学問の世界や社会に出たら文系理系というのはあまりなくて、いろんな所でいろんな学問が存在しています。もちろん数学もです。インターネットや携帯電話、電車の運行など何にでも数学は使われています。例えば経済学や心理学など文科系と思われるような学問でも数学は多く使われます。考古学とかいかにも文科系らしい分野でも理科系の学問といろいろなつながりがあります。例えば発掘したものの年代測定をするときの炭素の半減期など、理科系のものが多く関連してきて、当然数学的なものも出現します。このように、文系理系というのは結構融合していて、数学はいろんなところで大事になってくるのです。
数学教育は変わりつつあります
今度センター試験が大学入試共通テストに変わり、テストの問題がもっと日常生活に関連したものになります。例えば、共通テストのテストでは、薬の血中濃度について数列を使って考える問題が出ました。そういった話題を入試問題に入れたりして、日本の数学教育界では今、「数学はどういうふうに必要か分かるように」、「数学を本当に使えるように」と努力しているので10年20年後にはだいぶ変わってくるかと思います。