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ウェブプロデューサー 編

 1998年の創業以来、常にトップを走り続けているウェブ制作会社がある。それが株式会社カヤックー通称「面白法人カヤック」である。わずか3名で創業した同社は、今や200名を超える社員を擁する上場企業に成長。「面白さ」を追求する仕事のあり方とはいかなるものなのか? 同社でウェブプロデューサーとして活躍する兼康希望氏と創業者の一人である柳澤大輔氏に話を伺った。

楽しく働くを実践しながら「面白アイデア」で社会を変えていきたい

株式会社カヤック
企画部 プロデューサー

兼康 希望  (かねやす のぞみ)

1986年 愛知県生まれ
2005年 愛知県 私立 名古屋高校 卒業
2009年 早稲田大学 商学部 卒業
同年   株式会社カヤック 入社
     デザイナー、ディレクターを
     経て現在に至る

給料はサイコロで決めます 「面白法人カヤック」ってどんな会社?

 鎌倉に本社を置く「面白法人カヤック」は、1998年に学生時代の友人三人が集まって作ったウェブコンテンツ制作会社である。日本におけるITベンチャーの先駆けであると同時に、現在200名あまりのウェブクリエイターを擁するトップランナー企業だ。その事業内容は大きく同社オリジナルのソーシャルゲームやアプリを提供する「自社サービス」の開発と、企業からの依頼を請け負う「受託事業」とに分かれる。

 「受託事業は、企業から依頼を受けてウェブ広告を制作する仕事です。最近ではイベントや広告プロモーションだけではなく、採用サイトや商品開発のお手伝いなども行っています。仕事の領域はどんどん広がっていますね」

 そう語るのは同社の企画部でプロデューサーを務める兼康希望だ。もともと兼康は「ナガセ広報研究所」の第一期生。同研究所は、東進ハイスクール・東進衛星予備校を始めとする大学生の人財育成機関であると共に、ナガセグループのウェブサイト制作と広報活動を行うオフィスで、学生は全員が早稲田大学の現役大学生である。

「そこでウェブ制作現場における仕事の流れを経験して、就職活動中に出会ったのがカヤックでした。当時から、カヤックでは“24時間働いて24時間遊ぶ”とか、サイコロを振って給料の一部を決めるといった面白い取り組みをしていました。働くことと楽しいことがつながっている。そこに魅力を感じて入社試験を受けてみることにしたのです」

 実際に入社してみると、まさに「毎日が文化祭の準備をしているようだった」と兼康は振り返る。

「当初、私はデザイナー志望で入社したんです。こちらも独学で勉強したのですが、まわりは美大出身の人間がほとんどで、小さい頃からずっと絵を描いているという人たちばかり。正直、彼らとの実力差を感じましたし、焦りや挫折感も味わいました」

目標はどれだけ〝バズる〞か 世界初の映画連動アプリで観客動員アップ!

 そんななかで兼康は、自分はデザイナーよりもディレクターのほうが向いているのかもしれないと考えるようになる。「現在はプロデューサーという立場で、社内外含めてのスタッフの調整や予算、スケジュール管理などを担っています。たくさんのスタッフのマネジメントをしながら最高のものを作りあげるのが、私の責務です」

 ただし、ウェブコンテンツの制作は「最後の最後まで試してみないとわからない」という難しさがある。

「例えば、『貞子3D2』というホラー映画のアプリを開発したときのことです。初期の頃は、映画のシーンに合せてスマホが震える仕掛けなどを考えたのですが、これがまったく怖くない(笑)。そうした焦りからスタートして、実際に使用したものの四倍ぐらいのアイデアを出しては、作り直しをしました。早くに問題点に気づいて、試行錯誤を繰り返すことができるか。これがウェブコンテンツ制作の成功の鍵なのです」

 結果的にこのアプリは、音認識によるオフライン環境下での劇中とのシンクロに成功。登場人物が電話をかけると観客のスマホに電話がかかってくる、といったこれまでにない仕掛けが大きな反響を呼んだ。

「弊社の場合、どれだけ、バズるか?ということを面白さの目印にしています。バズる?とは、Twitterなどのソーシャルメディアでどれだけ話題にされて拡散されるかを意味します。例えば『貞子3D2』スマ4Dの場合、映画を観終えたその日に貞子から電話がかかってくる仕掛けを施しました。それが死ぬほど怖い!とつぶやいてくれた方がたくさんいて、今度はそのツイートを見て、じゃあこの映画を観てみようという流れができました。最初はアプリ開発からスタートしましたが、それが広告効果にもうまく波及していったんです」

人類以外採用 !? 企業のCSR活動でも面白さを追求!

 先述したように、兼康の仕事は映画や新商品のPRに留まらない。最近では企業の社会貢献活動(CSR)を手伝うこともある。ここでも追求するのは、やはり「面白さ」だ。

「例えば、飲料メーカーのサントリーさんは2003年から森を作る活動をしています。日本全国で8000ヘクタールという広大な土地を管理していて、2020年までに12000ヘクタールにまで拡張する計画です。ただし、社会貢献だけを打ち出しても、なかなか人は興味を持ってはくれません。いかに興味を持ってもらえるような企画にするか。そこで提案したのが〝人類以外採用?というメッセージでした。ちょうど企業の新卒採用の時期でもありましたので、森に住む動物たちを社員に見立ててみたんです」

 実際にウェブサイトを訪れてみると、マウスのポインタの動きに合せて水面のように画面が揺らいだり、ツキノワグマやクマタカ、ミツバチたちが「先輩社員」として並んだりユニークなページになっている。試しに「採用情報」をクリックすると「緊急募集」として「鹿が食べない草木」とある。鹿などの獣害対策も、森作りのための課題であることを知ってもらうための仕掛けだ。このキャンペーンサイトも、ネット上でたちまち話題となった。大手飲料メーカーであるサントリーが人類以外を採用するという意外性が、多くの人々の目を引きつけたのだ。

 もちろんこうした仕事は、一人ではできない。通常、五名から十名のチームで行うということだが、そこで大事なのは「上手にケンカする」ことだと兼康はいう。「不満をずっと抱えたままではいい仕事はできません。早い段階で思っていることをぶつけ合う。上手にケンカできるチームは、そのあとものすごく強くなります」

 プロデューサーとしてチームを率い、「アイデアで世の中を変えたい」と語る兼康。その胸中には「“何をするか”より“誰とするか”」を重んじるカヤックのDNAが着実に息づいている。

面白法人の原動力は「ひと」へのこだわり

株式会社カヤック代表取締役CEO

柳澤 大輔  (やなさわ だいすけ)

1974年 香港生まれ
1992年 東京都 私立 慶應義塾高校 卒業
1996年 慶應義塾大学 環境情報学部 卒業
同年   ソニー・ミュージックエンタテインメント 入社
1998年 合資会社カヤック設立 代表取締役 就任
2005年 株式会社カヤック設立
2015年 株式会社TOW社外取締役 就任
2016年 クックパッド株式会社社外取締役 就任

会社は面白くて楽しいところでなくてはならない

 「面白法人カヤック」の代表取締役CEOを務める柳澤大輔は、創業以来、一貫して「ひと」にこだわってきた。同社が大切にしてきた「何をするかより誰とするか?」「つくる人を増やす」「面白法人」といったキーワードは、いずれも「ひと」に関わることばかりだ。

 「何の事業をやるかはあとで考えればいいことです。それよりも、一緒に仕事をする仲間がなによりも大事だというのが弊社の考えです。会社は面白くて楽しいところなんだと思えるひとをもっと増やそうという理念は、創業時から変わっていません。サイコロを振って給料を決めるのもその一つです。まずは自分たちが面白がろう。自分たちが面白い人になろう。そして誰かの人生を面白くしよう。それが面白法人と謳っている理由です」

 だからこそ柳澤は、現在も面接の現場に携わる。人事部が柳澤の直轄であることも、いかに人材を重要視しているかの証左だ。「経営者として全体を統括するのが役割ですが、会社が大きくなってひとが増えてくると、それぞれに年齢も価値観も違いますからいろんな矛盾も出てくるんです。そのうえでどうやって皆をまとめていくか。それが面白い」

 

面白サービスの源泉は「ブレスト」にあり!

 ただし会議の場は嫌いだと、柳澤は苦笑する。「でもそれも面白がろうと、気持ちを切り替えてブレストの場にしてしまいます。そうすれば楽しくなりますから」。「ブレスト」とは「ブレインストーミング(brainstorming)」の略で、集団でアイデアを出し合う会議の進め方を指す。この「ブレスト」も、カヤックがこだわってきたスタイルの一つだ。

 「ブレストは意見をまとめることが目的ではありません。どれがいいアイデアかを決めるのは後回しでいいので、とにかくたくさんアイデアを出す。相手を肯定し、場合によっては乗っかる。質は問わない、量を出す。これが基本です」。実際にカヤックのサービスは、すべてこのブレストから生み出されている。小さなアイデアが思いもよらない新たな発想へと広がる醍醐味は、仕事へのモチベーションをアップさせ、質の向上へとつながっていく。ブレストはまさに、カヤックの原動力だ。

 「最近は、教育現場で実際にブレストの授業を行ったりしています。学生たちの反応はとてもいいですよ。彼らは考え方が柔軟ですから、短時間で習得してしまいます。若いうちは、とにかくがんばることが大事。そのうえで社会に出れば、可能性が広がります。その日を今から楽しみにしているといいと思いますよ」

Q&A

仕事をするうえで手放せない「三種の神器」は?」

 「MacBook Air」「iPhone」「フリクション」です。MacBookAirは、これひとつあれば仕事のすべてが完結するので重宝しています。MacがないときはiPhone。これがあればアイデアや企画は考えられます。フリクションは、書いて消せる筆記具です。紙に書いて悩むときは、これ!

商学部での勉強はどのように生きていますか?

 ウェブ制作の仕事は、依頼主である企業のビジネスを理解していないとできません。企画も浅くなってしまいます。その点、商学部でマーケティングの基礎を学べたことは、今の仕事につながっていると思います。

英語力は必要でしょうか?

 海外の人と打ち合わせをする機会もありますので、英語力を求められるシーンはけっこうあります。いきなり自己紹介をお願いしますといわれると、学生時代にもっと英語を勉強しておけばよかったと痛感します。

起業するなら早いほうがいい?

 早く始めれば早くやっただけの経験を積むことができます。本当に起業したいのであれば、早いほうがいいです。若いときのほうが失敗もできますし、体力もあります。

起業して大変だったことは?

 二十年前はベンチャー企業も少なかったですし、お手本がなかったんです。道なき道を進んで、自分で少しずつ成功体験を積んでいくしかありませんでした。大変でしたけど、それが面白かった。

プログラムの勉強はいつぐらいから始めるべき?

 プログラムを書くエンジニアというのは、ある種の天職だと思います。おそらくそういう人は高校生ぐらいの頃から始めていると思います。厳しい言い方かもしれませんが、社会人になってからでは遅い。それぐらい特別な職能です。

新卒採用と中途採用とはどちらが多い?

 半々です。そもそも弊社では新卒と中途の区別が明確ではありません。いずれも即戦力を期待していますから。入社すると区別はありませんし、気になることもありません。