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小売業界

世界19の国と地域に展開するセブン-イレブン。その海外事業の要となる人財育成に従事する小林亜弥さんは、語学への情熱と教育への使命感を胸に、社内英語研修プログラム「SET」を牽引する。自身も常に学び続ける姿勢で、グローバル化する企業の未来を支える。

世界に通じる人財を育てる

グローバル人財開発のプロフェッショナル

株式会社セブン-イレブン・ジャパン

海外事業本部 グローバル人財開発部 トレーナー

小林 亜弥  (こばやし あや)

1989

東京都文京区生まれ

白百合学園で小学校から高校まで過ごす

2008

東京都 私立 白百合学園高校卒業

2012

慶應義塾大学 法学部政治学科卒業

2014

香港中文大学 歴史学科 修士課程修了

セブン-イレブン・ジャパン入社


新入社員として店舗勤務、OFC(オペレーショ

ン・フィールド・カウンセラー:店舗経営相談員)、

グローバル戦略企画部を経て現在に至る

 コンビニエンスストアの世界的チェーン、セブン-イレブン。2024年12月末現在、世界19の国と地域に約8万4千店を展開する。この急速なグローバル化に伴い、各部署で英語力と国際的な視点を持つ人財が必要となってきた。


 その中心的存在として活躍するのが、小林亜弥さんだ。「グローバル人財の育成に向けた研修を企画したり、教材を提供したり、海外子会社と連携を取りながら、社員の皆さんのグローバルな活躍をサポートしています」と、小林さんは自身の仕事を説明する。


 小林さんが中心となって運営する社内英語研修プログラム「SET(Seven-Eleven EnglishTraining)」は、2021年にスタート。これは、入社三年目以降の社員を対象とした二年間の長期プログラムだ。


 「SETの特徴は、英語力に関係なく、やる気のある社員なら誰でも応募できることです。単なる語学研修ではなく、異文化理解やグローバルな視点も養成します」と小林さん。一年目ではTOEIC600点以上、二年目では800点前後を目標に設定。月一回の集合研修と日々の個別学習を組み合わせた、意欲的なプログラムだ。

言語への興味を導いた中学時代

 小林さんが語学の世界に興味を持ったのは、小学生のときだった。東京都文京区で生まれ育った小林さんは、小学校から白百合学園に通い、フランス語に触れる機会があったのがきっかけの一つだ。「小学4年生からフランス語の授業があり、英語以外の言語に触れる機会がありました。一つの言語だけでなく、さまざまな言語や文化に触れることで、より広い視野が得られると感じていました」


 高校時代、小林さんはCCFと呼ばれる、フランス語でミュージカルを上演する部活に入部。当初わずか部員5名だったが、仲間たちと良い作品を作って上演していくうちに、卒業までに20名以上に増やした。「半年かけて自分たちで一生懸命歌い踊り、大好きな作品を作り上げたうえで、緊張感溢れる本番を乗り切る一体感は人生の宝物です」


 学業面では苦労も多かった。「理系科目が特に苦手で、ほとんどの教科で成績は3程度。でも、中学1年のときの先生との出会いが転機になりました。その先生は、成績だけでなく、学ぶことの楽しさを教えてくれたんです」受験勉強では独自のコツを生み出した。「とにかく手で書くことを大切にしました。効率は良くないかもしれませんが、例えば英文を丸々写して、その下に自分で訳を書いていく。教科書の英文を全部写すなんてことも。時間はかかりますが、私の場合はそれが一番身につく方法でした」


 また、テストでわからない問題に出会っても、焦らない性格が功を奏した。「小学校の頃から成績が下の方だったので、テストでわからないのは当たり前という感覚がありました。一周回って、受験でも平常心で臨めたかもしれません」


 そうした努力と性格もあって、大学は第一志望の慶應義塾大学法学部政治学科に進学。「家族がみんな慶應義塾大学だったので、無言のプレッシャーも感じていました」と笑う。大学時代は「受験で燃え尽きてしまった」と振り返るが、夏休みには神戸港から船で中国に渡り、内モンゴルへ旅をするなど、アクティブな一面も。


 語学と文化に対する関心は持ち続け、比較歴史学という学問分野を知った小林さんは、英語でその分野を学べる香港中文大学の修士課程に進学した。中国人のルームメイトと、生まれて初めて東京の実家を離れての生活。大学院では英語で多くのレポートを執筆し、学期末には3~4500語程度の長文論文を4本書き上げるなど、徹夜をしながら課題をこなした。


 「歴史は過去の研究というより、そこから未来をつくるための学問だと考えています。一つの事象を異なる国の視点から比較することで、より深い理解が得られると感じました。また日中の歴史についても、リベラルな考えを持つ友人たちと英語でディスカッションを重ね、さまざまな視点から学ぶことができました」

現場経験を生かした人財育成

 セブン-イレブン・ジャパンへの入社は、食品業界への興味がきっかけだった。「元々食べることが好きで、食品メーカーを志望していました。セブン- イレブンは食品を扱う企業として興味を持ちました」


 入社後、最初の三年間は店舗での実務を経験。レジ打ちや夜勤など、現場の仕事に携わった。「最初はレジを打つだけでも緊張しましたね。でも、お客様との何気ない会話や関係づくりが楽しかったです」


 その後、OFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー=店舗経営相談員)として渋谷エリアを担当。「加盟店様との関係は、指示をする立場ではなく、対等なパートナーとして一緒に改善策を考えていく姿勢が大切でした。ときには意見が対立することもありましたが、それも含めて貴重な経験になりました」


 現場での経験を積み、グローバル戦略企画部を経て、現在のグローバル人財開発部へ。新しい部署での最初の一年は試行錯誤の連続だった。


「海外子会社と新しい研修を立ち上げる際、上長とのコミュニケーションで壁にぶつかりました。でも、立場が違えば同じ言葉でも見えているものが全然違うということに気づき、その後は自分の考えや不明点をより丁寧に説明するように心がけました」


 この経験は今の仕事にも生きている。「会議での通訳も、単に言葉を訳すのではなく、本質的な意味が伝わるような橋渡しを心がけています」

文化の架け橋として

 小林さんの一日は、海外子会社との会議から始まる。時差の関係で、テキサス州とは朝一番、ハワイとは午前10時までに連絡を取り合う必要がある。


 午前中は主に資料作成や研修効果の検証を行い、午後は研修受講生への対応や面談に充てる。「受講生の方々は、普段の業務もある中で研修に取り組んでいます。その努力には本当に頭が下がります」研修では、英語力だけでなく、異文化理解も重視している。「例えば、日本式のプレゼンテーション資料は文字が多い傾向がありますが、海外では異なります。ジェスチャーの使い方一つとっても、国や地域によって千差万別。そういった違いを理解し、適切にコミュニケーションを取れる人財を育てたいと考えています」


 TOEIC980点(満点は990点)を誇る小林さんだが、日々学習を続けている。「独り言を英語で言ったり、好きな映画やドラマを字幕なしで観たりしています。歌うことが好きなので、英語の歌を歌うこともいい練習になります。ディズニー作品は子供の頃から大好きで、特に『ライオンキング』の曲をよく歌っていました。今でも気分に応じて、楽しいときは明るい曲、落ち込んでいるときは静かな曲を選んで歌います」

常に学び続ける姿勢で

 小林さんが特に心がけているのは、受講生に寄り添う姿勢だ。「私自身も常に学習者の一人です。だからこそ、受講生の方々の気持ちがよくわかります。特に成果が出ないことで諦めてほしくないんです」


 受験生も同じ学習者。将来を考える若者たちへのメッセージをもらった。「私自身、理系科目が苦手で、学校の成績も振るいませんでした。でも、自分の興味のあることを諦めずに続けることで、道は開けました。大切なのは、自分の可能性を信じ続けること。そして、支えてくれる人々への感謝の気持ちを忘れないことです」

Q&A

志望校を目指す心構えは?

 最初から「自分には無理」と諦めないことです。学校の成績と受験に必要な学力は別のもの。自分の今の偏差値に縛られず、やれることを全力でやることが大切だと思います。

語学以外に好きなものは何ですか?

 3歳か4歳の頃に初めて乗せてもらって以来、ずっと馬が好きです。馬とは手や足の動きで意思を伝え合いますが、これは語学学習にも通じます。完璧な言語力がなくても、相手に何かを伝えようとする意志があれば必ず通じ合えますから。