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銀行業界 法人営業 編

月号に引き続き、今回も銀行の法人営業の舞台裏をお届けする。ご登場いただくのは、三井住友銀行小石川法人営業部次長の鈴木嘉之氏と岡田康彦氏のお二人。岡田氏は早稲田大学で経営システム工学を学んだ経歴の持ち主。理系から銀行の法人営業の道へと進んだきっかけや、銀行の「三大業務」の一つである「融資」について具体的なエピソードを交えながらご紹介いただく。上司である鈴木氏には、チームリーダーとしてのメンバーへの接し方や「目標を掲げて動く」ことの大切さをお伺いした。

質の高い金融サービスを提供して企業の意思決定に関わる存在であり続ける

株式会社三井住友銀行
小石川法人営業部

岡田 康彦  (おかだ やすひこ)

1989年 千葉県出身
2008年 私立 市川高校 卒業
2012年 早稲田大学 創造理工学部経営システム工学科卒業
同年 入行 巣鴨支店 配属
10月 小石川法人営業部 配属 現在に至る

担当企業は90社!法人営業は「金融のなんでも屋さん」!?

 明治創業の老舗銀行を源流とする三井住友銀行は、平成13年にさくら銀行と住友銀行が合併して発足したメガバンクである。現在は三井住友フィナンシャルグループの主翼として、さまざまなグループ企業と連携を図りながら質の高い金融サービスの提供に尽力している。

 「三井住友銀行には全国に約170あまりの法人営業部があり、それぞれは各エリアにある企業を担当しています。エリア内には、地方で長く商売をしている方もいらっしゃれば、グループ会社をいくつも抱えているような会社もあります。業種も製造業やサービス業、IT企業など、実にさまざまです。そうした企業のなかで、すでに当行と取引のあるお客様との関係をより深くしていくこと。加えて、新規のお客様を開拓していくことが私の仕事となります」

 そう語るのは三井住友銀行小石川法人営業部の岡田康彦である。岡田は入行6年目を迎える。現在およそ90社の企業を担当する若手バンカーだ。

 「私たち銀行の仕事は三大業務と呼ばれるものがあります。預金、融資、為替です。それ以外にもフィナンシャルグループとして証券会社やリース会社などの専門分野に特化したグループ会社を持っていますから、彼らと協力しながら金融にかかわるあらゆるサポートを行うことも非常に多くなってきています。金融のなんでも屋さんと言えるかもしれませんね。」

 例えば、岡田が年間数十件手掛けるというサポートのひとつに「ビジネスマッチング」というものがある。これは「新規販売先を開拓して売上を増やしたい」「仕入先を見直したい」という企業のニーズに応えるかたちで、それに見合う別の企業を紹介することだ。

 「企業同士を私たちが引き合わせることで、売上が伸びたり、新たなビジネスが生まれるかもしれません。銀行としては、そこに何かしらの資金需要が生まれたり、口座を開設していただける可能性も増えます。なによりもお客様に喜んでいただける。それが一番のやりがいです。」

お客さまへの情熱を持って取り組んだ「シンジケートローン」

 一方で、三大業務の一つである企業への「融資」が岡田のメインの仕事であることに変わりはない。最近、岡田が手がけたのは「シンジケートローン」と呼ばれる融資のやり方だ。「シンジケートローン」とは、複数の金融期間が共同で連合体を作り、ひとつの融資契約書に基づいて同一条件で融資を行なうことである。

 「借入が膨らんでいたその会社は、複数の金融機関からお金を借りていました。当然、借入の条件や返済期間は、金融機関によって異なります。それらを見直して、企業が資金繰りを円滑に行えるようにする。そのためにシンジケートローンという方法を採りました。」

 シンジケートローンの場合、旗振り役を務める「アレンジャー」といわれる立場の金融機関の手腕が重要となってくる。企業と複数の金融機関との間に立つ「調整役」を担うことになるからだ。しかし、各金融機関によって融資の基準も異なれば、意思決定の手順や費やす時間もまったく違う。アレンジャーの立場にあった三井住友銀行、つまり岡田は、行内の専門部署と協力して取り組みつつも、そのハードルの高さに苦戦する。

 しかし岡田には、その企業の実績をつぶさに見てきたという自負があった。何よりもその企業の作る商品が好きだった。だからこそ岡田は、率先して行内の調整を行ない、多額の融資を引き受ける決断にこぎつけたのだ。

 「結果的には、我々がリスクを積極的に取るという姿勢を、ほかの金融機関の方々にも理解していただけました。担当企業の業績やビジネスモデル、将来性などをしっかりと把握したうえで関係する方々にロジカルに説明する。これが法人営業たるものの務めなのです」

理系学部からの銀行の法人営業へ きっかけは学生時代の研究にあった!?

 早稲田大学創造理工学部に在籍していた岡田が「銀行」に興味を持つようになったのは、大学の研究室で企業との接点を持ったのがきっかけだった。

 「大学ではマーケティング・サイエンスという分野を研究していました。研究内容は、統計や確率の手法を用いて、例えばスーパーの購買履歴から商品の適性価格などを導き出すといったものです。そこで少なからず企業の意思決定に携わる事ができたことに、とてもやりがいを感じました」

 「企業の意思決定をサポートしたい」その思いから岡田がたどりついたのがバンカーへの道だった。

 「企業の意思決定に影響を及ぼすものは何だろうか。そう考えたのが”お金”でした。特に若いうちから経営者とやり取りできるのは、金融機関のなかでも銀行です。また将来は海外での勤務も希望していますので、グローバルに展開しているメガバンクに絞りました」

 こうして三井住友銀行に入行した岡田は、実際に自分のような「新米」が経営トップと対等に接することができる仕事にやりがいを感じている。しかし一方で、仕事の厳しさも痛感する毎日でもある。担当企業に融資したくとも行内の審査に通らず、何回も辛酸をなめたこともある。

 「原因が私自身が、お客様のビジネスモデルを正確に理解していないことでした。その時に思ったのは、自分以外のたくさんの人を巻き込んで仕事をしていくことの重要性です。お客さまの現場に足を運んで、社長や人事・総務の方にも丁寧に話を聞く。あるいは、行内でも他部門の仲間と連携を取る。この仕事に求められるのは、たくさんの人と協力しながら、何にでも関心を持って追求し続ける姿勢です。」

 しばしば担当企業の商品を購入して、実際に使うこともあるという岡田。銀行員といえば「数字」だけを見ている印象が強いが「数字だけではその会社の強みは分からない」と岡田は断言する。あくなき追求心を胸に、若きバンカーは自身を成長させるべく日々、奮闘している。

「目標設定」と「行動力」でお客さまに喜んでいただく

株式会社三井住友銀行
小石川法人営業部 次長

鈴木 嘉之  (すずき よしゆき)

1976年 神奈川県出身
1995年 慶應義塾高校 卒業
1999年 慶應義塾大学 経済学部 卒業
同年 入行
三田通支店、三田通法人営業部、デリバティブ営業部
(現 金融商品営業部)、
新宿西口法人営業第一部を経て
2016年より現職

忙しさを乗り切るコツは「目標設定」にあり!

 「銀行の法人営業というのは、とても幅広い業務をこなさなけれればいけません。私も一営業マンとして企業を担当していた頃は、目の前の業務に囚われがちだったものです」

 小石川法人営業部次長を務める鈴木嘉之は、自身のキャリアを振り返りながらそう語る。入校から18年。現在は営業チームを率いる立場であり、自らの経験をメンバーに「いかに伝えていくか」という点に心を砕いている。では日々の業務に忙殺されないためには何が重要なのか。その答えは「目標設定」にあると鈴木は言う。

 「目標には長期、中期、短期があります。我々法人営業は長期の目標を見据えつつ、短期で結果を出すことも求められます。そうすると月間、週間、あるいは一日のなかでも午前午後で何をするか。やるべきことをどんどん細分化していく必要があります。それをきちんと組み立てられる人は、手元の短期的なことだけに囚われてませんから、忙しくなってもぶれることがありません。これは受験勉強にも通じることではないでしょうか」

 もちろんメンバーの「成長」を見届けることも大きな喜びのひとつだ。

 「私自身は現在、お客さまと直接関わることはありませんから、メンバーが苦労していても手を差し出すことはできません。じっと我慢するしかない。そうしたなかで、彼らがお客さまに喜んでもらえるような成果をあげたときはやはり嬉しいです。私からの指示待ちではなく、自分で考えて自ら進んで動いてくれたときには、とりわけメンバーの成長を実感します」

企業の「成長」こそが法人営業の醍醐味

 また企業への融資の際にも、鈴木が心がけているのは「成長」というキーワードだ。例えば、あるメーカーの企業買収に携わったとき。さらなる売上の飛躍を目指しての戦略だったが、買収先は海外の企業で交渉には言葉や時差の壁がある。また、融資額が100億を超えるだけに行内の審査も慎重にならざるを得ない。一方で、買う側と売る側の思惑が錯綜する企業買収は、スピードが求められる。巨額の資金を素早く調達する必要がありるのだ。

 「そのときは2週間ほどでお金を手配しなければなりませんでした。まさに時間との戦いです。それでもその会社は買収が成功したことで世界的なシェアを伸ばすことができました。企業の成長に関わることができるのは、法人営業の醍醐味だと思います」

 あるいは鉄道会社の「まちづくり」に関わったときには、企業の成長だけではなく、沿線の開発という数十年にわたる「成長」の企画立案に参加した。

 「融資というのは、お客さまは成長していくために必要な資金わ、適切なときに適切な額でお出しすることです。それを逃してしまうと、たとえ1億円を融資してしまったとしても価値がまったく違ってきます。そのタイミングをきちんとキャッチできるかどうか。すべては我々法人営業一人ひとりの仕事ぶりにかかっているのです」

 そのためにもしっかりとした「目標設定」と「行動力」は欠かせないと鈴木は年を押す。

 「自分で行動を起こさないと目標も生まれません。今やっていることは、どんなことであったとしても、けっして無駄にはなりません。まずは行動して、柔軟な発想をもっている高校時代に、いろいろな経験や失敗をしてほしいと思います」

Q&A

仕事をする上で手放せない「三種の神器」を教えてください。

「スマートフォン」「ノートパッド」「ボールペン」です。スマホはインターネットやメディアを活用してタイムリーに情報収集するためにも欠かせません。営業では「調べ尽くす」という姿勢が大事だからです。ノートパッド、ボールペンは、どんな些細なお客さまのお話も聞き逃さないように、常に肌身離さず持っています。

小石川法人営業部では何人は働いているのですか?

小石川法人営業部は部長、グループ長、企業担当者、そして担当者をサポートするビジネスキャリア職など総勢約20名の職員が働いています。ほかの営業部を比較すると中規模程度の営業部になります。

もっと詳しく

銀行とは

バブル経済効果崩壊以降、日本の金融業界は統合再編の動きが加速。種類もさまざまで「三井住友」「みずほ」「三菱UFJ」の「三大メガバンク」を中心とする「都市銀行」、地方に基盤を持って地域に密着した金融サービスを提供する「地方銀行」、遺言信託などの信託業務を中心に行う「信託銀行」などがある。そのほかにも、支店や営業所を持たないネット銀行やコンビニATMなど、従来には見られなかった形態を持つ銀行も登場している。

銀行員になるためには

高校・短大・大学等を卒業後、採用選考を経て入行するのが一般的。新入行員は支店に配属され、預金、為替、出納などの基本業務を一定期間担当する。法務・財務・税務の基礎知識は必須だが、これらは新入研修や配属店でのOJT(On-the-job Trainingの略。従業員の職業訓練で、仕事の現場で実務に携わりながら業務に必要な知識・技術を習得させるもの)などを通じて習得することになる。金銭を扱うことだけに、厳しい責任感はもちろん、コミュニケーション力も必須。