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自動車業界
マツダに入社してエンジン制御に携わった今田道宏さんは、数々の優れたエンジンづくりを「モデルベース開発」で推進。
今は統合制御システム開発の先頭に立ちAI時代の車作りに挑む。
自動車でも導入が進むAI
その活用の決め手となるデータは人がつくる
マツダ株式会社
執行役員 統合制御システム開発担当
今田 道宏 (いまだ みちひろ)
1968
マツダの街、広島県生まれ。マツダ車に囲まれて育つ。
1981
広島大学附属中学校入学。電気に興味を持ち、ラジオを自分で組み立てたり、当時流行していたアマチュア無線の免許なども取得。目には見えないにも関わらず、明かりを点けたりモーターを動かしたりする電気のおもしろさに興味を感じていた。高校も広島大学附属高等学校に進学。
1987
京都大学工学部電気工学科に入学し、電磁気学研究室で電磁流体発電を専攻。
1991
マツダ株式会社入社
技術研究所にて水素自動車の制御システム開発や、超低排出ガス車の開発、『制御系開発革新』(モデルベース開発の試行)など、システム開発に携わる
2006
パワートレイン開発本部にて、「SKYACTIV-G」エンジンの制御システム開発や、モデルベース開発を担当
2015
統合制御システム開発本部にて、車載電子制御システム群の先行開発などを経て、現在は統合制御システム開発担当の執行役員を務める
車が大好きだった小学生、大学では電磁流体発電へ進む
最近の自動車には膨大な数のソフトウェアが搭載されている。自動運転車でなくともプレミアムクラスの車なら、 プログラムの総行数は1億行を超える。これは F35戦闘機とボーイング787に積まれているソフトウェアの行数を足したものより多い。しかも自動車に積まれるソフトウェアの行数は年々、指数関数的に増えている。
ソフトウェアの用途の一例がコネクティッドサービスだ。マツダではユーザーの車とネットワークでつなぎ、24 時間365日どのような状況でもユーザーをサポートするサービスを提供している。万が一、重大な事故や故障などを起こしたときでも、 24 時間体制でユーザーをサポートしてくれるから安心だ。
ただしコネクティッドサービスを提供するために車に積まれているソフ トウェアの行数だけで、ざっと4500万行ほどある。このソースコードの文字数を新聞朝刊の文字数に換算すれば、実に30数年分になる。
「それだけ膨大な数の ソースコードの中に、 たった一文字のバグが紛れ込んでいるだけでも、 完璧な安全運転を保てなくなるおそれがあります。 まさに最高レベルの安全と安心を求められるのが、 自動車のソフトウェアです。今後自動車がいわゆ るC A S E 、すなわち Connected(つながり)、 Autonomous(自動運転)、 Shared & Services(シェ アリングとサービス)、 Electric(電気自動車)へ と転換していけば、従来のソフトウェアに加えて、新たにAIの果たす役割も高まっていくはずです。これからのクルマ作りの決め手の一つは、間違いなくソフトになるでしょう」と近未来の自動車の姿を、車載電子制御システムの開発に長年携わってきた今田道宏さんは予想する。
今田さんは1968年、広島で生まれた。故郷ではマツダといえば、とても身近な存在であり、今田さんも幼い頃から自動車が大好きだった。
「私たちの子ども時代には、プラモデルづくりが大流行していました。毎月のお小遣いをもらうと、一目散におもちゃ屋さんに駆け込んで新しいプラモデルを探す。といっても当時のプラモデルは単純で単三電池とマブチモーターで動き、前にしか進めません。それでも自動車のプラモデルを作るのが何よりの楽しみだったのです。みんな広島の子どもですから、仲間内ではマツダのスポーツカー・サバンナRX-3が大人気でした」
小学生時代に今田さんは、日々の通学時に“今日のクルマ”を決めていたとも語る。家を出るときに特定の車種を決めておき、登下校の間にその車を見た台数を数えるのだ。
それほどの車好きでも、中学から高校へと進むにつれて関心は変わっていき、将来の仕事として自動車関連は頭になかった。京都大学工学部で選んだ専攻も自動車とは関係のない電磁流体発電だ。
「関西の大学に進んだのだから、いずれ就職先も関西でと考えていました。電磁流体発電とは、火力発電所の総合効率を高めるための研究ですから、研究室の就職先トップは電力会社です。幸い卒業する頃は超売り手市場だったので、関西なら望みどおりの企業に就職できたと思います。ただ実家の事情で広島に戻る必要があり、そうなると就職先はマツダの一択となったのです」
大学時代の研究は、実験をするには大がかりな装置が必要となるため、ひたすらシミュレーションで進められた。その頃はまだ今のように誰もがパソコンを使う時代ではなく、今田さんが使っていたのは大型計算機センターのコンピュータだ。これをまるでプログラマーのように、コンピュータ言語のFortranでコマンドラインを一行ずつ書いて動かしていたという。そのシミュレーション経験が、入社後に生きてくる。
プラモデルでは触れられなかったエンジン部門を希望
マツダ入社に際して今田さんは、胸の内で入社後の自分の役割を決めていたという。
「電気系の出身者が機械メインの企業に行くのだから、自分は主役ではなく、あくまでも脇役に徹しようと考えていました。今から思えば、ずいぶん謙虚な姿勢です。それでもただ一つ、これだけはという希望も持っていました。自動車の数あるパーツの中で、プラモデルではどうしても触れられなかったものがあった。それはエンジンです。せっかく自動車メーカーに入ったのだからエンジンに関わりたかった。ちょうど入社の前年にマツダは、水素自動車のロータリーエンジンの開発に取り組むと発表していました。排気ガスとして湯気しか出さない車! なんてカッコいいんだ、これをやりたいと思ったのです」
望みがかなって配属されたのは技術研究所のエンジン部門、ところが担当として任された電気制御では苦労したという。「実は大学時代も制御工学が苦手だったのです。なぜなら制御とは数学で、要するに解析学と線形代数からなる化け物のような領域です。とにかく訳がわからないので、大学時代は近寄らないようにしていました。それなのにまさかエンジン関連で制御担当になるなど、夢にも思いませんでした」
とはいえ自ら望んだエンジン部門だから、いまさら嫌とは言えない。先輩たちに教わりながら、エンジンを制御するプログラムコードをひたすら書き続けていった。幸いコードを書くのは大学時代からの得意分野である。さらに基本的にシミュレーションしかできなかった大学とは違い、マツダではコードを書けば、その結果を実際にエンジンを動かして確認できる。これには大きなやりがいを感じた。
「いろいろ携わらせてもらった中でも強く印象に残っているのが、2006年にパワートレイン開発本部に異動して関わったSKYACTIV-Gエンジンの開発です。これは当時の量産ガソリンエンジンとしては、世界初の高圧縮比14.0を実現しました。その結果、エンジンの燃焼効率を大幅に向上できて、燃費が従来比で15%アップしたのです。もちろんエンジンの制御システムも従来のものとは一変させました。ガソリン車でこれほどの低燃費を達成したのはマツダだけです」
EV化で一変する車のつくり
これから電気自動車が普及すると、カーライフはどのように変わるのだろうか。車の基本的な構造が一変し、結果として車の使い方や付き合い方も大きく変わる。「だからこそ新しい価値観を創り出したい」と今田さんは語る。
たとえばモーターはガソリンエンジン出力率が高い。そのため同じ出力なら、ガソリンエンジンよりも大幅にコンパクト化でき、その分だけ室内空間を広くとれる。そのスペースをどう活用するか。運転制御に関しても、モーターのほうが緻密にコントロールできる。さらにAIが車を変えていく。
「AIの役割はまず、人に寄り添う方向で高まっていくでしょう。たとえば運転中のドライバーの表情を、AIがきめ細かくチェックして、事故につながりかねない予兆をいち早く検知する。仮に注意力が散漫になっていたり、体の不調を発見すると、AIが直ちに対処するのです」
期待がふくらむ一方で少なくとも当分の間は、AIにはできない作業も残されると今田さんは強調する。なかでも決定的なのがAIを動かすためのデータ作成、それも良質のデータ作成である。
「2045年に予想されているシンギュラリティ、つまりコンピュータが人間を超えるまでは、コンピュータを動かすためのプログラムやデータは、人間にしか提供できません。だからこそ、人は人にしかできない新しい発見やより良い達成目標づ
くりなどに集中すべきです。その代わり、機械でもできる作業ならAIなどにどんどん任せればよいのです」
どれだけAIが進化していくとしても、AIを動かすためのデータづくりは、当分の間は人が担うしかない。
「それが、これからの自動車づくりを支える若い人たちにとって、何より大切な仕事になるでしょう」と今田さんは結んでくれた。
Q&A
EVは省エネに最適なのでしょうか?
まず、自分でひととおり調べてみましょう。EV自体は確かにCO2を出しません。でも充電する電気や電池を作るプロセスではどうでしょうか。情報を検索するときにはフィルターバブルに注意し、自分の考え方の枠を広げるよう意識してください。
AI活用は、やはり理系でないと難しいでしょうか?
コンピュータの「言語」やプログラムの「文法」、この言語と文法は文系のことばです。つまりAIの研究者にも文系出身の人がいます。理系だけでなく文系の知識も磨いて、マルチタレントを目指すべきだと思います。