ページを更新する ページを更新する

公認会計士

 「公認会計士」と聞くと「数字に強い」というイメージがあるかもしれない。それも間違いではないが、そもそも公認会計士とは、企業の経営状態を表す財務書類をチェックして、それが正しいものであることを株主に「説明(証明)する」ことを役目とする。こうした「監査」と呼ばれる業務は公認会計士の独占業務だが、実際の仕事はそれだけにとどまらない。そこで今回は、髙野総合会計事務所の田中新也氏と鏡高志氏にお話を伺い、幅広い公認会計士の世界をご案内いただいた。

会計のプロフェッショナルという力を武器に財務・税務の視点から中小企業の成長を後押しする

税理士法人 高野総合会計事務所
FAS部門 公認会計士

田中 新也  (たなか しんや)

1985年 京都府京都市生まれ
2004年 京都市 私立 洛南高校 卒業
2008年 公認会計士二次試験合格
2008年 あらた監査法人 入所
2009年 慶應義塾大学 経済学部 卒業
2012年 公認会計士修了試験合格
2012年 税理士法人 髙野総合会計事務所 入所

合格率8.9%の狭き門!幅広い分野で活躍できる公認会計士の仕事とは?

公認会計士の仕事は、企業の財務状況をチェックする「監査」が主な業務となる。企業は株主などに、自らの経営状況を説明する責任がある。それらの情報が正しいものであるかどうかを、客観的な立場から証明するのが会計士の職務だ。難関国家資格の代表格で、合格率8.9%(平成25年試験)という狭き門である。それゆえ、資格習得後のフィールドは幅広い。会計士のして正式に「登録」されるには、試験合格後に2年以上の実務経験等を積む必要がある。そのため、監査を専門とする「監査法人」に入所するところからキャリアをスタートさせる会計士が多いが、その後は、公認会計士事務所や一般企業での勤務、独立開業といったさまざまな選択肢がある。仕事内容も監査に留まらず、財務や税務のコンサルティング、あるいは企業戦略の企画立案など多岐に渡る。高野会計事務所で会計士として活躍する田中新也も、監査の仕事から、さらなるステップアップを目指している途上だ。「現在、私が主に手掛けているのは企業の事業再生です。デフレが長引く中、とりわけ中小企業の経営は厳しい状態が続いています。そうした企業の財務状況を調査したうえで、例えば、業務改善や組織体制の変更、ときには経営方針の見直しなどもご提案します。つまり、会社を良くするための改善ポイントを”見える化”する。そのうえで企業と綿密に話し合いながら再生計画を立て、計画が実行できているかを継続してフォローしていくのです」それ以外にも田中は、M&A(企業合併・買収)や、企業の税務顧問といった仕事にも携わる。実は公認会計士の資格を所得したのち、所定の手続きを行なえば税理士資格も得ることができる。しかし一般的に監査法人では、税務は専門のチームに任されてしまうため、会計士が携わる機会は少ないという。「次の場所では税務を鍛えていきたい。」田中が現在の事務所へと移ったのは、そんな思いからでもあった。

なれ合いで仕事するな!上司からの叱咤で気付いた自分の甘さ

しかし、税務の知識の経験は一朝一夕で身につくものではない。入所からまだ一年半の田中にとっては、毎日が勉強だ。ときには自分の至らなさに歯噛みするときもある。例えば、グループ企業を多数抱える会社の事業再建を手掛けたときのことだ。そのときのミッションは、グループを再建して税金や事業面でのメリットを見つけ出すこと。だが「税務的な分野にはまったく弱い」と自嘲する田中の手に余るものでもあった。そこで税理士とチームを組んで着手したものの、毎週のように新たな課題を突きつけられて、持ち帰るという日々が続いた。「一緒に仕事をした弁護士をした弁護士の先生がとても数字に強い方で、我々の持っていない鋭い視点からの指摘を何度も受けました。自分の経験不足を痛感する出来事でしたけども、結果的にはとても勉強になりました」また、監査法人時代の癖が抜けきれないことで、失敗してしまったこともある。監査法人での仕事は、基本的に数年に渡って同じ企業を担当することになる。信頼関係が強くなるというメリットはあるが、その一方で、どうしても「なれあう」部分が出てきてしまう。それが今の事務所では通用しない。「ある日、取引先に資料を求める際に、特に趣旨を説明しないまま、こちらの欲しいリストを一方的に送りつけていまったことがあるんです。そのときは、いつまで監査法人のノリでやっているんだと、上司から厳しく注意されました。」考えてみれば当然で、監査法人時代とは取引先も仕事内容も異なる。それにもかかわらず、田中自身はそれに気づくことなく、同じスタンスで仕事に臨んでいた。以来、「お客様の立場になったときに、自分の発言がどうとらえられるのか」を田中は強く意識するようになった。「それは結局、想像力、あるいは考える力を持つということ。この仕事をするうえで、もっとも求められる力といえるかもしれません」自戒を込めながら、田中はいう。

事業再生からM&Aへ モノづくりの現場から広がる経験と可能性

一方で、監査法人時代には味わうことのできなかった大きなやりがいも実感している。とりわけ「モノづくりの現場」を間近で見ることが出来るようになったことは大きな収穫だ。「監査法人時代は金融機関の監査をやっていましたので、製造業や小売・サービス業が何をやっているのかを具体的に知らないまま過ごしてしまいました。しかし現在は、モノが見える会社でいろいろな案件に携わらせてもらっています。そうした中で、自分が企業から頼りにされているのいう実感を持てるようになった。これは監査法人時代にはなかったことです」事業再生は、企業に深く入り込んで、現場の人々との議論を交えながら進めていく。その過程で培われた知識や経験は、巨額の資金が動くM&Aの仕事でも確実に生かされている。なぜならM&Aの場合、事業再生よりも早いスピードが求められるからだ。「事業再生は半年かけてじっくり取り組みますが、M&Aは短期決戦。一ヵ月ほどで調査をまとめなければなりません。そのためには、相手の心に刺さるような切り口をすばやく見つける必要があります。このときに、事業再生で磨いた知識やセンスが役立つのです」今では、事業再生に関わった企業から、引き続き税務顧問になって欲しいと依頼されることもあるという田中。さらに未来に向けて夢が広がっている。「会計士という仕事は、税務や経営、金融など、自分の興味のある分野へとどんどん広げていくことが出来るんです。勉強は継続していかなければなりませんが、それは専門家の宿命。それを乗り越えた先に多くの選択股が待っているのです」若きプロフェッショナルは、力強くそう言い切った。(文中敬称略)

ミスは許されないが過度に恐れてもいけない
失敗はフォローできる組織作りこそが肝要

税理士法人 高野総合会計事務所
FAS部門 公認会計士

鏡 高志  (かがみ たかし)

1976年 岩手県盛岡市生まれ
1995年 岩手県立盛岡第一高校 卒業
2000年 慶應義塾大学 商学部 卒業
2000年 公認会計士二次試験合格
2001年 新日本監査法人(現 新日本有限責任監査法人) 入所
2005年 公認会計士登録
2006年 髙野総合会計事務所(現 税理士法人髙野総合会計事務所) 入所
2013年 税理士登録
新日本有限責任監査法人の国内監査部門を経て、税理士法人髙野総合会計事務所のFAS部門に至る。

中小企業の事業再生こそ会計士の力が発揮できる!

リーマンショック以降の景気低迷を受けて、政府は現在「中小企業再生支援協議会」という機関を設け、中小企業の支援に力を入れている。事業の収益性はあるものの、財務上の問題を抱える中小企業は多い。高野総合会計事務所の事業再生を進めており、案件の増加に伴って、所属会計士の増員を行なっている。ベテラン会計士の鏡高志にとって、目下のやりがいは、若手会計士たちの育成だ。「彼らはみんな、基本的には監査法人出身ですから、会計の知識や経験は持っています。ですが、監査の場合は財務書類の間違いを探すことの方が多い。一方、中小企業の再生は、こちらが主導し、現在と将来を目に見える形にして指し示すこと。若い会計士には、そうした違いを理解してもらって、新しい視点を獲得してもらえるよう心がけています」また、対外的には「事務所のファンを増やす」ことに心を砕いているという。会計士の仕事は、財務や事業の調査といった単発の仕事から始まることが多い。これをいかに継続して仕事を任せてもらえるような信頼関係にまで発展させるか。それが醍醐味だ。「中小企業の事業再生という仕事は、会計士がメインのプレイヤーになれます。そこがプレイヤー数の多いM&Aとは違います。一番、力を発揮できるし、お役に立てる。そのためにも、一社でも多くの中小企業と信頼関係を築いていきたいですね。」

チームの軌道修正もベテラン会計士の責務

もちろん、信頼関係を築くためにはミスは許されない。チームが誤った方向へ向かいそうになったとき、軌道修正することも鏡の重要な責務だ。例えばあるM&Aの案件時に、こんなことがあった。多店舗展開をしている「企業の業績を分析していた時のことである。アベノミクスの影響もあり、企業全体の業績は若干、上向いているように見える。しかし各店舗ごとの売上を良く良く調べてみると、昨年に比べてよくなっている店舗と悪くなっている店舗の二極化が進んでいたことがわかった。それらが相殺されることによって、一見すると、好転しているように見えたのだ。しかし実際には、不採算店を多く抱えていたのだ。「こういう時は、少し引いた目で見えることが重要です。当事者たちはついつい思い込みで作業を進めてしまいがちですから、ちょっとしたことに気付かない。そんなときには、上司である私がしっかりチェックします。間違ったレポートを取引先に渡すわけにはいきませんから」ただし「失敗を過度に恐れることはない」と鏡はいう。「重要なのは、失敗をしたときにいかに自分でリカバリーできるか。あるいは、失敗をフォローできる組織を作り上げることはできるか、ということです。私自身、入所した当初は、いくつか失敗を作り上げることができるか。あるいは、失敗をフォローできる組織を作り上げることができるか、ということです。私自身、入所した当初は、いくつか失敗を経験しています。そこでのミスを次にプラスに変える。若い人には、そんな思考や行動様式を身に付けてもらいたいなと思います。」

Q&A

仕事をするうえで手放せない「三種の神器」を教えてください。

「電卓」「会計監査六法」「手帳」です。電卓は、常に数字を扱う仕事ですので欠かせません。ちなみに、試験勉強時代から今まで同じ電卓を愛用しています。会計基準等が網羅的に記載されている「会計監査六法」は必携ですね。監査放任勤務時代に比べると使用頻度は下がりましたが、お客様から会計に関するご質問を受ける事も多々ありますから。社内のシステム上でもスケジュールの管理は行っているのですが、手帳はそれ以外のメモやコメントを残す重要な記録ツールとして欠かせないものになります。

担当している企業の業種や規模を教えてください。

事業再生では製造業が一番多いですね。売上高10億円ぐらいの中小企業がメインですが、なかには100億円から200億円規模の会社もあります。逆に小さいところだと1億円ぐらいです。一方、M&Aは大型の案件が増えています。買収

もっと詳しく

■公認会計士とは

 株式市場においては、企業が出す財務情報に虚偽があってはならない。そこでその財務情報が正しいものであることを証明するのが公認会計士の仕事となる。これを「監査」と呼び、公認会計士はその結果を「監査報告書」として企業に提出する。そのほか、税務、経営コンサルティング、一般企業や官公庁勤務、あるいは独立開業など、活躍できる場所は実に幅広い。

■公認会計士になるには

 公認会計士の受験資格には何ら制限がない。ただし、単に試験に合格するだけでなく、5つのステップをクリアする必要がある。  第一に、「公認会計士試験」。試験は短答式(マークシート方式)と、それに合格した者が受験できる論文式により行われる。第二に、監査法人などでの2年以上の「業務補助等」を行うこと。第三に日本公認会計士協会による「実務補習」を受けること。第四に「修了考査」に合格すること。  これらを経て、最終的に「公認会計士登録」が可能となる。