Q.いじめがトラウマでクラスに馴染めません
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精神科医師、医学博士 1984年京都大学医学部卒業。臨床活動を経て1990年より国立精神神経医療研究センター研究員。1995年ロンドン精神医学研究所在外研究を経て2002年より国立精神神経 医療研究センター 成人精神部長(現、行動医学研究部長)。2007年ペルー大使公邸人質占拠事件での医療活動に対して厚生大臣表彰。ニューヨーク大学精神科教授、東京大学医学部連携教授、東北大学医学部連携教授を併任。日本トラウマティックストレス学会理事、編集委員長、等。宮城県および福島県心のケアセンター顧問。2019年1月より精神保健研究所所長。
定期的にリラクゼーションをしましょう
あなたがいじめを受けて、命にかかわるような危険があり、そのことがフラッシュバックしたり夢に出てきたりするならば、PTSDという病気の可能性があるので医者に相談した方が良いかもしれません。しっかりとした治療法があります。ここでは、まず自分で取り組めることをご紹介します。最初に、あなたは親が心配するだろうと思っていますが、いじめられたりすることは人生には意外によくあることなので、親も経験があるかもしれません。親にそういった経験がなかったか軽く訊いてみるのもいいかもしれませんね。そうした体験の後で不安になることについても、ネガティブに考えているのかもしれませんが、しゃみが止まらなくなったり、鼻血がでたりすることと同じくらいありふれたことです。それでも長く続くと心配でしょうから、不安の対処法を簡単にご紹介します。
まず不安というのは、①不安という感情 ②体の反応 ③不安な考え ④行動 の4つの次元に分けることができます。例えば、あなたが声をかけようとした時に体が硬直してしまうのは、②に当たります。このことに対しては、毎日定期的にリラクゼーションをすることが効果的です。その背景には交感神経系、つまりアドレナリンが過剰に働いていることがありますので、それとは逆に副交感神経を働かせてのリラックスした状態に持っていきます。
具体的な方法は、ぬるめのお湯にゆっくり浸かったり、体の力を抜いたり、ゆっくり息を吐いたりすることです。特に呼吸に関しては、慣れてくると軽い抗不安薬と同じくらいの効果があります。2〜3秒息を吸って、5秒から10秒かけて息を体の力を抜きながらゆっくり吐くということを、1回5分間、1日3回やってみましょう。あわせてイメージトレーニングを行うと効果的です。先ほどの③不安な考えとも関連しますが、出てくる不安は仕方がないので、溜め込まないように、息を吐きながら散していくようなイメージを持ってください。こうした呼吸を日頃から練習していると、クラスの中で緊張した時などに、ゆっくりした呼吸に切り替えてリラックスすることができます。もしあなたが無理に話し続けようとして息が荒くなるようならば、それは軽く過呼吸が生じているかもしれません。息が荒くなることによって不安を呼び起こし、その不安によってますます息が荒くなるという悪循環が起きているかもしれないので、ゆっくりとした呼吸法を試してみるといいかもしれません。
他にも、気分転換のために激しい運動や熱い風呂に入ったり、大音響のコンサートに行ったりをすることを過度に行うと、アドレナリンンの分泌が盛んになり、交感神経が興奮して不安を呼んでしまうので注意をしてください。また、眠気を覚ますためにカフェインを摂ると、不眠が生じやすいだけではなく、不安や緊張が強まってしまうので、代わりにミントやジンジャーを摂ることをおすすめします。
不安は「しゃっくり」?
そもそも、不安が出ること自体は正常な反応であることが多く、自分が不安になったことを異常だと思ったり、怯えたり必要はありません。不安に思ったことで追い詰められてしまい、また不安になってしまうのです。実は、相当強い不安であっても30分くらい放っておいたら自然に消えていくのです。これを馴化(じゅんか=慣れ)と言います。加えて、100人のうち、5人から10人くらいは一生の間に強い不安を持つ時期があるということがわかっています。あなただけが不安を抱えているのではなく、よくあることなのです。 こうしてみると、不安はしゃっくりと同じようなものだと考えられます。突然起こるものですし、止めようと思ってもすぐには止められません。しかし、いずれ消えますし、他にも不安を抱えている人が必ずいます。しゃっくりは目に見えますから、自分だけではないことが分かりますし、原因も横隔膜のけいれんだということを知っていますね。不安は目に見えませんが、実はクラスの友人にしゃっくりが出ているのと同じだと考えてみてはいかがでしょうか。
無口な聞き役を目指しましょう
不安になると、自分がクラスの輪に入れないとか、他の人は元気に話しているのに、なぜ自分はできないのかと悩んでしまうことがあります。そのようなときには、たくさん話している人に目が行きがちですが、輪の中には、無口で聞き役に回っている人もいることが多いのです。一番よく話す人を目標にするのではなく、まずは一番口数が少ない人と同じ程度に話すことを目指してみてはどうでしょうか。何かを言おうと思わないで、相槌を打ちながら上手な聞き役になることから始めて見ると楽だと思います。
あなたが変わる必要はありません。クラスに馴染むかどうかではなく、あなたがリラックスできるかどうかが大事だと考えましょう。もし、クラスで浮いていると思ったとしても、30分くらいすれば気持ちが楽になるので、先ほどの呼吸法を行なって落ち着きましょう。