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工作機械メーカー業界

日本のものづくりを支える工作機械メーカーで、技術者として経験を積んだ加藤由佳さんは、その経験を生かし社内にある設計や製造のノウハウを有効活用するためのシステム構築を担う。より良い製品を顧客に届けるために。

多くの人を巻き込みながら、ものづくりの未来を支える

ベースとなるシステムづくりに打ち込む

オークマ株式会社

技術本部 デジタル活用革新課 副参事

加藤 由佳  (かとう ゆか)

1986年
三重県生まれ。実家の隣に建つ町工場が遊び場だった。
1999年
三重県 私立 高田中・高等学校に入学。中高となぎなた部に所属。中2のときに県大会で優勝し、全国大会に出場した。規律や上下関係を大切にする姿勢は、このときに身についた。
2005年
広島大学 工学部第一類(機械システム工学系)に入学。自分の作ったもので世の中の役に立ちたいと、この学部を選んだ。
2009年
オークマ株式会社に入社。ものづくり推進課で、主に顧客の機械操作に関する電話対応やスクール、テストカットの業務に携わる。
2013年
営業技術の部門に異動。顧客の専用カスタマイズに対する見積もりや、技術的な検討、機械仕様の提案などを手がける。ドイツの現地法人へ、半年間の海外出張を経験。
2017年
出産のために産前産後休暇、育児休業を取得。復帰後も育児短時間勤務制度を利用しながら、休業前と同じ業務に携わる。
2019年
デジタル活用革新課へ異動。製品情報を一元管理するためのシステム導入に携わりながら、新卒採用やSNSの運営、業務改善のワーキンググループを担当。昨年には昇格試験に合格し、管理職に。

 「緑の下の力持ち」とよく称される工作機械は、ものづくりを支える重要な産業の一つ。飛行機や車から家電、スマートフォンまで、私たちの生活の中にあるあらゆるものの部品を作り出すために、工作機械が使われている。そんな工作機械業界に惹かれ、2009年にオークマ株式会社に入社したのが加藤由佳さんだ。


 「オークマは、材料を削ったり穴を開けたりする機械部分だけでなく、必要な作業工程や使う工具の順番を数値で指示する数値制御装置(NC)まで、すべて自社で手がけているのが強みです」


 創業より125年の歴史を誇るオークマでは、1963年に日本で初めて自社でNC装置を開発。その後、コンピュータによる制御を導入し、近年では、加工精度を向上させるための微調整など、これまで作業者の熟練の技やノウハウに頼っていた部分を、人工知能やセンサーなどを駆使して自動的に行う「知能化技術」も新たに開発している。


 加藤さんは、こうした工作機械の使い方を顧客に伝えるスクールやテストカットを行う部署をはじめ、工作機械を顧客の求める仕様にカスタマイズする部署などを経て、現在は「デジタル活用革新課」で管理職を務めている。過去の工作機械の個別カスタマイズ情報を一元管理し、新たなカスタマイズや新製品を開発する際に、誰もがスムーズに情報にアクセスし、活用できるシステムを構築しようと奮闘中だ。


 「いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいるのですが、実際には各部門の人に困りごとをヒヤリングしたり、業務改善のためのワーキンググループを運営したりと地道な仕事が多いですね。システムを作り上げるには、多くの人を巻き込む〝旗振り役〟として力が重要だと感じています」

みんなの喜ぶ顔を最後に見たくて、率先して文化祭のまとめ役に

 1986年に三重県で生まれた加藤さん。実家は祖父の代から町工場を営んでいて、加藤さんは台車を押してお手伝いごっこをするなど、よく工場で遊んでいた。


 「だからといって手先が器用でも、ものづくりが得意だったわけでもなく、料理をしたり図書館で本を読んだりするのが好きな子どもでした」


  もう一つ好きだったのが、人前に立つこと。クラス委員などは、自ら率先して務めていた。


 小学校卒業後は、中高一貫校の高田中・高等学校へ。当時の思い出として一番心に残っているのが、高1の文化祭のときにクラスのみんなで校舎の壁一面に作った「缶アート」だ。夏休み中、みんなで空き缶を集め、それを洗い、穴を開け、一枚の絵になるよう紐を通してつなげていった。「私はみんなに声をかけて役割分担をしたり、スケジュールを管理したり、率先して動くうちに、最終的にはリーダーになっていました(苦笑)。みんなで力を合わせて作り上げたぶん、出来上がったときの感動はひとしおでしたね!」


 このほかにも修学旅行の実行委員など、中高にわたりさまざまな委員を務めた。そのモチベーションはどこからくるのだろう?「自分が率先して動いて多くの人を巻き込み、目標に向かって頑張ることで、最終的にうまくいったときに、みんなと喜び合えるのが嬉しいんです。これは、今の仕事でも変わりません」


 中高となぎなた部の練習に打ち込み、中学2年では県大会で優勝し、全国大会にも出場した加藤さん。部活中心の生活だったが、引退後は勉強に打ち込んだ。特に高3の夏休みは、毎日13時間の猛勉強。部活の厳しい練習を乗り越えた経験があったからこそ、受験勉強も頑張れたと振り返る。


 部活の引退直後はどこにも受からないのではないかと心配されるような状況だったが、広島大学の工学部第一類(機械システム工学系)に合格。大学ではスキューバダイビングサークルの活動に熱中した。


 「広島大学は総合大学だったので、社会に出てからは知り合えないようなさまざまな学部の人と出会え、いろんな考え方を吸収できました。今、振り返ると、とても貴重な経験だったと思います」


 一方、講義で印象に残っているのは実習だ。実際に工作機械を使って自分の手で部品を削り、ものを作り出すのがとても楽しく、就職活動ではメーカーを志望した。なかでも、すべてのものづくりを支える工作機械業界に惹かれ活動を進めていたとき、父親のある言葉に背中を押された。「実は、実家の工場にもオークマの旋盤が何十年も前からあって、父に工作機械業界の中でどこがいいと思うのか聞いたとき、『オークマは老舗で、すごく頑丈な機械を作っている』と勧めてくれたんです。実際に会社へ見学に訪れると、社員の皆さんの雰囲気が温かくて、ここならやっていけそうだと実感しました」

さまざまな部署の力を一つに集結して、お客さまが求める機械を形に

 就職活動中は設計の仕事にあこがれた加藤さんだったが、設計に携わるにしても、まずは工作機械を操作できるようになりたいと、顧客に工作機械の操作方法をレクチャーし、導入後の問い合わせにも対応する部署を希望した。当時は、オークマには女性の技術者がまだ少ない中で、早く一人前として認めてもらえるよう、社内の勉強会に積極的に参加。機械保全やマシニングセンタに関する国家資格も取得した。


 4年にわたり経験を積んだ後、より顧客に近いフィールドでオークマの機械を提案したいと、自ら異動を希望し「営業技術」という部門へ。「工作機械は、自動車や家電のようにカタログやショールームで商品を選んだら、すぐに使えるというものではありません。お客さまの削り出したい部品に合わせて、専用のカスタマイズを行ってから納品します。その窓口となり、設計や製造、加工など社内の各部署との交渉や調整を行いながら、お客さまに喜んでもらえる機械を形にするのが、営業技術の仕事。まさに旗振り役なのです」


 営業技術として働いた6年間の中で強く印象に残っているのが、ある自動車の次世代モデルに使われる、足回りの部品を削るための工作機械を担当した仕事だ。部品加工に対して求められる精度はとても高く、一つの部品を削る時間も0.1秒でも短縮したいという顧客の要望に応えるには、「自分一人では何ともならなかった」と振り返る。「社内のいろいろな部門と掛け合い、力を一つに結集できたことで、無事に要望をクリアした機械を納品できました。学生の頃、文化祭や修学旅行で旗振り役を務めた経験が、社会に出てからも生きるとは思いませんでした。今振り返ると、学生時代に好きだったことや得意だったことは、仕事でも生きています。受験勉強中は合格することだけが目標になりがちですが、自分が好きなこと、得意なことを、もっともっと大事にすればよかったなと思っています」


 工作機械を納品後、自動車の次世代モデルの生産が始まり、実際にその車が街中を走る姿を見かけるように。その度に、「あの車の足回りには自分が携わった機械で削った部品が使われているんだ!」と、嬉しさが込み上げてくるという。

情報を一元管理し誰もがスムーズに活用できるシステムを目指して

 営業技術での現場の経験を買われて、冒頭で述べた「デジタル活用革新課」に異動したのは2019年のこと。この部署には、設計や開発、製造など、各部署で経験を積んだ同年代のメンバーが集まり、社内の製品情報を一元管理し、より活用しやすくするためのシステム構築を行っている。実際にそのシステムが完成すると、どんなメリットが生まれるのだろう?「例えば、5年ほど前にある会社で行ったカスタマイズと同じようなことをしたい場合、これまでは担当者に聞いて当時の資料を見せてもらい、設計内容を確認するしかありませんでした。それが、システムができれば誰でもスムーズに当時の資料を確認でき、現在の案件の参考にできます。また、設計の背景にお客さまのどんな要望があったのかも把握できるので、その声を集めていけば、新製品や新機能を開発するヒントにもなるのです」


 日本では少子高齢化が進みつつあり、今後、ものづくりの現場では人材不足が懸念されている。同時にベテラン社員が退職し、熟練の技にも頼れなくなってきている。そんな中、これまでは新製品を作る際に顧客側でどのような工作機械が必要か、どんな加工を施すかなどを検討していたが、その段階から工作機械メーカーに依頼したいというニーズが高まっている。


 「今後は工作機械だけでなく、顧客のラインや工場を丸ごと提案するような、ソリューションの提供が求められるでしょう。その際にも、現在構築しているシステムは、お客さまにより良いものを提案するためのベースとして、大いに役立つはずです」


 これからのオークマを支える基盤を築くべく、加藤さんは今日もさまざまな人を巻き込みながら、一歩ずつ前に進んでいる。

Q&A

子育てと仕事の両立について教えてください

オークマには、産前産後休暇制度や育児休業制度がしっかりと設けられています。また、育児短時間勤務制度は、法律上の義務は子どもが3歳になるまでですが、オークマでは小学校卒業まで利用可能。育休を取得した社員は、100%復職しています。私が育休を取得したのは「営業技術」の仕事をしていたときですが、復帰後も同じ営業技術として、やりがいのある仕事を担当できました。