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法曹界

日本の検察機構の最上位機関である最高検察庁。そこで検事を務める佐久間佳枝さんは、自らの法曹としての軸を「正しくない強者に立ち向かい、正しい弱者を助けること」だと語る。

被害者に寄り添い少しでも不安や悲しみを和らげ

被疑者と真摯に向き合い心を開かせる

最高検察庁監察指導部長

佐久間 佳枝  (さくま かえ)

1963

福岡県生まれ。3歳のときに、4歳以上を対象とする保育クラスに編入し、泣いている5歳の男の子の手を引いて慰めながら通園した。小学校では1年生のときから毎年1学期の学級委員長を任されていた。

1979

福岡県立修猷館高校入学。中学時代は教師とそりが合わないながらも、コツコツと学習をして、高校に進学。

1983

九州大学法学部に合格。司法試験のための勉強に取り組む。

1995

検事任官。その後、福岡地検、東京地検などを経て法科大学院教員、司法研修所検察教官、東京地検刑事部副部長、法務省大臣官房施設課長、東京高検総務部長、山形地検検事正などを経て、2024年1月最高検察庁検事、2025年12月より同庁監察指導部長(現職)。








 

 検事が主人公のテレビドラマ『HERO』で注目を集めたこともあるとはいえ、検察庁の仕事内容は一般にはあまり知られていない。同庁のパンフレットには「検察の役割は、適正な捜査手続を通じて、刑事事件の事案の真相を解明し、真に罰すべきものがあれば、これを起訴し、その者の犯した罪に見合った刑罰が科されるように公判活動(裁判)を進めていくことにあります」と記されている。

 

 つまり、刑事事件の真相を明らかにし、罪を犯した者に対して刑罰を適用して社会秩序を守る、これが検察の役割だ。具体的な業務内容は、事件を捜査し、起訴するかどうかを決め、法廷に立って裁判を遂行すること。この仕事に取り組む佐久間佳枝さんは「単純な表現で言えば、『やられた側に立つ』視点を持つことをモットーにしています」と語る。 

 

 被害を受けた人の心に刻まれた傷は、簡単に癒やされたりはしない。だからこそ、捜査を尽くすことで、せめて、被害者の不安や悲しみを少しでも和らげたい。被疑者に対しては、犯した罪に見合い、かつ、社会が納得する刑罰を受けさせる。 


 「もちろんできることには限界があり、自分を万能だなどとは思ってはいません。そのうえで捜査を進めるときには、被疑者との関係性も大切にしています。何よりまず真相を話してもらわなければなりません。そのために心がけているのが、相手と真摯に向き合って話を聞く姿勢です。本当のことを聞きたいという熱意と誠意が伝わると、相手が心を開いてくれる場合もあります」


 気持ちの通じた被疑者からは後に「お世話になりました」「人生を真面目にやり直します」とメッセージの添えられたお礼状が届くこともあるという。

幼い頃からのリーダーシップ 理不尽な目にあった中学時代

 佐久間さんは1963年、福岡で生まれた。子どもの頃からリーダーシップを発揮するタイプで、小学校1年生から6年生までずっと一学期の学級委員長を任されていた。ところが中学生のとき、担任の先生から思わぬ誤解をかけられる。


 「当時の時代背景もありますが、おまえは髪の毛にパーマを当てているだろう、と一方的に決めつけられました。もちろん校則違反のパーマなど当てるはずもなく、いわゆる天然パーマだったのに理解してもらえませんでした」

 パーマを取ってこいと命じられて、ストレートパーマを当てる。それでも時間が経つにつれて、元の天然パーマが出てくる。すると「またパーマを当てたのか」と責められ、頭に水をかけられたことも。中学生ながら社会の理不尽を実感した。それでも成績は上位、教師からすれば言うことを聞かないくせに成績には文句をつけられないという、何とも扱いにくい生徒だった。


 高校は福岡県の名門、修猷館高校に進学。自由な校風の中、中学時代に直面した理不尽な状況は解消され、いずれは人の役に立つ仕事をしたいと考えるようになった。もっとも「とは言いながら50’sのロックンロールが大好き、ポニーテールにリボンを巻いて踊っていたりもしました」と高校時代を振り返る。


 大学進学を考える頃には、将来の仕事も見据え、法学部を選んだ。漠然と考えていたのは、困っている人の相談に乗るような仕事、ただし組織に属すのは向かないタイプだから、自分一人の看板でやっていける弁護士を思い浮かべていた。


 九州大学法学部に進学し、卒業が迫ってきた頃、たまたま学食で同級生から言われた言葉が今でも頭に残っているという。その同級生は、中学、高校と机を並べていた幼なじみだった。


 「お前、大学出てどげんすっとや」と尋ねられ「司法試験、受けようと思っとっちゃんね」と答えた。すると「あれは頭の良い奴が受けるっちゃないや。お前、頭良かったや?」と笑われ「まぁ、あんたぐらいやね」と返す。「おれと同じやったら無理やろ」と言われて「私がOLになれるとでも思っとうと?」と言うと、相手は納得したように黙った。選択肢が一つに絞られたように感じた瞬間だ。

検察官が見抜いた対人能力の高さ

 司法試験に向けた勉強に取り組んではみたものの、当時の司法試験は狭き門であり、簡単に合格できるものではない。それでも何とか合格し、所属する弁護士事務所もすんなりと決まった。ところが、そのまま弁護士へとは進まず、現在へとつながる道が開かれていった。司法試験合格後に受ける司法修習では、各自が配属される地方において、裁判所、検察、弁護の三つの実務修習を経験するが、検察修習を受けたときに、福岡地検の幹部から、検察官になるよう誘われた。


 「検察修習は素晴らしかったのですが、公務員に興味がなく、中学のときに上から抑えつけられた経験もあって、組織で働くことは想定外だったので、最初は速攻で断りました。それでも何度も誘われ、裁判官からも、検事はいいぞと説得されました。そのうえ、大学1年のときからずっと可愛がってくれていた女性の先輩で検事として働いていた方からも『検察には私がいるから安心していいよ』と言われ、さすがに進路を迷い始めました」


 一連の勧誘攻勢にとどめを刺したのが、福岡地検で受けた検察修習で指導してくれた検事から届いた分厚い手紙だった。


 「その手紙の最後に次のように書かれていたのです。“いま私と君は指導担当検事と修習生という間柄だ。けれども来春からはぜひ君を同僚と呼びたい”。これ一発で心が決まりました。当時はまだ女性検事は少ない時代でしたが、そのなかにあって、10年も上の年次の先輩が、私のことを同僚と呼びたいといってくれる。検察とはきっとフラットな職場なんだろうと思ったのです」


 改めてなぜ、そこまで熱心に誘われたのかと考えると、思い当たるフシは対人能力に行き着くと語る。


 「検事とは、相手に心を開いてもらって初めて成り立つ仕事です。被疑者の場合、自分が不利になる話でも、正直に話してもらう必要があります。そのため、たとえ緊張感のある場面でも、相手の心が柔らかくなるような働きかけをすることが大切です。今から振り返れば、そのような素質があると見込まれていたのかなと思います」

人の人生を預かる仕事

 検察官として仕事をするためには、どのような能力が求められるのか。対人能力を分解すれば、想像力と洞察力に尽きると佐久間さんは語る。


 「私の言葉を相手がどのように受け止めるのか。私のことを、相手はどのように感じるのか。被疑者も、自分が不利になることは避けたいのが本音ですから、いつでも正直に話すわけではありません。そういう場合、相手の視点に立って、もし私がこの人ならどうするかという想像力をフルに働かせます。そうすることで、相手の心の中が見えてきます。そのための鍵になるのが、洞察力です」


 加えて検察は必ずチームで動くため、責任感や連帯感も欠かせない。では、そのような力を養うために、たとえば高校生は何を心がければいいのだろうか。答えは「特別に何かする必要などありません。ごく普通に友人と付き合い、喧嘩したり仲良くなったりしていくなかで、必要な力は養われます」と佐久間さんは語る。

 

 ただし、ここでいわれる「普通」とは、スマホばかりを見ている生活ではない。あくまでもリアルに人と付き合うのが、佐久間さんの語る「普通」の生活だ。


 「大切なのはリアルです。友人と面と向き合って仲良くなり、ときには、感情をぶつけ合って泣いたり笑ったりしてほしい。喧嘩してもいい。生身の人間と付き合うことは実に面倒ですが、私たちがAIではなく人間である以上、それは不可欠なことです。AIを相手に、自分の都合に合わせた心地良い会話ばかりしていては、想像力や洞察力などは育たないと思います」


 検察の仕事は、けっしてAIに取って代わられるようなものではない。先入観無しで人と接しながら、相手の言葉を聞いて常に「そうではない」場合を想像しないと被疑者とは話せない。被害者に寄り添いながらその気持ちを少しでも安らかにし、一方では被疑者の心を開かせて真相を話してもらう。検察とは、これからもずっと人にしかできない仕事だ。

Q&A

難関の司法試験に合格するための勉強法は?

 勉強のやり方には王道があります。正しい努力をすれば道は近く、自分勝手に手当たり次第に勉強するとゴールは遠ざかります。まずハウツーを理解している先生の話を聞き、成功した先輩からは失敗談を学ぶのがベストです。

勉強や仕事でどうしたら力を発揮できる?

 何ごとも本番で100%の力を発揮できたりはしないものです。緊張するなかで出せる力は、せいぜい7割程度。だから準備段階では常に120%を心がけるのがおススメです。それだけやっていれば、本番で120×0.7で8割以上の力を出せるはずです。