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FA業界

幼い頃からよく知る近所の会社は、世界有数の産業用ロボットメーカー。大学で学んだ画像解析の知識を生かし、女性の視点でロボットを開発!

小学校で芽生えた算数・理系への関心 

生まれ育った地で人に役立つロボットの開発にチャレンジする

株式会社安川電機 技術開発本部アグリメカトロニクス開発部 ロボットアクチュエータ開発課

森若 璃菜  (もりわか りな)

1997

福岡県北九州市に生まれる。

明るい性格で友だちに頼られることが多かった。

2013

兄も通った福岡県立北筑高等学校に入学。運動会の  

実行委員や、ギター部の活動を頑張りながら、勉強にも 

力を入れ、テストでは常に学年10位以内にいた。

2016

九州工業大学工学部総合システム工学科に入学。   

大学では研究とともにアパレルの販売員、飲食店の  

店員など 、さまざまアルバイトを体験した。

2020

九州工業大学工学府電子システム工学コースに進学、 

大阪の医療機器メーカーとの共同研究を進める。

2022

株式会社安川電機に入社し、

1年間の研修を経て現在に至る。

 北九州市に本社・工場を置く安川電機は、1915年創業の大手電気機器メーカーだ。自動車、電気自動車(EV)、半導体、電子部品、次世代通信、食品製造、農業、バイオをはじめとした産業の高度化に取り組み、エレベーター、空調、オイル&ガス、ポンプ、太陽光発電、ロジスティクスといった社会インフラなど、私たちの暮らしに欠かせないさまざまな分野を支えている。世界の4大産業用ロボットメーカーの一社としても知られる同社で、森若璃菜さんは開発部のエンジニアとして活躍している。


 理系の女性を表す「リケジョ」という言葉が一般化して久しい。一方、日本のものづくりの現場では、いまだ女性よりも男性のほうが圧倒的に多いのが実情である。森若さんはそんな状況について、「男女ともに社会に参画するのが当たり前になった今こそ、産業を支えるものづくりの業界でも女性の視点や発想が求められています。理系科目が好きな女性に、この世界で働くことの魅力をぜひ伝えたいです」と語る。産業用ロボットという最先端のものづくりの領域で、新しい技術の開発に挑む森若さんに、これまでの歩みと目指す未来を聞いた。

算数が得意と自覚した幼少期 規律正しい高校で体育祭に尽力

 森若さんは1997年に北九州市で生まれ育ち、今も同地で暮らしている。勤務する安川電機本社は自宅最寄りの黒崎駅に隣接しており、幼い頃から同社の存在が自然に意識に刷り込まれた。


 「北九州から出たことがないんです」と笑う森若さんが「リケジョ」への道を歩み始めたのは小学生のときのこと。そろばん教室に通うとクラスの中で誰よりも計算が速くなった。友人に難しい算数の問題の解き方を聞かれることも増え、「自分は算数が得意なのかも」という意識が育まれていった。


 中学校では、「ボランティアってどんなことをするのだろう?」という好奇心から、ボランティア部に入部した。市民センターで行われるイベントの運営や、小学生たちの流し素麺の体験会、地元の高齢者が集うダンスの会などをサポートするなかで、世の中に対する見方を広げていった。


 「中学では英語が最初は苦手だったんですが、あるときに『単語を知らないから読めないんだ』と気づいて、単語を頑張って覚えたら、どんどん分かるようになりました」。そこからは数学だけでなく、英語も得意科目となった。


 高校も地元の福岡県立北筑高校へと進学した森若さん。同校はその昔「軍隊学校の北筑」と呼ばれており、森若さんの入学当時も規律が厳しいことで近隣に知られていた。「新入生は入学してからの数日間、応援団長の指導のもとで、校舎に向かって校歌を延々と歌うのが伝統なんです(笑)。最初はびっくりしましたが、すぐに慣れました」


 北筑高校では運動会にとても力を入れている。なかでも全校生徒が整然と行進しながら、大きな文字をグラウンドに描く「プロムナード」と呼ばれるプログラムは、テレビにも度々取り上げられるほど有名な行事だ。森若さんは運動会の実行委員となり、3年生のときにはクラスの中心となって運動会を盛り上げた。

青春を謳歌しながら勉強にも本気! 「蚊」の対策から画像解析の研究へ

 「体育の先生たちから、『運動会は君たちの甲子園だ。これを頑張った人は必ず大学受験も上手くいく』と発破をかけられたこともあって、すごく頑張りました」


 高校ではギター部にも加入しドラムを始め、シンガーソングライター・YUIの曲などを練習した。「もともと音楽が好きだったので、文化祭や路上ライブでの演奏が、すごく楽しい経験になりました」


 そうして青春を謳歌しながらも勉強には手を抜くことなく取り組んだ。同校では定期テストの結果が上位50名まで実名で張り出される。入学後の最初のテストで成績上位を取った森若さんは「次のテストで名前が無くなったら恥ずかしい」と考え、その後もずっと10位以内に入ることを目指して勉強に取り組んだ。英語や数学では学年1位の成績を複数回取り、高校3年間を通じて成績が良かったことから、推薦で九州工業大学への合格を手にした。


 「当時は将来何になるか決めていませんでしたが、好きな数学を生かせる道に進みたいと考えていました。九州工業大学のオープンキャンパスに参加したとき、工学部では広い分野を学べることを知って、入学後に自分の道を探そうと思ったんです」


 そうして入った九州工業大学の「課題解決型授業」で、森若さんは研究のおもしろさを知る。学生たちが自ら社会の課題を見つけ、テクノロジーによって解決する道を探ることが求められた。森若さんたちのグループは、夏場の害虫の代表格である「蚊」を何とかしたいと考え、「空中を飛ぶ蚊をカメラで捉えて、虫が嫌がる周波数の音を出すことで追い払うことができるのではないか」と考えた。実際には高速で飛ぶ小さな蚊をカメラで正確に検出するのは技術的に非常に難しく実現はできなかった。


 だがそのときの経験が、森若さんの今の仕事へとつながるきっかけとなる。画像解析に関心を抱いたことから、3年生の時にロボットの「目」の役割を担うカメラや画像解析の技術を研究する研究室に入ったのだ。


 「医療用機器に使われる部品を製造する大阪のメーカーに協力してもらい、研究を進めました。金属部品の切削工程をカメラで撮影することで、期待どおりの精度が出ているか、画像解析でチェックできるシステムを作ることを目指しました」


 大学院に進んでからも研究を続けた森若さんは、画像処理におけるカメラの設置精度の重要性や、切削油が跳ねてレンズが汚れるなどのトラブルについてあらかじめ予想し、対策を用意することの大切さを学んだ。研究室の指導教授はもともと安川電機で働いていた方で、研究室には同社の青いロボットが置かれていた。

あらゆる産業に導入が進むロボット 女性ならではのものづくりを切り拓く

 就職活動の時期を迎えた森若さんは、教授から「ロボットは自動車産業やエレクトロニクスだけでなく、今ではアパレル業界や食品業界など、ありとあらゆる生産現場に入っている。ロボットの技術者になることで、広く世の中の役に立つことができるよ」というアドバイスに共感する。安川電機を第一志望に就職活動を進め、見事に内定を勝ち取った。


 「幼い頃からよく知る会社だったので、安心感がありました。両親もとても喜んでくれましたね」


 現在、森若さんは会社で二つの開発テーマに取り組む。一つ目が「多数のロボットが自律的に状況を判断し、協調して最適な作業を行うためのシステムの開発」だ。


 「今のロボットは基本的に、人があらかじめ動作を指示し、そのとおりに物を作ったり移動させたりする機械です。しかしこれからはマーケットの素早い変化に合わせて、ロボット自体が自ら判断し、生産活動を調整していくことが求められます。その実現のために、周囲の状況や他のロボットを正確にカメラで認識するシステムの開発を私の部署で進めています」


 もう一つの開発テーマが、港のコンテナを運ぶクレーンロボットに設置するAIカメラの研究だ。「港湾のクレーンは人が操作していますが、コンテナが見えづらい角度や位置があり、ヒューマンエラーが起きる要因となっています。AIカメラによる画像解析で、そうした事故を防ぐことを目指しています」


 日本では以前から、高校までは理系科目が好きでも、大学の選択や就職先に理系を選ぶ女子学生が少ないことが問題となっている。「それはきっと生産現場に対して『油で汚れる』といったイメージがあるからだと思います。実際のものづくりの現場の多くは、非常にクリーンで快適な環境で、当社でも活躍している女性がたくさんいます。この業界でも女性だからこそ生み出せるロボットの姿がきっとあるはず。ぜひ関心がある方は、ロボット業界を目指してください」と森若さんはエールを送る。

Q&A

高校生に勧めたいことは?

 人生において一番勉強したのが高校時代でした。高校のときの頑張りが将来の可能性の幅を決めると思うので、ぜひ未来をイメージして勉強に取り組んでみてください。

休日の過ごし方は?

 マシンピラティスに関心があり、休日に習おうと思っています 。マシンピラティスはかなりきついそうですが、運動を通じて姿勢を良くしたいと考えています。