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建築士 編
「建築士」とは、私たちの生活に身近な建物の設計・監理を担う「士業」だ。難しい国家試験に合格して初めて携わることのできる職種なだけに、やりがいも大きく責任も重い。そこで今回は、株式会社佐藤総合計画 都市再生室長・川田一栄氏にご登場いただく。知っているようで知らないダイナミックな建築士の仕事内容や、変わりゆく日本の建築の現在などについてお伺いした。
人々から長く愛される建築を目指して「再生」と「持続可能」へ移り変わる建築の世界

株式会社 佐藤総合計画 執行役員
都市再生室長 一級建築士
川田一栄 (かわたかずえい)
1951年 栃木県生まれ
1970年 栃木県立 鹿沼高校 卒業
1975年 早稲田大学理工学部建築学科 卒業
同年 旧佐藤武夫設計事務所(現佐藤総合計画) 入社
2000年 中部事務所長
2010年 本社設計室長
2013年 都市再生室長
現在に至る
一人前になるには最低10年!設計と現場がカギを握る「建築士」の仕事

もちろんそれらのイメージは正しいが、いずれも建築士の仕事の一部でしかない。
「建築士の仕事には、大きく分けて二つがあります。一つは建物の設計図を作ることです。二つ目は建設現場に赴き、実際に設計図通りに工事が行われているかを確認・監理することです。安全な建物を建てることはもちろん、さらに大きな都市環境づくりに携わっていく。それが建築士の仕事です」
そう語るのは、佐藤総合計画の一級建築士である川田一栄だ。
日本の場合、一定規模以上の建築物の設計・工事監理業務に携わるには、国の定める資格(一級建築士、二級建築士、木造建築士)が必要だ。現在、社会の変化によって建築の世界も多様化してきており、建築士の仕事の幅は広がってきている。活躍の場もさまざまで、ゼネコンと呼ばれる総合建設業者から大規模な都市開発を手がけるディベロッパー、ハウスメーカーなど多岐にわたる。そうしたなかで、設計と監理を専業で行っているのが、川田が所属するような建築設計事務所なのだ。
「建築士は、設計と現場の監理の両方ができて初めて一人前といわれています。今は一人前になるまで10年以上かかるでしょう。それだけたくさんの現場を知らないと、いい設計もできないのです」
40年余りのキャリアを持つ川田の言葉には、強い説得力がある。
「コンクリートは生き物だ」現場で知った〝段取り?の大切さ

「高校生の頃は、物理や化学の研究者になろうと考えていました。けれども、よくよく考えたらストイックに研究を究めるというのは、自分の性格に合わない点が多くあるように思えてきました。また、高度経済成長期ということもあり、ちょうど建築が脚光を浴びている時代でもありました。次々と誕生する多くの建築に魅力を感じていたので、進路を建築学科に決めました」
そして早稲田大学理工学部建築学科(現在は創造理工学部建築学科)に入学。設計を志してからの川田に迷いはなかった。先生や先輩たちとの議論に興じ、ときにはお互いの設計を競い合ったりもした。「建築の魅力を感じられる環境があった」――学生時代を、川田はそう振り返る。
卒業後は、現在の事務所に入社。「公共性の高い分野で仕事がしたい」と考えていた川田にとって、庁舎や病院、音楽ホールなどの公共建築物を多く手がけていた同社は、かねてからの希望に沿うものだった。
「入社当時は、階段やトイレの詳細図などを任されました。駆け出しの建築士は、たいていそうした細部の図面からスタートします。そうすることで、建設の設備や納まりなどを理解します。そこから数年をかけて、全体の図面をまとめたり、現場監督を務めたりしながらキャリアを積んでいくわけです」
とりわけ、「現場」の大切さを実感したのは、10年目のとき。ある文化会館を手がけたときだった。ホールの壁をコンクリートの打放しで仕上げようとした川田だったが、コンクリートの型枠を外して完成を見たとき、想定していた状態と大きく違っていたのだ。
コンクリートの表面が理想とする状態ではなく、川田が設計したイメージとは違っていた。そこから、薄いペンキをかけてイメージに近づける施工を加えた。
「コンクリートはとても繊細なものです。まずその日の温度湿度を考慮したうえで、つくりたい状態を想定しながら調整して配合を行います。そのうえでコンクリートが綺麗に打てるように、必要があればコンクリートにバイブレータをかけます。そして、しっかりと試し打ちを行って状態を確認してから施工に入る。いくつもの確認が不可欠なんです」
「そのとき、コンクリートは生き物なのだということを痛感しました。設計上は問題ないものでしたが、私は現場監督でもあります。そのときは、正確に仕上げるための段取り、あるいはコンクリートの配合や気温に至るまで、目配りをしても、予想外のことが起こるものです。良いものを作るためには、現場で手を動かしている人のことまでしっかりと考えなければならないのです」
「設計」と「現場」は、建築の両輪。現場との信頼関係を築くことの重要さを、川田はこのとき痛感した。そのとき得た教訓は、後進にも必ず伝えるようにしている。完成まで紆余曲折を得た同ホールだが、後に大きな建築賞を受賞し、今でも地域に愛されているのが何よりも嬉しいと川田は語る。
地域住民に「優しい建築」とは何か沖縄の風土と文化を生かした浦添市庁舎の設計

「このときは百回ぐらい浦添に足を運びました。一時的な中断もありましたが、スタートから10年以上もの時間をかけました。しかも、古い庁舎を残しながら建て替えるという難しいプランを作らなければいけませんでした。そういう中で、現地の風土や文化に合った、理想的な建築とは何かを模索しながら作業を進めていきました」
実はこのデザインを考えるうえで、川田は現地のスタッフから、ある示唆を受けた。キーワードは「沖縄の優しさ」。では、沖縄に暮らす人々にとって、「優しい建築」とは何だろうか? 考えた末に川田の出した答えは、「強い日差しから人々を守る建築」だった。
「沖縄は日差しが強い。日中などは、暑くて日なたにいられないんです。ですから遠くから見たときに、たくさんの日陰があって、涼しそうだから入ってみたいと思ってもらえるような雰囲気づくりを心がけました。それが結果として、市民の憩いの場所になると考えたのです」
「沖縄の優しさ」が体現されたこの市庁舎は、地元の「景観賞」を受賞。川田の建築が、沖縄で生きる人々の心に響いた結果だった。
「人々の愛着は建築空間に残っている」目指すのは長く親しまれる建物

「しかし近年では、50~70年は残していこうという方向へと変化してきています。これまで設計で培った技術や経験を生かして、既存の建築物の改修を進めて新しい都市空間を創造する。それが現在の私の使命です」
では、後世に残る建築物の条件とは何だろうか。
「施主、設計者、そして建設会社の熱意と理解がまずは必要でしょう。それぞれがいいものを作りたいという思いを持たないと、できあがってからもあとには残りません。幸いにも、当社が手がけてきた建物は、大事に使っていただいているものが多いんです。長く親しまれる建築に関われるというのは、この仕事の醍醐味の一つでもありますね」
日本に近代建築が生まれたのは明治以降。それから百五十年余りが過ぎ、社会の成熟が進むにつれて、建築の世界も「再生」と「持続可能」という新たなステージへと移り変わろうとしている。それでも川田の「建築が好きだ」という気持ちには、微塵の変化もない。例えば、築30年あまりの建物を改修する際、川田はこんなことを感じることがあるという。
「それは、その建物が愛されていたという〝実感?です。人々の愛着というものは、きちんと建築空間に残っているものなのです。建物が声を発するわけではありません。けれども、これは大事にしてもらっているなというのは、見ればすぐにわかります。ですから、改修といって全部を新しいものに取り替えても、どこか味気ない。建設当初からの素晴らしい空間を、改修してもずっと残していくことが重要なのです。建築士に必要な力は、そうした〝実感?を感じることのできる感性なのではないのかと、自分に言い聞かせています」
幾多の建築を手がけてきたベテラン建築士は、虚心坦懐にそう語った。
Q&A
絵がうまくないと建築士にはなれませんか?

スケッチは、自分のイメージや考えを練り上げていくものであり、上手い下手は関係ありません。やっていくうちにだんだん上手くなっていきますよ。ただ最近は、製図もコンピューターで行うのが主流ですからスケッチを描く人も少なくなっているかもしれません。
好きな建築家はいますか?
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建築士とは
建築物の設計と監理を担う職種で、「木造建築士」「二級建築士」「一級建築士」の3つの資格に分かれる。扱う仕事内容はそれぞれの資格で異なり、「木造建築士」であれば、木造二階建て以下、延べ面積300平方メートル以下の木造建築物の設計や工事監理、「二級建築士」は延べ面積500平方メートル以下の建築物の設計や工事監理、「一級建築士」はそれを超える建築物を扱うことができる。
建築士になるには
上記国家資格の取得が必須。受験資格には「学歴」と「実務経験」に関連を持たせてあるため、自分がどの受験資格に該当するのか確認しておく必要がある。例えば「二級建築士」の場合、大学・短大・高専で指定科目を修めて卒業したものには実務経験が必要ない。一方、高校で指定科目を修めたものは、卒業後3年以上の実務経験、建築に関する学歴を持たないものは、実務経験7年以上が必要となる。