
最新情報
-
グローバル人財育成編 株式会社セブン-イレブン・ジャパン
小林 亜弥 さんTOSHIN TIMES 2025年03月号掲載
-
関西電力株式会社
上田 晃穂 さんTOSHIN TIMES 2025年02月号掲載
-
パイオニア株式会社
須藤 誠 さんTOSHIN TIMES 2025年01月号掲載
-
ソニーグループ ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
横田 莉子 さんTOSHIN TIMES 2024年12月号掲載
-
株式会社安川電機
森若 璃菜 さんTOSHIN TIMES 2024年11月号掲載
-
株式会社ダイセル
三好 史浩 さんTOSHIN TIMES 2024年09月号掲載
-
一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会
石川 沙羅 さんTOSHIN TIMES 2024年08月号掲載
-
オークマ株式会社
加藤 由佳 さんTOSHIN TIMES 2024年06月号掲載
-
住友商事株式会社
久保 颯 さんTOSHIN TIMES 2024年04月号掲載
-
株式会社伊藤園
寺口 寛司 さんTOSHIN TIMES 2024年03月号掲載
電力業界
関西電力のDX推進に取り組む上田晃穂さんは、かつて格安スマホの「マイネオ」のユーザー数を大幅に増やした立役者でもある。世の中を大きく変革するITの力を武器に、顧客を「仲間」としながらキャリアを重ねてきた上田さんは、高校生に向けて「先回り力をつけよう」とアドバイスする。
世の中を変えるITの力で関西電力のDXを推進
顧客を仲間にブランドを創ることのやりがい

関西電力株式会社 理事 IT戦略室長
上田 晃穂 (うえだ あきお)
1972
山口県徳山市(現 周南市)生まれ
1988
山口県立 徳山高等学校 理数科 入学
1991
大阪大学 基礎工学部 情報工学科 入学
1995
奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科
情報処理学専攻 入学
1997
関西電力 入社
2000
関西電力 経営改革・IT本部 システム監理グループ 配属
2004
関西電力 大阪南支店 情報通信グループ リーダー
2006
関電システムソリューションズ(現 関電システムズ)出向
2010
関西電力 経営改革・IT本部 情報技術グループ マネジャー
2011
関西電力 経営改革・IT本部 IT戦略グループ マネジャー
2016
ケイ・オプティコム(現 オプテージ)出向。モバイル事業戦略部長
2019
関西電力 広報室 ソーシャルコミュニケーション担当部長
2021
関西電力 IT戦略室 IT企画部長
2024
関西電力 理事 IT戦略室。現在に至る
大学時代に直撃した ITによる社会変化 電力使用の効率化も DXで可能な時代に
「大阪大学から奈良先端科学技術大学院大学に進んだ頃に、Windows95が発売されてインターネットの爆発的な普及が始まりました。そこから情報技術の急速な進展を目の当たりにして、『ITには世の中を劇的に変革する力がある』と感じたんです」
そう語る関西電力の理事・IT戦略室長を務める上田晃穂さんは、いま同社のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を主導する業務に取り組んでいる。DXとは、デジタル技術を活用することで、業務やビジネスモデルそのものを変革し、企業価値を高める取り組みのことだ。関西電力がこれまで進めてきたDXの代表例が、「スマートメーター」の導入である。以前は検針員がお客さまの家々を周り、電力メーターを見て毎月の電気の使用量を測っていたが、2012年からネットワークにつながったスマートメーターの設置を開始。2023年には関西電力と契約する全戸の電気使用量を自動収集できるようになった。同時に関西電力のユーザーは、いつでもネットで自宅の電気使用量や電気代の確認が可能になった。
「私たちはスマートメーターが集めた電気の使用量のデータをもとに、さらに多くの人に役立つ仕組みを作ろうとしています。その一つが『関西電力バーチャル発電所』です。これは、複数の太陽光・風力などの発電設備や蓄電池IoTで連携させ、仮想的な発電所として運用するシステムになります」
電気の使用量は、季節や一日の時間、場所によって大きく変動するが、バーチャル発電所を活用することで、複数のユーザーが電力を効率的に融通し合うことができるという。このほかにも関西電力のDX業務では、工場のCO2 排出量を減らすサポートや、ドローンによる設備の点検・保守管理など、さまざまな取り組みを進めているところだ。
大切なのは「要領」ある教えを実行し 大阪大学に見事現役合格

上田さんは、1972年に山口県徳山市(現・周南市)に生まれた。自然豊かな環境の中で、毎日友達と野球をしたり、山でカブトムシを取ったりして遊んで育った。運動も得意で中学は陸上部に所属。山口県立徳山高校の理数科に入学後も陸上部で長距離選手となり、毎日10㎞以上、練習で走ったという。
「県の大会では、のちのアテネオリンピックの男子マラソン代表選手と一緒に走ったこともあります。勉強のほうも学年1桁以内でした。ただし好きな科目は体育と美術、それに給食でした(笑)」
やがて迎えた大学受験では現役で大阪大学の基礎工学部情報工学科に後期合格する。上田さんの受験突破の秘密は、「一冊の本」にあった。
「参考にしたのは、精神科医で東京大学医学部卒の和田秀樹さんが書いた『受験は要領』という本です。その本で一番衝撃を受けたのが、「数学は暗記だ」と書いてあったことだ。
「それまで数学は、ああでもない、こうでもないと時間をかけて必死に考えて解くものだと思っていました。ところが『受験は要領』には『問題をパッと見てわからなかったら、すぐ答えと解説を見て、解法のパターンを暗記するのがいちばん大事』と書いてあったのです」
上田さんは早速その教えどおり、数学や物理の解法パターンを頭に詰め込んでいった。パターンをどんどん蓄積していくうちに、あいまいだった基本がしっかりと身につき、点と点だった知識が線でつながっていった。そして難しい応用問題も、考えて解くことができるようになり、次第に模試の成績も伸びていったという。
「情報工学科に進んだのは、そこが阪大の基礎工学部の中で一番難易度が高かったから」という単純な理由だったが、その選択が上田さんの今につながっていく。
時給1万円を稼いだ塾講師のアルバイト スマホ事業の立て直しが大きな転機に

「大学では主に、画像処理技術について勉強しました。学部時代は、『レントゲンの写真を解析して血流を可視化し、動脈瘤の発見につなげる』という研究を進めました。大学院では防犯カメラの赤外線映像から、怪しい人を形・身長から判定する仕組みを研究していました」
そうした研究のなかで、黎明期のAI(人工知能)や量子コンピュータなど、未来に大きな進展が期待される新しい技術があることを知った。当時はまだ、教科書の中の理論・概念に過ぎなかったが、情報技術がこれから自分たちの世界を大きく変えていくことが予感できた。大学時代には中学受験の理科の塾講師のアルバイトにも力を入れた。飽きっぽい小学生が60分間の授業を集中して聴き続けられるように、さまざまな工夫を行った。その結果、塾で最も人気のある講師となり、時給で1万円も稼ぐことができたという。
「同時に大学では、プログラミングが得意な同級生が自分の何倍ものスピードで課題のプログラムを組むのを見て、『自分は、ITの研究者やエンジニアには向いていない』ということもわかりました。それよりも自分は、ITの力で世の中を変えるための戦略や企画を考える人になろう、と思ったんです。関西電力を最終的に就職先に選んだのも、仕事を通じて影響を与えられる範囲が圧倒的に広く、やれることが一番大きそうと感じたのが理由でした」
97年に関西電力に入社後は、一貫してIT関連の部署で仕事を続けた。大きな転機となったのが、16年に子会社の「ケイ・オプティコム(現オプテージ)」に出向したことだ。同社では携帯電話の格安スマホサービス「マイネオ」を二年前から提供していたがユーザー数が伸び悩んでおり、その立て直しが責任者である上田さんの使命となった。
顧客をファンにユーザー数が3倍以上に増加 「先回り力」をつけてキャリアを築く

「マイネオの事業には、自分から手を挙げて立候補しました。関西に住んでいれば誰もが知っている大企業の関西電力とは違い、新しいマイネオはほぼゼロから顧客を獲得して、契約を継続してもらわなければならない。それに大きなやりがいを感じたんです」
上田さんがマイネオのユーザーを増やすうえで大切にしたのが「ファンとともに楽しみながらサービスを創っていくこと」だった。
「あるときマイネオのサービスに不具合が出て、回線がつながらなくなりました。するとユーザーの方たちが何人も『マイネ王』という掲示板に直し方を書いてくれ、自分たちでサービスをどうにか改善しようとしてくれていたんです。それを見て、『このユーザーの方たちと、ぜひ一緒にマイネオのブランドを創っていきたい』と思いました」
上田さんはユーザーに向けてリアルなイベントを開催し、ウェブ上のコミュニティを活性化する施策を次々に行った。その結果、三年間でユーザー数は3.6倍の116万件に増え、格安スマホのサービスで顧客満足度ナンバー1の評価を得ることができた。
「マイネオのユーザーの方々は自分たちの同志であり仲間でした。マイネオのファンの皆さんとともにサービスを創っていった三年間は、私の仕事人生の中でも最も充実していた期間でした」と振り返る。
そうした仕事の経験から、上田さんは高校生の将来に向けてのアドバイスとして、「『先回り力』が大切です」と述べる。
「次にやってみたい仕事に必要となる知識を、先回りして書籍や資格取得など独学で勉強しておく。すると自分ができる領域が増えていきます。そうすればやりたい仕事や、行ってみたい職場へのアピールもできますし、実際にその仕事が始まったときに、いきなりトップスピードで取り組むことで、早期に結果・成果を出すことができます」
社会人になると、誰も事細かく「これを勉強したらいいよ」とは言ってくれない。「必要になってから勉強するのでは遅い」とも上田さんは述べる。
「将来の『なりたい自分』にとって、何を先回りして勉強することが必要か考え続け、その勉強を実行し続ける力を、ぜひ受験勉強を通じて養ってください。きっと皆さんの未来につながります」とエールを贈る。
Q&A
上田さんは資格をたくさん取られていますが、 どんなメリットがありますか?
現在56個の資格を取っています。当初は仕事の効率・効果を最大化するために取得していました。業務経験だけでは断片的な理解に留まるものを体系的で網羅的な知識が習得できるからです。最近では幸せな人生を送るためと目的が変わってきました。初対面の人との話のきっかけにもなりますし、なにより自分の気分も高められます。ぜひ、日本で1人しかいないオンリーワンの存在を目指してみてください。